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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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風に木々の枝がしなり、ギィギィと嫌な音を立てている。
ざーっと強い風が吹き過ぎ、ざわざわと葉がざわめく。
そんな森の中に。
セインは居た。
「………」
彼は悲痛な表情で、自分の手をじっと見つめる。
(殺してしまった……)
何も意識せずともぶるぶると震える手。
それは血に塗れている。
(この手で……ジェイクさんを)
紫の瞳は恐れの色に染まっていた。
ジェイクの腹を貫いた手。
何故、そんなことになったのか思い出せないが、そのときの生々しい感覚はまだはっきりと残っている。
「………っ」
彼はぎゅっと眉根を寄せた。
「まさか、そんな……何でこんなことに……」
混乱したような呟きがその口から漏れる。
誰も…大事な人は誰も殺させないと誓った。
守りたいという思いは一度自分の中で否定されたけど、それでも……やっぱり消すことは出来なかった。
失いたくない。
こんな自分に親しげに声をかけてくれた人たち。
自分を大切だと言ってくれた人たち。
それなのに―――。
「私が……ころした」
セインの肩がビクンと震えた。
ぼやけた霧に包まれた過去。
気になりながらも、怖い気持ちもあって特に突き詰めて考えることはなかった。
その霧の向こう側が……見えたような気がした。
「私は、他にも人を殺して……?」

赤い火が舐めるように覆っていく白い壁。
哀願する人、命乞いをする人。
皆、白い服に身を包んでいる。
『あはははっ』
無邪気に笑う子供の声。
明らかに自然のものではない炎が勢いを増した。
骨を砕くような嫌な音。
むっと充満する血の匂い……。

セインはハッと我に返った。
小さく首を振り、その悪夢の残滓を振り払う。
激しく疲労していた。
その場にへたり込むように座り込む。
何故か首の後ろのあたりがゾクゾクとした。
「いったい…私は………」
呆然と呟く。
知るのが怖い。何かを思い知らされるのが怖い。
だけど何よりも怖いのは……。
その霧の向こう側を完全に覗いてしまえば、もう戻れなくなる気がした。
血に塗れた手を抱えるようにして、セインはうずくまる。
工房には帰れなかった……。

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