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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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「僕はたぶん、もう時間」
レンは少し寂しそうににっこり笑った。
首にかけていた懐中時計のフタを開け、やっぱり…と小さく呟く。
その左の瞳はいつの間にかまた、金色に輝いていた。
「見届けられないのはざんねんだけど…でも、お姉さんならだいじょうぶだよね!」
「……何だかよく分からないけど任せときな。こいつらを土産に領主の屋敷でひと暴れしておくよ」
女はふん縛った男たちを横目に、とんっと棍を肩で弾ませる。
雪はまた少し弱まっていた。
強くなる前に下山するのが吉だろう。
さすがに彼女も、吹雪の中お荷物2人抱えて山を降りるのは自殺行為だと思った。
「うん。次、もしここに来たら…そのときは鳥がもういないといいなぁ」
レンは懐中時計のフタをぱちんと閉めると、倒れている妖鳥をちらと振り返る。
証明を持ち帰る必要もなくなったので、それはそのまま放置されていた。
「居ないよ。私がさせない」
女はふっと微笑を浮かべると、棍を持っていない方の手を少年に差し出した。
レンが不思議そうな表情を浮かべて見上げてくるのに、照れくさそうな顔になる。
「約束の握手。あんまりガラじゃないけど、まあたまにはね」
その言葉を聞いて、レンがぱあっと破顔した。
自分の手を開いて左右を見比べると、もう一度彼女を見上げて…そして両手でその手を取る。
「じゃ、僕も。またお姉さんのいる時間に帰ってこれるように…!」
レンの言葉はやっぱり女にはよく分からなかったが、少年が嬉しそうなので問い返すことはしなかった。


少年に見送られ、男たちを追い立てるようにその場を後にしようとして。
女は忘れ物に気付く。
慌てて振り向くと、少年はまだこっちを見ていた。
「レンーっ」
女は手でメガホンを作り、少年に向かって怒鳴った。
レンがきょとんと首を傾げるのが見える。
「私の名前は那智って言うんだ!覚えといてー!」
一応、命の恩人なのだし。自己紹介ぐらいはしておいても構わないだろう。
分かった、という風にレンが笑って手を振った。
それを見届けて、女は再び麓を目指して山道を下りていく。


それを小さくなるまで見送って…レンはふうと息を吐いた。
「この約束も…また果たせないかなぁ」
懐中時計を手に取り、もう一度フタを開く。
その時計の針が示す時間は、同じ箇所を指していてもいつも微妙にズレている。
レンはふわりと落ちてくる雪を感じながら目を閉じた。
『意味なんかないんだよ。どこにも』
そう言ったのは前にこの場所に来たとき。
そこに居た女は、レンの話をまともに聞かずに妖鳥の羽根を持って山を下りていった。
次にいつかまたここに来る時。
その時はどうなるのだろうか?
淡い光が少年の身体を包み…そしてふっと消えた。
そこにはもう誰の姿もなかった。

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