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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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2、「遭遇」

まだ炎はそこまで来ていなかった。
部屋の中はシンという音が聞こえそうなぐらい静まり返り、空気が冷えているかのようにさえ感じる。
レンは弾む呼吸を抑えながら部屋の中を見渡した。
そう大きくはない、人の居住している空間。
部屋に置かれているタンスや戸棚は、年代物のような重厚な色をかもし出している。
「誰も…いない?」
そんなはずはないのに、という響きを持って思わず呟きが零れた。
その声に呼応したように、間続きの奥の部屋でコトリと小さな音がする。
ハッと顔を上げたレンの目に、警戒を前面に押し出した面持ちでそちらから姿を現した女性の姿が映った。
大きなノーフレームの眼鏡の奥の蒼い瞳は、理知的でどこか冷たく厳しい。
彼女が羽織っているキッチリとした白衣からも同じ印象を受け、レンは顔を引き締めた。
「あなた…セインの関係者かしら?」
レンをじっと見つめ、やや不可解といった顔になって、彼女が問いを発する。
そのすぐ後で思い直したように、小さく首を左右に振った。
「なんて愚問ね。面差しが似てる上に、今ここに居るなんて、関係者以外の何者でもないわね」
「うん…お姉さんが思っている形ではないかもしれないけど」
レンは一歩足を踏み出す。

彼女の名前も知っている。
彼女はシェリン・アルダー…女史と呼ばれているらしい。
この研究所のTOPとも言える位置に居る女性で、この研究所で行われている複製実験の指揮を担っている。

「火を放ったのはあなた?」
そう口にした一瞬、彼女の蒼い瞳に憎悪とも苛立ちともみえる光が過ぎった。
「私の邪魔をした覚悟は出来ているのでしょうね?」
「……覚悟はしてない。でも覚悟なんていらない」
レンはゆっくりと彼女に近づく。
セインがまだ来ていないのなら…今までセインよりも早くこの部屋に着いたことはなかったが…それがたぶん一番いいのだ。
「僕から言えるのはひとつだけ。逃げて」
彼女から歩数3歩分だけ離れたところで足を止め、告げた。
「ここに居れば早かれ遅かれ火にまかれて焼け死ぬよ。それはあなたにとって望むことじゃないよね?」
再度不可解な顔をした彼女に向かって、レンはさらに言葉を継ぐ。

彼女をここに留めれば、セインと、顔を合わせることになる。
おそらく後まで引きずる深い傷を、セインの心に、負わせることになる。
先の時を本当に変える事が出来るのかは分からなかったが、それでも出来るならこの時に干渉したかった。
…いつもそう思いながら叶わないのだけれど。

レンの耳が近づいてくる微かな足音を捉えた。
それが誰のものなのか、とっくに分かっている。
「…もう一度言うよ?逃げて。…この後も研究を続けたいなら」
焦る心を抑え、再びレンは説得を試みた。
彼女の唇の端が、ついと上がった。

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