ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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「あのね、セインさん。みんなあなたのことを心配してるわよ。こんなところでじっとしていていいの?」
きっかけはシャルロットのその言葉だった。
「…ぅ……」
セインが何か呟く。
「なんどすか?セインはん?」
「…ボクは化け物なんだ……。だから人だって殺すんだ……」
熱に浮かされたような言葉が空気を震わせ、レーヴェの耳に届いた。
どこか幼いその声音、自分のことを「ボク」と言うこと。
何度かそれを目にしているレーヴェには、今がどういう状態かすぐに分かる。
「にゃ?その口調は…‥‥セインはんどすか?」
「何言ってるの? レーヴェさん。さっきからセインさんって呼んでたと思うんだけど」
シャルロットの耳には、先程のセインの言葉は届いていないようだった。
もっともたとえ届いていても、レーヴェと同じことに気がついたかどうかは分からない。
シャルロットはこの状態のセインには会ってはいないはずだった。
「ぇと…このセインはんは……」
「……ボクはボクだよ…」
いつの間にかセインが顔を上げ、その濡れた紫の瞳でレーヴェを見つめていた。
何も無かったように目をごしごしと擦り、無邪気な様子でにっこりと笑う。
「お姉ちゃんたちもそりゃあ、普通の女の人に比べれば強いのかもしれないけど。
でもダメだよ。そんなんじゃボクには勝てない」
どこかその口調に寂しげなものが混じったのは気のせいだったのか。
セインは立ち上がり、服についた土をぱたぱたとはたき落とした。
立ち上がったセインを見て、レーヴェは小さく首を傾げる。
(何やセインはん…すこぅし縮んだみたいどすぇ)
微妙な違和感がある。
だが、それが何かハッキリとは分からない。
「セインさん?」
そんなレーヴェに気がつかず、シャルロットが怪訝そうに彼に呼びかけていた。
「?」
セインがきょとんとそちらに目を向ける。
しかし彼女に興味をなくしたかのように、その目はすぐにふっと外れた。
「イヤなゆめ見ちゃったよ。
だからさ、お姉ちゃんたち、遊んでよ」
『遊ぶ』という言葉一つなのに、周囲の気温が明らかに低下したのが分かる。
「何して遊ぶんどすか?」
レーヴェがゆっくりと問うた。
じっとその碧眼はセインに注がれている。
答えはもう分かっていた。
レーヴェが彼と会うのはこれでもう4回目だ。
そして彼の行動はいつも同じ。
「そんなの決まってるよね」
にこにこと笑うセインの体が魔力を帯びる。
セインの使える属性は木・金・土。
しかしこの時ばかりはそれ以外の属性も使えるようなのだ。
ジキルに向かって、全属性を使う魔法を放とうとしていたその場にも、レーヴェは居合わせていた。
「セインはん…」
レーヴェはひたと彼を見つめる。
「本当にそれでいいんどすか……?」
セインの表情は変わらない。
魔力が一点に収束していく。
「…本当に、それで後悔しはりませんか?」
『あなたと居るだけで私がどれだけ幸せか……あなたはご存じないでしょう?』
「セインはんは逃げてはる、思います。ちいちゃい頃の記憶に逃げてはると思いますぇ」
『この戦いが無事に終わったら…その時は………』
少し苦笑気味に、でも優しく微笑むセインの姿が重なる。
『誰も…失くしたくない……』
「こんなこと、ほんまに望んではるんどすか…?」
レーヴェの言葉に、セインが戸惑った顔を見せた。
「何言ってるの、お姉ちゃん。分からないよ」
『 ……そう、ですか。それは辛いことですね……』
シャルロットが恐怖の感情が一部麻痺していると言った時、セインはそう悲しげに微笑していた。
『感情の一部が閉ざされることの辛さ…それは私だって分からないわけじゃないですから……』
あの時はセインさんも苦労してるんだってそう思っただけだったけれど。
そのあと、ふとしたことから2人で話す機会があって、少しだけその言葉の意味を知った。
『私は人を好きになるということを、つい最近まで知りませんでしたけど…、幸せっていうのもどういう状態なのか、知りませんでしたけども……』
瞳は寂しそうに翳っているくせに、そう言って微笑んだセイン。
自分の幸せを多分という形でしか表現できなかった人。
「何がどうなってるのかよく分かんないけど、セインさん、あの時言ってたじゃない。
『皆さんが居て……いろいろなことを話して……。私はきっと、今このときが幸せな思い出です』
って。それを自分で壊しちゃってもいいの?」
幸せな思い出があれば悲しみは薄められる。
自分がそうだったから……。
「ボク、そんなこと言ってないよ? お姉ちゃんの勘違いだよ、きっと…っ」
セインの顔に、だんだんと焦りのような色が見え始めていた。
「さっきだってキツネのお兄ちゃんを殺してきたんだ…。
お姉ちゃんたちだって弱いから殺すんだ…っ!」
「キツネのお兄ちゃんて……ジェイクはんどすか?!」
驚いた顔でレーヴェがセインを見つめる。
一番最初にセインが幼児退行したときに、初めに戦いを仕掛けたのもジェイクだった。
「名前なんてしらないよ」
セインはぷいっとそっぽを向く。
「青いキツネのお兄ちゃんだよ。ボクをクソガキとか言っといて、全然頑張ってくれないんだもん。殺しちゃった」
森の中を突風が吹きぬけた。
ざわざわと森の木々がざわめく。
微妙な緊張を破ったのは、またシャルロットの声だった。
「ジェイクさんだったら、死んでなかったと思うんだけど。さっき空から眺めてたときに、何かミレナさんと話してたわよ?だいぶ怪我してたみたいだったけど…まあ、ミレナさんが一緒なんだし、すぐ回復するんじゃないかしら」
「え……?」
セインが大きく目を見開いて、シャルロットを見つめる。
「そんなはずないよ。ボク、確かに殺したんだもんっ。あの状態で、そんなに長く保つはずがないよっ!」
「セインはん……」
レーヴェがゆっくりと近づいて、セインの顔を見上げた。
「殺してへんで良かったやないどすか……。怖かったん違いますか? 殺してしもたんかと…ずっと怖かったんどすやろ?」
「………っ」
セインが小さく息を呑む。
きゅっと唇をかみ締め、彼は青ざめた顔で身を少し引いた。
紫の瞳に浮かぶのは躊躇いの色。
幼い頃の記憶に戻っていても…その中には今のセインが居る。
彼自身は気づいていないかもしれないが、確かにそこにセインは居るのだ。
「さあ、もう元のセインはんに戻っておくれやす。
もう十分やあらしまへんか?」
伸ばされたレーヴェの手を、セインは払うことも出来ずに見つめていた。
また雨が降り始める。
一雫…二雫……。
森の木々の張り出した枝が雨に弾かれ、激しい音を打ち鳴らし。
急に暗くなった周囲が、森の中を闇に閉ざした。
獣の遠吠えがとても近くで響いたような気がした。
きっかけはシャルロットのその言葉だった。
「…ぅ……」
セインが何か呟く。
「なんどすか?セインはん?」
「…ボクは化け物なんだ……。だから人だって殺すんだ……」
熱に浮かされたような言葉が空気を震わせ、レーヴェの耳に届いた。
どこか幼いその声音、自分のことを「ボク」と言うこと。
何度かそれを目にしているレーヴェには、今がどういう状態かすぐに分かる。
「にゃ?その口調は…‥‥セインはんどすか?」
「何言ってるの? レーヴェさん。さっきからセインさんって呼んでたと思うんだけど」
シャルロットの耳には、先程のセインの言葉は届いていないようだった。
もっともたとえ届いていても、レーヴェと同じことに気がついたかどうかは分からない。
シャルロットはこの状態のセインには会ってはいないはずだった。
「ぇと…このセインはんは……」
「……ボクはボクだよ…」
いつの間にかセインが顔を上げ、その濡れた紫の瞳でレーヴェを見つめていた。
何も無かったように目をごしごしと擦り、無邪気な様子でにっこりと笑う。
「お姉ちゃんたちもそりゃあ、普通の女の人に比べれば強いのかもしれないけど。
でもダメだよ。そんなんじゃボクには勝てない」
どこかその口調に寂しげなものが混じったのは気のせいだったのか。
セインは立ち上がり、服についた土をぱたぱたとはたき落とした。
立ち上がったセインを見て、レーヴェは小さく首を傾げる。
(何やセインはん…すこぅし縮んだみたいどすぇ)
微妙な違和感がある。
だが、それが何かハッキリとは分からない。
「セインさん?」
そんなレーヴェに気がつかず、シャルロットが怪訝そうに彼に呼びかけていた。
「?」
セインがきょとんとそちらに目を向ける。
しかし彼女に興味をなくしたかのように、その目はすぐにふっと外れた。
「イヤなゆめ見ちゃったよ。
だからさ、お姉ちゃんたち、遊んでよ」
『遊ぶ』という言葉一つなのに、周囲の気温が明らかに低下したのが分かる。
「何して遊ぶんどすか?」
レーヴェがゆっくりと問うた。
じっとその碧眼はセインに注がれている。
答えはもう分かっていた。
レーヴェが彼と会うのはこれでもう4回目だ。
そして彼の行動はいつも同じ。
「そんなの決まってるよね」
にこにこと笑うセインの体が魔力を帯びる。
セインの使える属性は木・金・土。
しかしこの時ばかりはそれ以外の属性も使えるようなのだ。
ジキルに向かって、全属性を使う魔法を放とうとしていたその場にも、レーヴェは居合わせていた。
「セインはん…」
レーヴェはひたと彼を見つめる。
「本当にそれでいいんどすか……?」
セインの表情は変わらない。
魔力が一点に収束していく。
「…本当に、それで後悔しはりませんか?」
『あなたと居るだけで私がどれだけ幸せか……あなたはご存じないでしょう?』
「セインはんは逃げてはる、思います。ちいちゃい頃の記憶に逃げてはると思いますぇ」
『この戦いが無事に終わったら…その時は………』
少し苦笑気味に、でも優しく微笑むセインの姿が重なる。
『誰も…失くしたくない……』
「こんなこと、ほんまに望んではるんどすか…?」
レーヴェの言葉に、セインが戸惑った顔を見せた。
「何言ってるの、お姉ちゃん。分からないよ」
『 ……そう、ですか。それは辛いことですね……』
シャルロットが恐怖の感情が一部麻痺していると言った時、セインはそう悲しげに微笑していた。
『感情の一部が閉ざされることの辛さ…それは私だって分からないわけじゃないですから……』
あの時はセインさんも苦労してるんだってそう思っただけだったけれど。
そのあと、ふとしたことから2人で話す機会があって、少しだけその言葉の意味を知った。
『私は人を好きになるということを、つい最近まで知りませんでしたけど…、幸せっていうのもどういう状態なのか、知りませんでしたけども……』
瞳は寂しそうに翳っているくせに、そう言って微笑んだセイン。
自分の幸せを多分という形でしか表現できなかった人。
「何がどうなってるのかよく分かんないけど、セインさん、あの時言ってたじゃない。
『皆さんが居て……いろいろなことを話して……。私はきっと、今このときが幸せな思い出です』
って。それを自分で壊しちゃってもいいの?」
幸せな思い出があれば悲しみは薄められる。
自分がそうだったから……。
「ボク、そんなこと言ってないよ? お姉ちゃんの勘違いだよ、きっと…っ」
セインの顔に、だんだんと焦りのような色が見え始めていた。
「さっきだってキツネのお兄ちゃんを殺してきたんだ…。
お姉ちゃんたちだって弱いから殺すんだ…っ!」
「キツネのお兄ちゃんて……ジェイクはんどすか?!」
驚いた顔でレーヴェがセインを見つめる。
一番最初にセインが幼児退行したときに、初めに戦いを仕掛けたのもジェイクだった。
「名前なんてしらないよ」
セインはぷいっとそっぽを向く。
「青いキツネのお兄ちゃんだよ。ボクをクソガキとか言っといて、全然頑張ってくれないんだもん。殺しちゃった」
森の中を突風が吹きぬけた。
ざわざわと森の木々がざわめく。
微妙な緊張を破ったのは、またシャルロットの声だった。
「ジェイクさんだったら、死んでなかったと思うんだけど。さっき空から眺めてたときに、何かミレナさんと話してたわよ?だいぶ怪我してたみたいだったけど…まあ、ミレナさんが一緒なんだし、すぐ回復するんじゃないかしら」
「え……?」
セインが大きく目を見開いて、シャルロットを見つめる。
「そんなはずないよ。ボク、確かに殺したんだもんっ。あの状態で、そんなに長く保つはずがないよっ!」
「セインはん……」
レーヴェがゆっくりと近づいて、セインの顔を見上げた。
「殺してへんで良かったやないどすか……。怖かったん違いますか? 殺してしもたんかと…ずっと怖かったんどすやろ?」
「………っ」
セインが小さく息を呑む。
きゅっと唇をかみ締め、彼は青ざめた顔で身を少し引いた。
紫の瞳に浮かぶのは躊躇いの色。
幼い頃の記憶に戻っていても…その中には今のセインが居る。
彼自身は気づいていないかもしれないが、確かにそこにセインは居るのだ。
「さあ、もう元のセインはんに戻っておくれやす。
もう十分やあらしまへんか?」
伸ばされたレーヴェの手を、セインは払うことも出来ずに見つめていた。
また雨が降り始める。
一雫…二雫……。
森の木々の張り出した枝が雨に弾かれ、激しい音を打ち鳴らし。
急に暗くなった周囲が、森の中を闇に閉ざした。
獣の遠吠えがとても近くで響いたような気がした。
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