「川縁の戦い」

昼過ぎから降り出した雨は、再びその勢いを強めていた。
ばしゃばしゃと荒々しく水が跳ねる。
ガツッと重いものが合わされるような鈍い音が、先程からそこでは繰り返されていた。


「……まったく…どうしてこうも異邦者が紛れ込む……」
少し離れたところでそれを見ている忍びが、うんざりしたように呟いた。
彼の視線の先では、３人の忍びが真紅の鎧を身に纏った男を取り囲んでいる。
男の身長は高い部類に入るのだろう。
忍びたちは痩身で小柄なものたちが多く、彼は頭一つ分つき抜けていた。
陽が落ちて完全に夜になる前の空の色……紫色の髪が雨にすっかり濡れてその色を濃くしている。
その身が急に低く沈み、ばっと髪先から雨の雫が飛び散った。
手にした大剣が忍びの体へと吸い込まれるように叩き込まれる。
「紫炎荒破夢幻斬…！」
髪と同じ色の瞳を好戦的に光らせ、彼は言った。
何もすることが出来ぬまま、その忍びがどう…と倒れる。
「へっ！弱いんだよ！！」
戦いたいから戦う。
彼がこの里に来た理由は何よりも明確だ。
ここに現れてから、何人の相手と戦ってきたか。
もちろん両の手では足らない。
「…強い者と戦いたいならば、あの鍛冶師の味方につくといい。それならば、嫌でも戦うことになる……」
明らかに押されている自分の手のものたちを、援護することもなしに見ていた忍びは呟いた。
「…こんな人形たちと戦っても、何の意味もないと思うがな……」
彼もまた、忍びたちを『人形』と呼んだ。
その言葉に真紅の鎧の男は一瞬、訝しげな顔を見せたが、すぐに自分の前にいる忍びたちに向き直る。
「俺は戦えればそれでいいんだよ…っと！」
急に飛んできた棒剣を、彼は力任せに剣の刃で弾いた。
「話してる間に攻撃してくるなんて、ずるいぞ！！」
ばしゃっ！
水の中に落ちた棒剣が、勢いよく飛沫を跳ね上げる。
その飛沫がおさまる前に。
男は前に残っていた忍びを２人とも伸していた。
1人だけ残っているえらそうな忍びに、剣を突きつける。
「とりあえずお前も戦えよ！」
「…これ以上異邦者が増えるようでは、長の大望の妨害となるやもしれん……。あれを完全に壊すまでは、許されているわけではないが……お相手いたそう……」
忍びは謎かけのように呟き、刀を抜き放った。


土砂降りの雨の中、それぞれの得物を手に向かい合う２つの影。
その傍らを流れる川の水は増水し、ごうごうとうなりを上げて流れていく。
突然降り出した雨は、一向に止む様子を見せなかった。

セイン