ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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里の入り口には誰の姿もなかった。
昨日から降り続いている小雨が、しとしとと地面を濡らしている。
風はない。
と、突然、そこの空間が揺らいだ。
黒がすっ…と和風の景色に飛び込んでくる。
風もないのに、その黒いマントがふわりと揺らいだ。
「………あそこ…か」
里の奥手に見えるひときわ大きな屋敷の影に、彼は視線を向けた。
無造作に肩まで伸ばされた黒髪を、静かに雨が湿らせる。
しかしそれにまったく気を止めた様子はなく、彼の冷たい光をたたえた蒼い瞳は屋敷との距離を測るようにそこに注がれた。
「…この間の…茶室と同じか……」
おそらくこの里の庵はだいたいが同じ構造をしているのだろう。
中の間取りも同じである可能性が高い。
「…とりあえず……世を統括しようと言う考えが気に入らない……」
ぼそりと呟きが落ちる。
…世は人に支配されれば、堕落と破滅を呼ぶ……。
里長を殺せばおそらく、この戦いはぼやけ、その意味をなくすだろう。
戦は終わらないかもしれないが、それはもう付属的なことだ。
転移のための魔術を構成する。
左手のグローブに付いた蒼い宝石が、雨の反射による僅かな光を受けて、鈍く光っていた…。
里長の屋敷の一室。
「………?!」
桔梗はセインを弾かれたように見た。
「何をそんなに驚くことがあるんですか?」
視界の中で、にっこりと微笑する青銀色の髪の鍛冶師。
いつも何かに揺れ続けていたその紫の瞳が、見たことのない色を湛えている。
「ここに里の人なんていない、そうでしょう?
連れてきてもらって分かりましたよ」
「では、それを確かめるため…?!」
わざと捕まったというのか。
呼び出しに応じ、1人で出てきた。
そのときから何故か言いようのない違和感を感じていたが……。
「まさか。でも、それだけは確かめておかないと、逃げたあとで戦えないでしょう?」
これは誰―――?
静かに言葉を紡ぐセインを、眉を寄せて凝視する。
「もう…迷いはなくなったというの……?」
桔梗は思わずといった態で呟いた。
この間、最終通告をする為に会ったときは、まだこれまでの彼と何も変わらなかった。
いや、むしろ、これまでよりもひどくなっているように見えた。
だから、苛立つ長に進言したのだ。
彼を追い落とすなら今だ、と。
「いえ…、まだいっぱい迷うことはありますよ? ですが……」
セインは嬉しそうに微笑む。
それが何故か心の琴線に触った。
桔梗は袖に隠した小刀の柄を握りしめる。
彼はぜったいに殺気には気が付かない。
それは分かっていることだ。
桔梗は小刀を持った方の腕に意識を集中させた。
この距離ならぜったいに外すことはない。
ぐ…っと手のひらに力を込めた、まさにその瞬間。
「何者っ?!」
桔梗はばっとその場から数歩、飛びのいた。
空間から滲み出るように現れた影が、無頓着に周囲を見渡す。
「…少し……ずれたか…」
「マスターさん…?」
セインがきょとんとしてその名を呼んだ。
既視感。
「あなたは…あの時の……」
桔梗がハッと表情を硬くする。
最終通告に出向いた時も、今のように突然現れたこの黒尽くめの男に邪魔をされた。
その声に、マスターは赤い着物のくのいちに目を向ける。
「…そうか…望みが引き寄せた…か……」
僅かに動揺を抑えきれない黒と、どこか寂しさと冷たい光を宿す蒼。
二つの色がぶつかった。
相手の瞳の中に戦う意志を読み取ってか、桔梗がもう少し間合いを取り身構える。
「あの時はセイン様の味方ではないと言っていたと思ったけれど」
「…今も味方と…いうわけではない……。だが…強い者とは戦いたい……」
すぅっ…と場に静かな空気が満ちた。
セインが緊張した面持ちで、成り行きを見守っている。
しかし桔梗は突然、ふっと構えを解いた。
「……この場は引かせていただきますわ。
まだ、私も万全というわけではありませんし……それに」
ちらっとセインの方に視線を流す。
無防備なところは何も変わっていない。
彼が師匠に連れられてこの里に来た、あの時のままだ。
戦いと無縁な世界に生きるのなら、それもまた長所となり得るのかもしれないけれど。
とんっと床を蹴って、セインの前に移動する。
「っ!」
ぎょっとして身を引こうとするセイン。
しかし―――。
「…遅いですわね」
言葉とともに、桔梗はふうっと吐息を吹きかけた。
セインの動きが止まり、糸が切れたようにその場に倒れ込む。
「……殺してはいない…な…眠り…か……?」
マスターの言葉に応え、桔梗は顔を上げた。
赤い唇を冷たく綻ばせる。
「ええ、眠りですわ。でもこんな状態のまま、ここに置いておいたら……
アレに食い殺されるかもしれませんわね」
含みを込めた言葉。
「…何だ…?」
空気の流れが変わったように感じた。
それはただの脅しではない。
そう感覚が伝えている。
「いくら味方でなくても……あなたも寝覚めが悪いのではなくて?
彼を安全な場所に送り届けてからでも遅くはないわ。
私は……いつでも待っているわよ」
桔梗の言葉にマスターは無言で返した。
脅しならばいくらでも受け流せたが……。
「…仕方ない……」
セインを掴み、ゲートを開く。
桔梗は静かに微笑みながら、2人を見送った。
長の屋敷はそしてまた静まりかえる。
そこに数十人の忍びがいるとも思えぬほどに。
桔梗の言ったアレの存在が明らかになるのは、まだもう少し後のこと。
雨はまだ降り続いている……。
昨日から降り続いている小雨が、しとしとと地面を濡らしている。
風はない。
と、突然、そこの空間が揺らいだ。
黒がすっ…と和風の景色に飛び込んでくる。
風もないのに、その黒いマントがふわりと揺らいだ。
「………あそこ…か」
里の奥手に見えるひときわ大きな屋敷の影に、彼は視線を向けた。
無造作に肩まで伸ばされた黒髪を、静かに雨が湿らせる。
しかしそれにまったく気を止めた様子はなく、彼の冷たい光をたたえた蒼い瞳は屋敷との距離を測るようにそこに注がれた。
「…この間の…茶室と同じか……」
おそらくこの里の庵はだいたいが同じ構造をしているのだろう。
中の間取りも同じである可能性が高い。
「…とりあえず……世を統括しようと言う考えが気に入らない……」
ぼそりと呟きが落ちる。
…世は人に支配されれば、堕落と破滅を呼ぶ……。
里長を殺せばおそらく、この戦いはぼやけ、その意味をなくすだろう。
戦は終わらないかもしれないが、それはもう付属的なことだ。
転移のための魔術を構成する。
左手のグローブに付いた蒼い宝石が、雨の反射による僅かな光を受けて、鈍く光っていた…。
里長の屋敷の一室。
「………?!」
桔梗はセインを弾かれたように見た。
「何をそんなに驚くことがあるんですか?」
視界の中で、にっこりと微笑する青銀色の髪の鍛冶師。
いつも何かに揺れ続けていたその紫の瞳が、見たことのない色を湛えている。
「ここに里の人なんていない、そうでしょう?
連れてきてもらって分かりましたよ」
「では、それを確かめるため…?!」
わざと捕まったというのか。
呼び出しに応じ、1人で出てきた。
そのときから何故か言いようのない違和感を感じていたが……。
「まさか。でも、それだけは確かめておかないと、逃げたあとで戦えないでしょう?」
これは誰―――?
静かに言葉を紡ぐセインを、眉を寄せて凝視する。
「もう…迷いはなくなったというの……?」
桔梗は思わずといった態で呟いた。
この間、最終通告をする為に会ったときは、まだこれまでの彼と何も変わらなかった。
いや、むしろ、これまでよりもひどくなっているように見えた。
だから、苛立つ長に進言したのだ。
彼を追い落とすなら今だ、と。
「いえ…、まだいっぱい迷うことはありますよ? ですが……」
セインは嬉しそうに微笑む。
それが何故か心の琴線に触った。
桔梗は袖に隠した小刀の柄を握りしめる。
彼はぜったいに殺気には気が付かない。
それは分かっていることだ。
桔梗は小刀を持った方の腕に意識を集中させた。
この距離ならぜったいに外すことはない。
ぐ…っと手のひらに力を込めた、まさにその瞬間。
「何者っ?!」
桔梗はばっとその場から数歩、飛びのいた。
空間から滲み出るように現れた影が、無頓着に周囲を見渡す。
「…少し……ずれたか…」
「マスターさん…?」
セインがきょとんとしてその名を呼んだ。
既視感。
「あなたは…あの時の……」
桔梗がハッと表情を硬くする。
最終通告に出向いた時も、今のように突然現れたこの黒尽くめの男に邪魔をされた。
その声に、マスターは赤い着物のくのいちに目を向ける。
「…そうか…望みが引き寄せた…か……」
僅かに動揺を抑えきれない黒と、どこか寂しさと冷たい光を宿す蒼。
二つの色がぶつかった。
相手の瞳の中に戦う意志を読み取ってか、桔梗がもう少し間合いを取り身構える。
「あの時はセイン様の味方ではないと言っていたと思ったけれど」
「…今も味方と…いうわけではない……。だが…強い者とは戦いたい……」
すぅっ…と場に静かな空気が満ちた。
セインが緊張した面持ちで、成り行きを見守っている。
しかし桔梗は突然、ふっと構えを解いた。
「……この場は引かせていただきますわ。
まだ、私も万全というわけではありませんし……それに」
ちらっとセインの方に視線を流す。
無防備なところは何も変わっていない。
彼が師匠に連れられてこの里に来た、あの時のままだ。
戦いと無縁な世界に生きるのなら、それもまた長所となり得るのかもしれないけれど。
とんっと床を蹴って、セインの前に移動する。
「っ!」
ぎょっとして身を引こうとするセイン。
しかし―――。
「…遅いですわね」
言葉とともに、桔梗はふうっと吐息を吹きかけた。
セインの動きが止まり、糸が切れたようにその場に倒れ込む。
「……殺してはいない…な…眠り…か……?」
マスターの言葉に応え、桔梗は顔を上げた。
赤い唇を冷たく綻ばせる。
「ええ、眠りですわ。でもこんな状態のまま、ここに置いておいたら……
アレに食い殺されるかもしれませんわね」
含みを込めた言葉。
「…何だ…?」
空気の流れが変わったように感じた。
それはただの脅しではない。
そう感覚が伝えている。
「いくら味方でなくても……あなたも寝覚めが悪いのではなくて?
彼を安全な場所に送り届けてからでも遅くはないわ。
私は……いつでも待っているわよ」
桔梗の言葉にマスターは無言で返した。
脅しならばいくらでも受け流せたが……。
「…仕方ない……」
セインを掴み、ゲートを開く。
桔梗は静かに微笑みながら、2人を見送った。
長の屋敷はそしてまた静まりかえる。
そこに数十人の忍びがいるとも思えぬほどに。
桔梗の言ったアレの存在が明らかになるのは、まだもう少し後のこと。
雨はまだ降り続いている……。
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