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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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俺はある噂を聞き、テコンドウという小さな村に来ていた。
大陸南西部にある、森の近くの本当に小さな村だ。
しかし、その“森”には強力な『魔獣』という獣が生息しているらしい。
俺の興味を引いたのは、それに付随するもう一つの噂の方だった。
何でも、『魔獣王リリス』とかいう10歳に届くか届かぬかという少女が、その魔獣たちを従えているのだという。
そしてその少女に認められれば、強力な魔獣を従える力を得られるというのだ。
面白い・・・。俺はその『力』に興味を覚えて、口の端を上げた。
力はいくつあっても困ることはない。
むしろ今の俺には果たさなければならない目的があり、そのために強大な力が必要だった。
俺はその前に訪れた町で入手していた地図を頭の中に叩き込み、いつものように必要最低限の荷物で森へと足を踏み入れた。

暗く深い森。
生い茂った木々が空への視界をも遮り、その天然の明かりさえもほとんど届かない空間を作り出している。
危険な獣が出るのであれば、もちろんこの森で狩りをするような命知らずな猟師も居ないのだろう。
時折聞こえる獣の声、葉ずれの音以外は森の中は静かなものだった。
人の気配を察知したのか、はたまた別の理由か、鳥たちが一斉に羽ばたく音が聞こえ、そしてまた静寂に戻る。
「・・・・・・こういうのも悪くはないな・・・」
俺は知らず呟いていた。
闇も静寂も嫌いではない。むしろ心が落ち着く・・・自分と周りとの境目さえも溶けてしまいそうなそんな心地好さを感じる。
それは俺自身がそこから生まれ、そこに還る存在だからなのだと、俺は勝手に思っていた。
俺は母親の体内からは生まれず、ある少年の体組織を元に人の手によって造り出された生き物だ。
そしてまた、創造主の思い通りの結果が得られなかった失敗作でもあった。
俺は手に馴染んだ棒杖に目を落とす。
これは俺の元になった少年が使っていたというものだ。
俺を失敗作なりに利用しようとしていたある組織から逃げ出すときに、ただ一つだけ持ち出したものだった。
少年は年の割りに強力な力を有した魔術師だったという。
なら俺も、強い力を有せばホンモノになれるのだろうか?
失敗作ではなく、紛い物ではなく、必要とされる一つの存在になれるのだろうか?

ふと静けさに慣れた耳が水音を聞きつけた。
せせらぎか・・・それとも泉でもあるのだろうか?
水のあるところに獣は集まるはずだ。上手くいけば何か手がかりが得られるかもしれない。
俺はそちらの方向へ足を向けた。
その時だった。
「グルルル・・・」
木々の間から、銀色の毛並みの狼が姿を現す。
狼は群れで行動するもの。果たしてそのあとに続くように、1匹、また1匹とその数が増えていく。
「・・・ちぃっ」
俺は小さく舌打ちした。
狼に限らず獣は火を嫌うことが多い。
得意の火の魔術で一気に片を付けたかったが、こんな風に草木が密集した場所で炎を爆発させることは別の意味で命取りになりかねなかった。
杖と荷物を近くの木の根元に放り出し、俺は腰のベルトに差していた短剣を抜き放つ。
大して鋭くもなくリーチの短い武器1本・・・どう考えてもこちらの方が圧倒的に不利だ。
俺は短剣で何度か飛び掛ってくる爪や牙を受け流しつつ、出来うる限り囲まれず、狼たちも飛び掛りにくいと思われる地形へと彼らを誘い込んだ。
杖がなくても魔術の形成に問題はない。
短剣を走らせ相手との距離を保ちつつ、ピンポイントで狙える魔法弾や重力網で一匹一匹確実に無力化していく。
そうして何匹かを仕留めた辺りで、さすがに残った狼たちもそれ以上続ける愚を悟ったのだろう、それぞれに身を翻し、森の奥へと逃げ去っていった。
「・・・意外に消耗したな・・・・・・」
俺はそれを深追いすることはせず、苦笑いして荷物を投げた場所へと戻る。
どこも同じように見える森の中。しかし俺は何とか迷わずに元の場所へとたどり着き、そして当初の予定通り水音のする方へと向かったのだった。

続く

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