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1、「炎の中で」
白い壁が赤い炎に舐められる様に包まれ、呑まれていく。
物が焼けるきな臭い匂いが周囲に立ち込めていた。
レンは周囲を知覚すると同時に煙に捲かれ、激しく咳き込んだ。
咳をしながら、袖で鼻と口を覆う。
この感覚には覚えがあった。
「…セインさん」
レンはそれに気付くと同時に、慌てて走り出した。
このどこまでも白い建物は、少なくとも2回炎に飲まれる。
レンはそのどちらもすでに見ていた。
一回目は…自分と同じぐらいか少し幼いかぐらいの子供が起こしたもの。
そしてもう一回は、悲しげな目をした長い髪を束ねたお兄さんが起こしたものだと知っている。
炎が巻き起こした熱風がちりちりと服に覆われていない部分の肌を炙る。
飛び散る火の粉の影響を少しでも避けようと、レンはフードを被った。
袖で口を押さえていないと、喉が焼けそうになる。
そうしながら、レンは必死で廊下を走った。
どこだった…?
前にあの子か…お兄さんを見た場所はどこだった?
「……っ!」
突然天井から落ちてきた炎に包まれた何かを、レンは間一髪で避けた。
その正体を確かめて、喉の奥で小さな悲鳴が零れる。
その、緑色のゼリー状の何かには目と口があった。
『これ』は、知ってる。前にも見たことがある。
炎に包まれたそれが襲ってこないことを確認し、少しだけ目を閉じて、跳ね上がった気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと息を吐いた。
ここは『ルーンラインズ』。
生命複製の研究をしている研究所だ。
複製とか難しくてまだよく分からないのだけれど、元になった人とそっくり同じ人を作り出すことだそうだ。
研究はちっともうまくいかずに、化け物を生み出してしまうことも度々あったらしい。
『これ』も、その成れの果てだ。
レンは慎重にその物体の横を通り抜け、再び走り出した。
呼吸困難に陥りそうなぐらい、心臓がバクバクと音を立てている。苦しい。
それでもレンは足を止めるわけにはいかなかった。
この研究所での時間はタイムリミットが早い。
それが何故なのかは分からないが、何かが自分を拒んでいるようなそんな感覚を毎回覚えた。
火の勢いはまったく衰える様子を見せず、建物全体が悲鳴を上げているようなそんな錯覚に陥る。
「ここ…!」
レンは炎の中で目の前に急に現れた分岐路と記憶が一致したのを感じ、パッと喜色を浮かべた。
もうすぐだ…!もうすぐあの部屋にたどり着く。
パチパチと炎が爆ぜる音に急かされつつ、転ぶように走り出す。
気のせいか熱気が和らいだように感じた。