ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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それはあたしには、すぐに夢だと分かったわ。
だってそれは全然あたしには見覚えがない景色で、そしてそこに「センが居た」から。
センは誰かと話しているみたいだった。
**********
「答えは決まったかしら?」
当然のように背後から投げかけられた問いに、俺は大きく息を吐いた。
形式としては問いかけのような形を取ってはいるが、その実こちらが取る答えを微塵も疑っていないようなその口調に、僅かなりの反発心が芽生える。
だがもちろん、そんなことをしても逆にこの女を喜ばせるだけなのも分かっていたから、俺はぐっと喉元まで出かけていた言葉を飲み込んだ。
ゆっくりと視線を巡らせ、女を一瞥することでその思いに代える。
「ここに居る事がその答えだ…」
女の申し出は俺にとっては決して悪くない条件だった。
だがそれ故に、それだからこそ、余計に女の側にメリットというメリットが存在していないように見えるのが気にかかる。
この申し出にはきっと何か裏があるはずだと心のうちで何度も危険信号が明滅しているが、どれだけ考えてもその正体はつかめなかった。
「そう」
女はふふ、と笑みを浮かべた。
交わした条件は3つ。
1つ。俺、セン・ブライトはこの女と行動を共にするが、その行動に何の命令も強制も受けない。
2つ。勝てる力を身につけた、もしくは勝てるような隙を発見したのなら、いつでも俺は相手の寝首をかいて良い。
3つ。セイン・フェングラントには女が今手を付けている仕事が終わらない限り手を出さない。それが終わらないように俺が邪魔をすることも自由。
何回反芻したところで、俺にしか有利な部分が見出せない条件だった。
「本当にそんなメリットでいいのか。俺が手元に居ればセインを見つけやすく、またあいつの側から追ってくる可能性も上がるなどと…」
疑う俺に女が告げた自分のメリットはそれだけだった。
だが今までも、何もなくても女は自分達の居場所を把握しているようだったし、そもそも争いを嫌うセインのこと、俺がこの女と行動を共にしていると知らなければ追おうと思うとも思えなかった。
女は赤い唇の端をいつもそうしているように楽しそうに吊り上げる。
「私は楽しければそれでいいのよ」
それはやはり俺が知っているこの女そのものの答えだった。
今の俺ではこの女を倒すことは出来ない。
それを思い知ってからは極力逃げ回ってきたが…確かに共に居ればその隙をつきやすいのも確かだった。
それにこの女が今している仕事というのも、きっとろくな事ではないだろう。
それを邪魔できる可能性が出来るというのも願ってもないことだ。
俺は無意識に肩口へと向かう手を途中で留め、再び女を真っ直ぐに見返す。
「…分かった」
他にも俺にはこの女には用事も借りもある。
共にあれば、それを精算する機会もあるだろう。
「それなら決まりね」
女はすうっと目を細めると、すでに赤いインクで何か書かれた羊皮紙を俺へと向けた。
「貴方も心配だろうから、条件を血の契約で確実にしておくわ。この契約で決めたことは決して破れない。中身を確認して間違いがなければ、あなたも血でサインをして頂戴」
俺のもう一つの懸念さえ、女はきちんと見抜いていた。
条件は必ず守られる。それならば何も問題は、ない。
俺は指の腹を取り出したナイフで少し傷つけ……。
**********
「…やっぱりバカ」
あたしは鼻の頭にシワを寄せた。
この夢はきっと、現実にどこか違う空の下であったことだ。
あたしには何故かその確信があった。
使い魔ではないけれど、しばらく旅を共にしていたから同調したのか。難しい理由はあたしには分からない。
センの考えていることまで分かるなんて、同調した以外にはたぶんありえないのだけれど。
ただ一つだけ分かる事があった。
「きっとこれは、そんな簡単な契約じゃないわよ」
女の勘か猫の勘か。ピクピクと嫌な予感に耳が震える。
あたしはため息をついて、曲げていた足を伸ばしぐっと伸びをした。
やっぱり放ってはおけない。
とりあえずこの島から出て…そう考えていたあたしの思考を、獣の咆哮が破るのだった。
だってそれは全然あたしには見覚えがない景色で、そしてそこに「センが居た」から。
センは誰かと話しているみたいだった。
**********
「答えは決まったかしら?」
当然のように背後から投げかけられた問いに、俺は大きく息を吐いた。
形式としては問いかけのような形を取ってはいるが、その実こちらが取る答えを微塵も疑っていないようなその口調に、僅かなりの反発心が芽生える。
だがもちろん、そんなことをしても逆にこの女を喜ばせるだけなのも分かっていたから、俺はぐっと喉元まで出かけていた言葉を飲み込んだ。
ゆっくりと視線を巡らせ、女を一瞥することでその思いに代える。
「ここに居る事がその答えだ…」
女の申し出は俺にとっては決して悪くない条件だった。
だがそれ故に、それだからこそ、余計に女の側にメリットというメリットが存在していないように見えるのが気にかかる。
この申し出にはきっと何か裏があるはずだと心のうちで何度も危険信号が明滅しているが、どれだけ考えてもその正体はつかめなかった。
「そう」
女はふふ、と笑みを浮かべた。
交わした条件は3つ。
1つ。俺、セン・ブライトはこの女と行動を共にするが、その行動に何の命令も強制も受けない。
2つ。勝てる力を身につけた、もしくは勝てるような隙を発見したのなら、いつでも俺は相手の寝首をかいて良い。
3つ。セイン・フェングラントには女が今手を付けている仕事が終わらない限り手を出さない。それが終わらないように俺が邪魔をすることも自由。
何回反芻したところで、俺にしか有利な部分が見出せない条件だった。
「本当にそんなメリットでいいのか。俺が手元に居ればセインを見つけやすく、またあいつの側から追ってくる可能性も上がるなどと…」
疑う俺に女が告げた自分のメリットはそれだけだった。
だが今までも、何もなくても女は自分達の居場所を把握しているようだったし、そもそも争いを嫌うセインのこと、俺がこの女と行動を共にしていると知らなければ追おうと思うとも思えなかった。
女は赤い唇の端をいつもそうしているように楽しそうに吊り上げる。
「私は楽しければそれでいいのよ」
それはやはり俺が知っているこの女そのものの答えだった。
今の俺ではこの女を倒すことは出来ない。
それを思い知ってからは極力逃げ回ってきたが…確かに共に居ればその隙をつきやすいのも確かだった。
それにこの女が今している仕事というのも、きっとろくな事ではないだろう。
それを邪魔できる可能性が出来るというのも願ってもないことだ。
俺は無意識に肩口へと向かう手を途中で留め、再び女を真っ直ぐに見返す。
「…分かった」
他にも俺にはこの女には用事も借りもある。
共にあれば、それを精算する機会もあるだろう。
「それなら決まりね」
女はすうっと目を細めると、すでに赤いインクで何か書かれた羊皮紙を俺へと向けた。
「貴方も心配だろうから、条件を血の契約で確実にしておくわ。この契約で決めたことは決して破れない。中身を確認して間違いがなければ、あなたも血でサインをして頂戴」
俺のもう一つの懸念さえ、女はきちんと見抜いていた。
条件は必ず守られる。それならば何も問題は、ない。
俺は指の腹を取り出したナイフで少し傷つけ……。
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「…やっぱりバカ」
あたしは鼻の頭にシワを寄せた。
この夢はきっと、現実にどこか違う空の下であったことだ。
あたしには何故かその確信があった。
使い魔ではないけれど、しばらく旅を共にしていたから同調したのか。難しい理由はあたしには分からない。
センの考えていることまで分かるなんて、同調した以外にはたぶんありえないのだけれど。
ただ一つだけ分かる事があった。
「きっとこれは、そんな簡単な契約じゃないわよ」
女の勘か猫の勘か。ピクピクと嫌な予感に耳が震える。
あたしはため息をついて、曲げていた足を伸ばしぐっと伸びをした。
やっぱり放ってはおけない。
とりあえずこの島から出て…そう考えていたあたしの思考を、獣の咆哮が破るのだった。
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