ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
カテゴリー
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
★今回は一部残虐(?)な表現があります。
苦手な方はお気をつけください。
4、「傷痕」
何がどうなったのか…一瞬分からなかった。
強い風圧ですべての音が消え、降り注いでいた太陽の光さえ吹きちぎったようなそんな錯覚を覚える。
しかし、もちろんそれは錯覚だった。
「………」
レンはいつの間にか閉じていた目をそろそろと開ける。
冬の太陽が優しく光を投げかける中、沢山の白や灰色の羽根が舞っていた。
その中を大きく駆け抜ける白い翼。
彼は格闘技…というよりはもっと洗練された繊細な動きで人の間を縫い、奪ったらしい短剣を逃れようとしていた昨日の老人の背中に突き立てる。
「……ぁ…」
飛び散った赤い飛沫に、レンは目を見張った。
老人の灰色の羽根が斑に赤に染められて、低く呻いた老人は地面に崩れ落ちる。
昨夜檻越しに交わした老人の言葉が脳裏に蘇った。
『その男は重罪人だ』
能面のように表情を殺した男の横顔が、急に怖くなる。
何か間違ったことをしてしまったのではないかという恐怖が、じわじわとレンの胸に染み渡っていった。
男は血に濡れた自分の手を見下ろした後、ちらりとレンへと目を合わせてくる。
静かなその瞳はとても、ついさっき人を刺したようには見えない。
「…なんで……?」
思わず呟きがレンの口から零れた。
「そのひとが悪いことをしたの?それとも…」
ざわり、と胸が騒ぐ。
周囲に目を向ければ、子供を強く抱きしめて庇おうとする母親や家族を守ろうとする男たちの姿が見えた。
もしこの人たちが何か彼にしたのだとしても…それが相手を傷つける理由になるのだろうか?
「…あいつを傷つけるやつらなんか滅んでしまえばいい」
男から返ってきたのは答えではなかった。
老人や物見人たちが投げかけてきた蔑みとか嫌悪を含んだ視線や言葉は、この男に向けるのと同時にその上に誰かの影を重ね合わせていたのだと、その時ようやくレンは気づく。
おそらくそれは昨夜、あの老人が口にしていた「呪われた娘」…男の妹のことなのだろう。
でも。
「…ダメだよ、お兄さん」
レンは男に向けて一歩踏み出した。
「たとえ相手が死んでも、傷ってなくならないんだ。そんなことしても何も救われないよ」
疎まれた傷は受け入れてもらうことでしか癒せないのだと、レンは伝えたかった。
実親に捨てられたらしいというまだ傷は癒えないけれど、レンには拾って育ててくれたおじいちゃんが居た。
この色違いの瞳を見たときに奇異の視線を向ける人が居ることにまた傷つきながら、それでも特別扱いせずに普通に話しかけてきてくれる人も居ることに少しでも救われた。
「そんな方法じゃ、お兄さんの傷も大事な人の傷もなくなら…」
「…何も分かっていないくせに、聞いた風なことを言うな」
その時、男がピシャリとレンの言葉を遮った。
地に伏したまま呻いている老人の肩口を足で踏みしめ、突き立ったままの短剣を勢いよく抜き去る。
ビシャリ!と先程以上の血飛沫が飛び散った。
一際大きな呻きを上げた後、意識をなくしたのか老人の身体から力が抜ける。
レンは唇を噛んだ。
たとえ致命傷でなくても、このままでは老人は死んでしまうだろう。
男はその横腹を蹴って老人の身体を転がすと、興味をなくしたようにレンに向き直る。
血に塗れた短剣の切っ先がレンの方を向いた。
「…僕も刺すの?理由のない人殺しまでして、それでお兄さんは満足?」
先程まで感じていた恐怖が、すうっと嘘のように引いていた。
レンは男の目をじっと見上げたまま、一歩また一歩と歩を進める。
短剣の先からぽたりと落ちた赤い雫が、地面に丸い染みを作った。
苦手な方はお気をつけください。
4、「傷痕」
何がどうなったのか…一瞬分からなかった。
強い風圧ですべての音が消え、降り注いでいた太陽の光さえ吹きちぎったようなそんな錯覚を覚える。
しかし、もちろんそれは錯覚だった。
「………」
レンはいつの間にか閉じていた目をそろそろと開ける。
冬の太陽が優しく光を投げかける中、沢山の白や灰色の羽根が舞っていた。
その中を大きく駆け抜ける白い翼。
彼は格闘技…というよりはもっと洗練された繊細な動きで人の間を縫い、奪ったらしい短剣を逃れようとしていた昨日の老人の背中に突き立てる。
「……ぁ…」
飛び散った赤い飛沫に、レンは目を見張った。
老人の灰色の羽根が斑に赤に染められて、低く呻いた老人は地面に崩れ落ちる。
昨夜檻越しに交わした老人の言葉が脳裏に蘇った。
『その男は重罪人だ』
能面のように表情を殺した男の横顔が、急に怖くなる。
何か間違ったことをしてしまったのではないかという恐怖が、じわじわとレンの胸に染み渡っていった。
男は血に濡れた自分の手を見下ろした後、ちらりとレンへと目を合わせてくる。
静かなその瞳はとても、ついさっき人を刺したようには見えない。
「…なんで……?」
思わず呟きがレンの口から零れた。
「そのひとが悪いことをしたの?それとも…」
ざわり、と胸が騒ぐ。
周囲に目を向ければ、子供を強く抱きしめて庇おうとする母親や家族を守ろうとする男たちの姿が見えた。
もしこの人たちが何か彼にしたのだとしても…それが相手を傷つける理由になるのだろうか?
「…あいつを傷つけるやつらなんか滅んでしまえばいい」
男から返ってきたのは答えではなかった。
老人や物見人たちが投げかけてきた蔑みとか嫌悪を含んだ視線や言葉は、この男に向けるのと同時にその上に誰かの影を重ね合わせていたのだと、その時ようやくレンは気づく。
おそらくそれは昨夜、あの老人が口にしていた「呪われた娘」…男の妹のことなのだろう。
でも。
「…ダメだよ、お兄さん」
レンは男に向けて一歩踏み出した。
「たとえ相手が死んでも、傷ってなくならないんだ。そんなことしても何も救われないよ」
疎まれた傷は受け入れてもらうことでしか癒せないのだと、レンは伝えたかった。
実親に捨てられたらしいというまだ傷は癒えないけれど、レンには拾って育ててくれたおじいちゃんが居た。
この色違いの瞳を見たときに奇異の視線を向ける人が居ることにまた傷つきながら、それでも特別扱いせずに普通に話しかけてきてくれる人も居ることに少しでも救われた。
「そんな方法じゃ、お兄さんの傷も大事な人の傷もなくなら…」
「…何も分かっていないくせに、聞いた風なことを言うな」
その時、男がピシャリとレンの言葉を遮った。
地に伏したまま呻いている老人の肩口を足で踏みしめ、突き立ったままの短剣を勢いよく抜き去る。
ビシャリ!と先程以上の血飛沫が飛び散った。
一際大きな呻きを上げた後、意識をなくしたのか老人の身体から力が抜ける。
レンは唇を噛んだ。
たとえ致命傷でなくても、このままでは老人は死んでしまうだろう。
男はその横腹を蹴って老人の身体を転がすと、興味をなくしたようにレンに向き直る。
血に塗れた短剣の切っ先がレンの方を向いた。
「…僕も刺すの?理由のない人殺しまでして、それでお兄さんは満足?」
先程まで感じていた恐怖が、すうっと嘘のように引いていた。
レンは男の目をじっと見上げたまま、一歩また一歩と歩を進める。
短剣の先からぽたりと落ちた赤い雫が、地面に丸い染みを作った。
PR