ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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今期のGrbのラストの展開は2パターンありました。
「アッサムさんが戻ってくる」ver.と「戻ってこない」ver.です。
結果的にハッピーエンドの「戻ってくる」ver.となりましたが、「戻ってこない」ver.も実はこっそり書いてました(笑)。
お蔵入りも少し勿体無いと思ったので、少し形を変えて公開しておきます。
話を作り替えるに当たって視点を変えてしまったので、何が何だかよく分からないことになっていますが、何となく感じをつかんでもらえれば幸いです。
話の中でちょっと触れていますが、「リーン」=「メイリーン」です。
なお、本来のラストSSはアッサムさんのSSを見せていただいてから、その設定を頂いて書き上げたものですので、公開を少し遅らせています。
窓から差し込む陽の温もりに目が覚める。
どうやら卓に突っ伏したまま眠っていたようだ…。
無意識に頬を濡らしていた涙を、諦めの入り混じった複雑な思いで拭う。
夢を見た。
それがたとえ傷を舐め合う様な何の意味もなさない出会いでも。
少しだけ幸せな夢を、見た。
+++++++++++++++++++++++++++
肩を叩かれてはっと浅い眠りから覚醒し、突っ伏していた卓から顔を上げる。
いつの間に眠っていたのだろう?
悲しい夢を、見た。
それはとても悲しくて、切なくて…思い返すと胸がぎゅっと締め付けられるような感情に襲われる。
だがそれがどんな夢で何が悲しかったのか、何も覚えてはいなかった。
自分を起こしてくれた人の姿を求めて後ろを見上げる。
そこに居るのは黒い……いや、白い服を着た女性だった。
「時間ですよ」
彼女は無機質な声でそう言うと、そのまま部屋を出て行こうとする。
「あ、あの…!」
思わず呼び止めた。
女性が振り向く。その顔にはまるで見覚えは無かった。
「ここは…どこですか?」
起こしてくれた相手が想像していたものと違っていたことに、落胆を覚えている。
それが自分でも分かるが、果たして誰であることを期待していたのかが出てこない。
脳裏に過ぎるのは温かい笑い声と力強い腕、そして黒い服。
おそらくそれぞれ違う人間のことなのだろう。
二つのまるで対極に位置するかのような人影が記憶の隅をちらつくが、詳細は覚えていない…。
「ここは研究所です。そしてあなたは被験者の方ですね」
何の感情も入らない声が返る。
研究所と、被験者。
どちらも自分には縁遠いように感じる言葉だ。
でもそれなら何故自分がここに居て、被験者と呼ばれているのかまったく覚えが無い。
「私が被験者…ですか?いったい何の研究を…」
長く不自然な姿勢で眠っていたのか、立ち上がった拍子に僅かによろめいて慌てて卓で自分を支えた。
そういえば怪我をしたときみたいに、何だか目眩もしている。
「私には分かりかねます。気になるのでしたら所長に聞いてください」
女性は話は終わったとばかりに、それだけ告げると部屋を出て行った。
その時初めて、ようやく部屋を見渡す余裕を得る。
白い壁白い床…簡易寝台がある他は特に目を引くものは無い。
窓も無い。やや息苦しい。
すべてが白に染められていて、何だか気味が悪いぐらいだ。
ふとポケットの中で紙がカサと音を立てるのに気づき、それをそうっと取り出した。
飾り気のない紙に一行だけ書かれた台詞を、確認するかのように一字一字音に乗せる。
「…もし、帰って来たら、煉瓦亭に、寄ってくれ」
最初の方は何故か汚れていて読めなかった。
「手紙……かな」
誰かに宛てられた伝言のようだったが、宛先も差出人も書いていない。
「煉瓦亭………」
チクリとまた胸が痛んだ。
知っていると思った。私はそう呼ばれる場所を知っている。
何かがそう深いところで叫んでいる気がする。
目眩が酷くなって、思わず床に座り込んだ。
手紙を無意識に握りしめていた。
力を入れすぎて白くなった指に、不可解な感情を覚える。
私は一体何をしているんだろう?
「リーン、何を見ているの?」
「わ、わわ」
ふと急に声をかけられて、ビックリして手の中の紙を取り落とした。
いつの間にか部屋には、先程とは別の白衣の女性が入ってきていた。
彼女はすうっと腰を屈めて床に落ちた紙を拾い上げる。
「手紙…メモかしら?こんなもの、どうせ誰かの悪戯に決まってるわ。まったく仕方ないわね」
彼女の手の中で紙はぐしゃりと丸められ、部屋の隅の屑籠へと放り投げられた。
その笑顔が少しだけ強張っていることに気づくが、その理由は分からない。
「そう…かな」
すぐに屑籠からその紙を拾い上げたいという気持ちをぐっと抑えて、女性を見つめる。
今屑籠に近づけば、間違いなく女性の機嫌を損ねるという予感があった。
この女性は私のことをリーンと呼んだ。
どうやら私のことを知っている人間らしい。
リーンという名前を聞いても、どうも自分の名前のようなそうでないようなあやふやな気持ちが渦巻いているけれど、それでもまったく自分に関わりがない名前ではないと思った。
「あの…えっと」
「シェリンよ。リーンったら私のことも忘れちゃったの?」
口ごもった理由を驚くほど鋭く察し、女性は名乗る。
その名前を聞いても特に感慨は湧かなかった。
自分の知らないところで周囲のことが勝手に塗り替えられていくような違和感がある。
その何かに飲み込まれないように、ぎゅっと自分の掌に爪を立てた。
よろめきながら立ち上がり、女性と目を合わせる。
女性の透き通った青い瞳からは何もつかめない。
「私…その。出かけたいんだけ…ど……」
咎めるような目で見られて、思わず口ごもった。
「どこへ出かけると言うの?」
詰問口調で続けられて、思わず反発するような心が生まれる。
やっぱり私はさっきの白衣の女性が言ったみたいに被験者なんだろうか?
もしかしてここに閉じ込められてる…?
そんな私の警戒を顔から見て取ったのか、女性は少し決まり悪そうな顔をした。
「ごめんなさい、別にあなたに干渉する気はないの。でも、てっきりリーンはこの研究所で私を手伝ってくれると思ってたから……」
+++++++++++++++++++++++++++
いつの間にか先程まで見ていた夢を思い返していた。
夢の中ではまるで自分が彼女になったように、その感情の機微がつかめた。
彼女は全ての記憶を封じられてもなお、心をあの場所に残していた。
「うまくいかないものね…」
ぽつりと呟きが零れる。
もし後一日でも彼女の大切な人が帰るのが遅れていたら、きっと私は彼女を見ていることに耐え切れずに彼女を浚い、夢で見たようにその記憶を封じていただろうという確信があった。
同じように誰よりも大切な人を待ち続け、待ち続けて…何度も打ちのめされ心の奥まで凍り付いて…。
どこまでも自分と重なるそんな姿を、傍観していられる自信は無かった。
自分のように空虚な思いを、痛いまでの諦めとそれでも一筋の奇跡を捨てられない辛さを、味あわせたくは無かった。
兵士と冒険者という違いはあるものの、戦争というどうしようもない波に飲まれ、愛した人が帰ってこないという悪夢を見た者として…。
「良かったわね、なんて言わないわ。でも、あなたはもう私と同じじゃない。どこででも好きに生きるといいわ」
リーン…メイリーンが自分と同じ結末を歩むことが無かったことに向ける思いは複雑で、自分でも制御できない。
だが、もし彼女と同じように愛しい人が戻ってきていたらと、甘い妄想に浸るには少し時が経ち過ぎていた。
おめでとうと手放しで喜べるほどお人よしでもない。
自分が得られなかった幸せを得た彼女に妬ましさも覚える。
でも、とにかく唯一つ言える言葉がある。
「幸せになりなさい。もう失うことが無いようにしっかりと掴んでいることね」
ひょんなことから縁を得、手に落ちてきた少女に、もう関わるつもりは無かった。
気まぐれで手をつけた彼女の兄から頼まれたことも、このまま廃棄するつもりだ。
記憶の改変と翼の移植…もうその必要もないだろう。
こめかみをほぐしながら、立ち上がる。
自分は暇じゃないのだ。時間はいくらあっても足りない…。
ベッドの上に放り出していた白衣を取り上げ、袖に手を通した。
そして、部屋の扉が閉まった。
「アッサムさんが戻ってくる」ver.と「戻ってこない」ver.です。
結果的にハッピーエンドの「戻ってくる」ver.となりましたが、「戻ってこない」ver.も実はこっそり書いてました(笑)。
お蔵入りも少し勿体無いと思ったので、少し形を変えて公開しておきます。
話を作り替えるに当たって視点を変えてしまったので、何が何だかよく分からないことになっていますが、何となく感じをつかんでもらえれば幸いです。
話の中でちょっと触れていますが、「リーン」=「メイリーン」です。
なお、本来のラストSSはアッサムさんのSSを見せていただいてから、その設定を頂いて書き上げたものですので、公開を少し遅らせています。
窓から差し込む陽の温もりに目が覚める。
どうやら卓に突っ伏したまま眠っていたようだ…。
無意識に頬を濡らしていた涙を、諦めの入り混じった複雑な思いで拭う。
夢を見た。
それがたとえ傷を舐め合う様な何の意味もなさない出会いでも。
少しだけ幸せな夢を、見た。
+++++++++++++++++++++++++++
肩を叩かれてはっと浅い眠りから覚醒し、突っ伏していた卓から顔を上げる。
いつの間に眠っていたのだろう?
悲しい夢を、見た。
それはとても悲しくて、切なくて…思い返すと胸がぎゅっと締め付けられるような感情に襲われる。
だがそれがどんな夢で何が悲しかったのか、何も覚えてはいなかった。
自分を起こしてくれた人の姿を求めて後ろを見上げる。
そこに居るのは黒い……いや、白い服を着た女性だった。
「時間ですよ」
彼女は無機質な声でそう言うと、そのまま部屋を出て行こうとする。
「あ、あの…!」
思わず呼び止めた。
女性が振り向く。その顔にはまるで見覚えは無かった。
「ここは…どこですか?」
起こしてくれた相手が想像していたものと違っていたことに、落胆を覚えている。
それが自分でも分かるが、果たして誰であることを期待していたのかが出てこない。
脳裏に過ぎるのは温かい笑い声と力強い腕、そして黒い服。
おそらくそれぞれ違う人間のことなのだろう。
二つのまるで対極に位置するかのような人影が記憶の隅をちらつくが、詳細は覚えていない…。
「ここは研究所です。そしてあなたは被験者の方ですね」
何の感情も入らない声が返る。
研究所と、被験者。
どちらも自分には縁遠いように感じる言葉だ。
でもそれなら何故自分がここに居て、被験者と呼ばれているのかまったく覚えが無い。
「私が被験者…ですか?いったい何の研究を…」
長く不自然な姿勢で眠っていたのか、立ち上がった拍子に僅かによろめいて慌てて卓で自分を支えた。
そういえば怪我をしたときみたいに、何だか目眩もしている。
「私には分かりかねます。気になるのでしたら所長に聞いてください」
女性は話は終わったとばかりに、それだけ告げると部屋を出て行った。
その時初めて、ようやく部屋を見渡す余裕を得る。
白い壁白い床…簡易寝台がある他は特に目を引くものは無い。
窓も無い。やや息苦しい。
すべてが白に染められていて、何だか気味が悪いぐらいだ。
ふとポケットの中で紙がカサと音を立てるのに気づき、それをそうっと取り出した。
飾り気のない紙に一行だけ書かれた台詞を、確認するかのように一字一字音に乗せる。
「…もし、帰って来たら、煉瓦亭に、寄ってくれ」
最初の方は何故か汚れていて読めなかった。
「手紙……かな」
誰かに宛てられた伝言のようだったが、宛先も差出人も書いていない。
「煉瓦亭………」
チクリとまた胸が痛んだ。
知っていると思った。私はそう呼ばれる場所を知っている。
何かがそう深いところで叫んでいる気がする。
目眩が酷くなって、思わず床に座り込んだ。
手紙を無意識に握りしめていた。
力を入れすぎて白くなった指に、不可解な感情を覚える。
私は一体何をしているんだろう?
「リーン、何を見ているの?」
「わ、わわ」
ふと急に声をかけられて、ビックリして手の中の紙を取り落とした。
いつの間にか部屋には、先程とは別の白衣の女性が入ってきていた。
彼女はすうっと腰を屈めて床に落ちた紙を拾い上げる。
「手紙…メモかしら?こんなもの、どうせ誰かの悪戯に決まってるわ。まったく仕方ないわね」
彼女の手の中で紙はぐしゃりと丸められ、部屋の隅の屑籠へと放り投げられた。
その笑顔が少しだけ強張っていることに気づくが、その理由は分からない。
「そう…かな」
すぐに屑籠からその紙を拾い上げたいという気持ちをぐっと抑えて、女性を見つめる。
今屑籠に近づけば、間違いなく女性の機嫌を損ねるという予感があった。
この女性は私のことをリーンと呼んだ。
どうやら私のことを知っている人間らしい。
リーンという名前を聞いても、どうも自分の名前のようなそうでないようなあやふやな気持ちが渦巻いているけれど、それでもまったく自分に関わりがない名前ではないと思った。
「あの…えっと」
「シェリンよ。リーンったら私のことも忘れちゃったの?」
口ごもった理由を驚くほど鋭く察し、女性は名乗る。
その名前を聞いても特に感慨は湧かなかった。
自分の知らないところで周囲のことが勝手に塗り替えられていくような違和感がある。
その何かに飲み込まれないように、ぎゅっと自分の掌に爪を立てた。
よろめきながら立ち上がり、女性と目を合わせる。
女性の透き通った青い瞳からは何もつかめない。
「私…その。出かけたいんだけ…ど……」
咎めるような目で見られて、思わず口ごもった。
「どこへ出かけると言うの?」
詰問口調で続けられて、思わず反発するような心が生まれる。
やっぱり私はさっきの白衣の女性が言ったみたいに被験者なんだろうか?
もしかしてここに閉じ込められてる…?
そんな私の警戒を顔から見て取ったのか、女性は少し決まり悪そうな顔をした。
「ごめんなさい、別にあなたに干渉する気はないの。でも、てっきりリーンはこの研究所で私を手伝ってくれると思ってたから……」
+++++++++++++++++++++++++++
いつの間にか先程まで見ていた夢を思い返していた。
夢の中ではまるで自分が彼女になったように、その感情の機微がつかめた。
彼女は全ての記憶を封じられてもなお、心をあの場所に残していた。
「うまくいかないものね…」
ぽつりと呟きが零れる。
もし後一日でも彼女の大切な人が帰るのが遅れていたら、きっと私は彼女を見ていることに耐え切れずに彼女を浚い、夢で見たようにその記憶を封じていただろうという確信があった。
同じように誰よりも大切な人を待ち続け、待ち続けて…何度も打ちのめされ心の奥まで凍り付いて…。
どこまでも自分と重なるそんな姿を、傍観していられる自信は無かった。
自分のように空虚な思いを、痛いまでの諦めとそれでも一筋の奇跡を捨てられない辛さを、味あわせたくは無かった。
兵士と冒険者という違いはあるものの、戦争というどうしようもない波に飲まれ、愛した人が帰ってこないという悪夢を見た者として…。
「良かったわね、なんて言わないわ。でも、あなたはもう私と同じじゃない。どこででも好きに生きるといいわ」
リーン…メイリーンが自分と同じ結末を歩むことが無かったことに向ける思いは複雑で、自分でも制御できない。
だが、もし彼女と同じように愛しい人が戻ってきていたらと、甘い妄想に浸るには少し時が経ち過ぎていた。
おめでとうと手放しで喜べるほどお人よしでもない。
自分が得られなかった幸せを得た彼女に妬ましさも覚える。
でも、とにかく唯一つ言える言葉がある。
「幸せになりなさい。もう失うことが無いようにしっかりと掴んでいることね」
ひょんなことから縁を得、手に落ちてきた少女に、もう関わるつもりは無かった。
気まぐれで手をつけた彼女の兄から頼まれたことも、このまま廃棄するつもりだ。
記憶の改変と翼の移植…もうその必要もないだろう。
こめかみをほぐしながら、立ち上がる。
自分は暇じゃないのだ。時間はいくらあっても足りない…。
ベッドの上に放り出していた白衣を取り上げ、袖に手を通した。
そして、部屋の扉が閉まった。
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