ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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『…戻ってこなかった場合は……』
マスターさんが少しも表情を変えずに何か言っている。
『馬鹿野郎』
その言葉をジェイクさんが少し拗ねたように遮った。
『…死んでも戻れ』
ライバルだと。戦いたいと。
そう公言してはばからないジェイクさんだけど。
そしてそれに対して別に何の異議も持っていないようなマスターさんだけど。
でも憎みあっているわけじゃない。
(あんなふうにお互いを認め合える関係っていいですよね…)
セインは柱の影で隠れてその掛け合いを聞きながら、そう思っていた。出ていけなくてついつい立ち聞きしてしまった。
2人とよく顔を合わせるようになったのは、里の戦が始まってからだったけれど……でも、セインはそんな2人が好きだったから。
(だから戦って欲しくなんかないんですけど……)
訓練ならいい。
だが2人の戦いは絶対に無傷ではすまない。
特に、ジェイクさんはかなり無茶をするから。
食用ではない肉を口にして、その毒性に倒れたことは記憶に新しい。
だから止めようと思った。
今度は訓練などではなく、本気だと分かったから。
だから……。
セインの体がビクリと動いた。
「あ、気が付いたか」
少しほっとしたようにジェイクがセインに目を向ける。
「罠って加減が出来ないからな…。殺しちまったかと思ったぜ」
「…お前が悪い……」
「う、うるさいなぁ! そりゃあ、まあ、セインさんが俺たちが戦うのを黙って見てるわけないと思ったけどさ、マスターだって了承したじゃんよ」
セインはそれを聞きながら、身を起こした。
紫の瞳がじいっとマスターに注がれる。
「…何だ……?」
「ふぅん、お兄ちゃんも強そうだね」
「「!」」
弾かれたようにジェイクとマスターがセインから飛び離れる。
ジェイクはその子供じみた口調に聞き覚えがあったゆえに。
マスターは言いようのない戦慄を覚えて。
セインはその顔に無邪気な笑みを浮かべながら、立ち上がった。ぱたぱたと服の埃を払う。
「痛いなぁ〜。いきなり何するの?」
むぅと頬を膨らませて、彼はジェイクを見た。
「あんなもの投げたらあぶないよ。気をつけてよね」
「……セイン…?」
マスターは訝しげな色を浮かべる。
何だ…『これ』は……?
「あはは、お兄ちゃんたち何て顔してるの?」
くるくるとまるで面白いものを見ているように、セインの表情は変わった。
それはまるで子供の気まぐれそのものだった。
「…へっ、とうとう出やがったか」
ジェイクが好戦的な笑みを刻む。
「あの時は万全じゃなかったしな。リベンジしたいと思ってたよ…っと!」
言いざまにジェイクの手加減なしの蹴りが、セインに向けて放たれた。
そう、それはあの時からずっとジェイクの心の中にあった思い。
「お兄ちゃん、懲りないねぇ〜」
ころころと笑うセイン。
その体が鈍い光を帯び、ひゅんっとその場から消えた。
そしてすぐにジェイクの背後に飛び出たセインは、全身に魔力をまとったまま彼に体当たりを仕掛ける。
その攻撃をある程度予測していたジェイクは、蹴りを放った瞬間に体を横に流していた。
しかし反撃をしようと思うその瞬間に、またセインの姿は消える。
「…転移…か……?」
それを見て、マスターは難しい顔で考え込んだ。
それは体への負担をまったく考えない、無謀な使い方だった。
そういう使い方をすれば精神力の消耗は激しいし、体内にも負担をかける。
勢いのベクトルを保ったまま空間を捻じ曲げるなど、下手をすれば思いもよらぬところに飛ばされてそれで終わりだ。
「…セイン……」
「え、何? 黒いお兄ちゃん」
まるでジェイクと遊んででもいるように、無邪気な様子でセインはマスターの声に答えた。
「ちぃっ……」
悔しげに舌打ちしたジェイクが、気を取り直しさっき編みそこねた構成を展開する。
左手に木の魔力、右手に水の魔力。
一度避けられてはいるが、これが自分の中で一番有効な攻撃だ。
もっとも"血"の力を使えばもっと上に行けるが、自分の存在意義が危なくならない限りそれを使う気はなかった。
セインはそれに気が付いていないようだった。
マスターの方を無防備に見ている。
「当たれっ…!!」
フリーズミストをセインに向けて放ったまさにその瞬間。
「お兄ちゃん。前のときも言ったよね? ボクには魔法は効かないよ」
セインはくるりとジェイクの方を向いてにっこりと笑った。
極低温の霧状の氷がセインの周囲を巻き込んで凍り付かせようとする。
しかしそれは……突然、ふっと何かに吸い込まれたように消えた。
「何だって…?!」
ジェイクは思わずア然とした声をあげる。
そう、文字通りそれは吸い込まれたように見えた。
セインの体に。
「ほら、だから言ってるのにね」
セインは楽しそうに笑う。
以前はエルディスやガビィも加えた混戦の中で放った。
だから避けられたのだと思っていた。
まさか……あの時も?
「………」
マスターが同じように少し苦い面持ちでセインを見つめている。
もし魔法を吸収するとなれば、魔道師にはこれ以上の天敵はない。
「むう〜、もう飽きちゃった。お兄ちゃん、ぜんぜん頑張ってくれないんだもん。殺しちゃおうかな?」
セインが無邪気に言った。
ひゅんっとその体がまた転移する。
呆然としていたジェイクの対応は、少し遅れた。
次の瞬間、強い衝撃がジェイクの体を貫く。
「…な……」
セインの手が腹から背中へと綺麗に貫通していた。
「っ……く…ぁ…」
ジェイクの口からがふっと血が吐き出される。
それを見たセインの顔が、微妙に変わった。
戸惑った表情でジェイクの顔を見上げる。
「……む…」
マスターが動いた。
突き出されたナイフから、セインはすっと身をかわす。
だがその動きにもあまりキレがなかった。
「ゴメン、黒いお兄ちゃん。ボク、何だか調子悪いみたいなんだ。また今度だね」
切羽詰ったような泣きそうな顔で言って、セインはどこかへと転移する。
繋ぎとめていた手を引き抜かれたジェイクの体が、その場にゆっくりと崩れ落ちた。
マスターさんが少しも表情を変えずに何か言っている。
『馬鹿野郎』
その言葉をジェイクさんが少し拗ねたように遮った。
『…死んでも戻れ』
ライバルだと。戦いたいと。
そう公言してはばからないジェイクさんだけど。
そしてそれに対して別に何の異議も持っていないようなマスターさんだけど。
でも憎みあっているわけじゃない。
(あんなふうにお互いを認め合える関係っていいですよね…)
セインは柱の影で隠れてその掛け合いを聞きながら、そう思っていた。出ていけなくてついつい立ち聞きしてしまった。
2人とよく顔を合わせるようになったのは、里の戦が始まってからだったけれど……でも、セインはそんな2人が好きだったから。
(だから戦って欲しくなんかないんですけど……)
訓練ならいい。
だが2人の戦いは絶対に無傷ではすまない。
特に、ジェイクさんはかなり無茶をするから。
食用ではない肉を口にして、その毒性に倒れたことは記憶に新しい。
だから止めようと思った。
今度は訓練などではなく、本気だと分かったから。
だから……。
セインの体がビクリと動いた。
「あ、気が付いたか」
少しほっとしたようにジェイクがセインに目を向ける。
「罠って加減が出来ないからな…。殺しちまったかと思ったぜ」
「…お前が悪い……」
「う、うるさいなぁ! そりゃあ、まあ、セインさんが俺たちが戦うのを黙って見てるわけないと思ったけどさ、マスターだって了承したじゃんよ」
セインはそれを聞きながら、身を起こした。
紫の瞳がじいっとマスターに注がれる。
「…何だ……?」
「ふぅん、お兄ちゃんも強そうだね」
「「!」」
弾かれたようにジェイクとマスターがセインから飛び離れる。
ジェイクはその子供じみた口調に聞き覚えがあったゆえに。
マスターは言いようのない戦慄を覚えて。
セインはその顔に無邪気な笑みを浮かべながら、立ち上がった。ぱたぱたと服の埃を払う。
「痛いなぁ〜。いきなり何するの?」
むぅと頬を膨らませて、彼はジェイクを見た。
「あんなもの投げたらあぶないよ。気をつけてよね」
「……セイン…?」
マスターは訝しげな色を浮かべる。
何だ…『これ』は……?
「あはは、お兄ちゃんたち何て顔してるの?」
くるくるとまるで面白いものを見ているように、セインの表情は変わった。
それはまるで子供の気まぐれそのものだった。
「…へっ、とうとう出やがったか」
ジェイクが好戦的な笑みを刻む。
「あの時は万全じゃなかったしな。リベンジしたいと思ってたよ…っと!」
言いざまにジェイクの手加減なしの蹴りが、セインに向けて放たれた。
そう、それはあの時からずっとジェイクの心の中にあった思い。
「お兄ちゃん、懲りないねぇ〜」
ころころと笑うセイン。
その体が鈍い光を帯び、ひゅんっとその場から消えた。
そしてすぐにジェイクの背後に飛び出たセインは、全身に魔力をまとったまま彼に体当たりを仕掛ける。
その攻撃をある程度予測していたジェイクは、蹴りを放った瞬間に体を横に流していた。
しかし反撃をしようと思うその瞬間に、またセインの姿は消える。
「…転移…か……?」
それを見て、マスターは難しい顔で考え込んだ。
それは体への負担をまったく考えない、無謀な使い方だった。
そういう使い方をすれば精神力の消耗は激しいし、体内にも負担をかける。
勢いのベクトルを保ったまま空間を捻じ曲げるなど、下手をすれば思いもよらぬところに飛ばされてそれで終わりだ。
「…セイン……」
「え、何? 黒いお兄ちゃん」
まるでジェイクと遊んででもいるように、無邪気な様子でセインはマスターの声に答えた。
「ちぃっ……」
悔しげに舌打ちしたジェイクが、気を取り直しさっき編みそこねた構成を展開する。
左手に木の魔力、右手に水の魔力。
一度避けられてはいるが、これが自分の中で一番有効な攻撃だ。
もっとも"血"の力を使えばもっと上に行けるが、自分の存在意義が危なくならない限りそれを使う気はなかった。
セインはそれに気が付いていないようだった。
マスターの方を無防備に見ている。
「当たれっ…!!」
フリーズミストをセインに向けて放ったまさにその瞬間。
「お兄ちゃん。前のときも言ったよね? ボクには魔法は効かないよ」
セインはくるりとジェイクの方を向いてにっこりと笑った。
極低温の霧状の氷がセインの周囲を巻き込んで凍り付かせようとする。
しかしそれは……突然、ふっと何かに吸い込まれたように消えた。
「何だって…?!」
ジェイクは思わずア然とした声をあげる。
そう、文字通りそれは吸い込まれたように見えた。
セインの体に。
「ほら、だから言ってるのにね」
セインは楽しそうに笑う。
以前はエルディスやガビィも加えた混戦の中で放った。
だから避けられたのだと思っていた。
まさか……あの時も?
「………」
マスターが同じように少し苦い面持ちでセインを見つめている。
もし魔法を吸収するとなれば、魔道師にはこれ以上の天敵はない。
「むう〜、もう飽きちゃった。お兄ちゃん、ぜんぜん頑張ってくれないんだもん。殺しちゃおうかな?」
セインが無邪気に言った。
ひゅんっとその体がまた転移する。
呆然としていたジェイクの対応は、少し遅れた。
次の瞬間、強い衝撃がジェイクの体を貫く。
「…な……」
セインの手が腹から背中へと綺麗に貫通していた。
「っ……く…ぁ…」
ジェイクの口からがふっと血が吐き出される。
それを見たセインの顔が、微妙に変わった。
戸惑った表情でジェイクの顔を見上げる。
「……む…」
マスターが動いた。
突き出されたナイフから、セインはすっと身をかわす。
だがその動きにもあまりキレがなかった。
「ゴメン、黒いお兄ちゃん。ボク、何だか調子悪いみたいなんだ。また今度だね」
切羽詰ったような泣きそうな顔で言って、セインはどこかへと転移する。
繋ぎとめていた手を引き抜かれたジェイクの体が、その場にゆっくりと崩れ落ちた。
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