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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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「むー……」
菫色の髪の少女は首をかしげた。
「セインさんたち、どこにいるのかなぁ〜?」
風が吹きすさぶ忍びの里の入り口。
いつもはここに立って山々を眺めている忍びは、何故かそこには居なかった。
里全体を物々しい空気が包んでいるように見える。
「おしえてくれればいいのに〜。みずくさいよ」
少女はぷうと頬を膨らませる。
異変はもう、誰が見ても明らかで。
そんなこととは思わなかったから、いつもの装備で来てしまったのだけれど。
「あれっ?」
少女はきょとんと横を見る。
一瞬、視界の端に何か赤いものが映った。
目をごしごしと擦って、もう一度そちらの方を窺う。
「桔梗さん…?」
桔梗の忍び姿は初めて見た。
彼女が好んで身につける赤い着物と同じ色の。
鮮やかな赤色。
その声で向こうも彼女に気が付いたかのように顔を上げる。
「あなたは確か……パルクレチュアさん?」
ぼんやりとしていたことを恥じるように、桔梗は唇を噛んだ。
地面に落ちる赤い着物を拾い、身に纏ってその場から去ろうとする。
その時ようやくパルクレチュアは、桔梗のむき出しの腕から流れる赤い血に気が付いた。
「わわ、大変だよ〜。桔梗さん、ケガしてるのっ?」
「……これくらい、大したことありませんわ」
桔梗は振り返り、目を眇めて幼い顔をした少女を見つめる。
セインが妙に気にかけている娘だ。
その理由を桔梗は知っている。


「セイン様を手助けにきたのでしょう? でしたら早く里の中に入りなさい」
あの人は女性には限りなく甘い人。
「笑ってほしい」「幸せになってほしい」
それがあの人の心からの願い。
相手を口説いているような印象を与える、時に残酷なその言葉を彼はどの女性にも惜しみなく紡ぐ。
その時その時は本気でも、決して心を与えないくせに。
「私が行ったら、桔梗さんはどうするですか〜?」
それをこの少女に気づかれているのではないかと。
セインは後ろめたさと申し訳なさを感じている。
幼い顔をして、この娘はけっこう聡いところがあるから。
「……セイン様を捕らえます。
彼には戦のための武具を鍛えてもらわなければいけないですから」
桔梗は冷えた瞳で少女を見下ろした。
この少女は厄介だ。
「んっく、それはセインさんのためなんですよね〜?
セインさんを殺させないために〜」
煩い。
桔梗はいきなり棒状の飛武器を放った。
ひゅっと鋭い音をたて、それは風を斬る……。


パルクレチュアは少しも動かなかった。
ただまっすぐに桔梗を見つめている。
その頭のすぐ横を掠めていった飛武器は、何にも当たることなく地面へと落ち、澄んだ音を響かせた。
「殺せないですよねぇ〜。私を殺せばセインさんが……」
にっこりと微笑む少女。
桔梗は唇を噛む。
すっと少女の横を通り過ぎ、腰をかがめて飛武器を拾った。
「……私はセイン様のことなど」
最初から本気でこの娘を殺す気などなかった。
ただそれだけ。
そうでなければこの至近距離で仕損じるわけがない。
「早くお行きなさいと言っているでしょう?」
風が。吹いている。
それは背中を向け合っている2人の髪を揺らし、里の外から中へと雨の匂いを呼び込む。
桔梗はそのまま、風に逆らうように里の外へと向かった。
関わるものが望む限り。
戦いはまだ続く。

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