ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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「むう…雨が強くなってきたな…」
走るくうぱあの足元で、ばしゃばしゃと水が跳ね上げられる。
長の屋敷の側で中の状態を探っているはずの久遠は、そのどこにも居なかった。
屋敷の中に踏み込んだという可能性を振り払い、淳とくうぱあは手分けして久遠を探していた。
もし、どこかで忍びたちに襲撃されていたら、手助けしなくてはいけない。
1人で戦うのは危険すぎる。
「おや? あれは……」
セインの工房を出る前、会ったばかりの白い大蛇を森の側に見つけ、くうぱあは思わず足を止めた。
シャルロットのケーちゃんだ。
そのつぶらな緑の瞳が何かを訴えかけているように思えて、くうぱあはそちらへと近づく。
(もしかしたら、セインさんが見つかったのかもしれない)
シャルロットは空からセインを探してみると言っていたのだ。
その可能性はある―――。
セインが長に捕らわれたと聞いた時、初めはまさかと思った。
あまりに急な出来事すぎた。
ジェラールが工房でシャルロットに言ったように、自分たちには何でセインが長の呼びかけに答えて1人で外に出たのかも分からない。
歯がゆい思いを感じていたのはくうぱあもまた、同じだった。
森の木々が、激しい雨にそれ以上濡れるのを防いでくれる。
茶色の髪の先から、ポタ…と雫が落ちた。
視界をさえぎる濡れた前髪を払う。
と、その先に。
銀色のウェーブのかかった髪をした少女と、黒髪の女性が見えた。
「レーヴェさんまで来ていたん……」
言いかけて、くうぱあは彼女達の前に佇むもう一つの人影に気がつく。
じっと自分の前に差し出されているレーヴェの手を凝視している、青銀色の髪を緩く束ねた男。
「…セインさん…?」
そう、それはくうぱあらが心配していた、彼の姿に他ならなかった。
何故か自分と目線がほぼ同じだったはずのセインの姿が、少し小さく見える。
近づいてみるとますますそう思えて、くうぱあは一瞬、声をかけ損なった。
「…レーヴェ、さん……?」
セインの瞳の中の戸惑いが、急速に焦点を結び出した。
「セインはん…どすなぁ」
レーヴェがほにゃと微笑む。
差し出されたままの手を取り、セインは泣きそうな顔で小さく頷いた。
「…すみません…すみません……」
「良かった。もう元のセインさんね」
シャルロットもほっとしたように言う。
そちらを見て、セインは彼女にも申し訳なさそうに頭を下げた。
「セインはん? 何で謝りはるんどすか?」
あの状態になった時の記憶は、セインにはない筈である。
これまでもずっとそうだった。
「…私は…何かしたのでしょう? ジェイクさんを殺しかけたように……あなたたちにも何か……」
影を落とした紫色の瞳が潤む。
最近の彼によく見られた姿。
すぐに後ろ向きな考えに陥る悪い癖。
「誰も傷つけたくないのに……なのに守るどころか私自身が傷つけてしまっている……」
セインは俯いた。
「私はダメですね……」
「…それは違いますぇ……。自分で自分のことをダメなんて言ってはいけまへん……」
心配そうな顔をしたレーヴェが紡いだ言葉も、今のセインには届いていないようだった。
「こんなにもたくさんの人たちが、私を助けようとしてくださるなんて……思いませんでした。巻き込みたくなんかなかったのに……」
黙ってそれを聞いていたくうぱあは、思わずむっとした。
その場に飛び込むと、驚いたように3人の視線が集まる。
くうぱあはそれに何も答えずに、セインの前へと進んだ。
「くうぱあ…はんっ?!」
鈍い音とともに、セインがぶっ飛ばされる。
あらあらというように、シャルロットが目を瞬かせた。
「いいかげんにしろ!あんたはそんな人間だったか?
いつもの黒…じゃなかった優しく笑うあんたはどこへ行った!」
倒れたセインを見下ろすくうぱあの心は冷えていた。
何故か悲しかった。
『私は巻き込まれたなんて思っていませんから』
セインに向ってそう伝えた筈だ。
他の皆だってそうなのは、すぐに分かった。
なのにセインにはその言葉は受け止められなかったのか。
嬉しそうに涙ぐんでいたくせに。
「あんたの事を俺は強敵(とも)だと思ってる…。
だが、今のあんたは弱い…自分しか見てない……」
どうしても声を荒げてしまうのは仕方がなかった。
他人に対して気を使うことが多いセインだったが、くうぱあに対しては軽口を叩く事も多かった。
それはセインもまた、自分のことをライバルだと認めてくれているからだと、何となくそんな気がして嬉しかった。
「あんたの目的はなんだ!
長をなんとかして里を救うんじゃなかったのか!
……里の人達は皆あんたを頼りにしてるんだろ?」
思い出させたかった。
久遠の問いに、『大切なものを守りたい。絶対に壊させたりしたくないんです』と強い声で答えた自分のことを。
1人でも戦いを始めようと思ったその勇気を。
「このまま一人で小さくなってて…。
ずっと怯えてる里の人達を見捨てておくのか?」
セインは倒れたまま腕を交差させ、顔の上部を覆って黙っていた。
唇が震えている。
時折、肩が震えるのは泣いているからなのか。
「絶対そんなのはいけない!気をしっかり持つんだ!
あんたは一人じゃないんだからな!」
セインの言うように、何人もの人間がセインを手助けしようと集まっている。
だが、それは巻き込まれたんじゃない。
それぞれの理由があるとはいえ、皆セインを助けたかったのだ。
それを信じてもらわないことには何も始まらなかった。
「…そうどすぇ。セインはんは1人じゃおわしません」
口を挟むのを躊躇っていたレーヴェが、そう告げた。
「もっと頼っておくれやす。きっと皆、そう思うてはりますぇ……。
ウチかて…お役に立てるかどうかは…わかりまへんけど、セインはんには色々お世話になってますし…少ぅしでも、お返しがしたい思うてます……」
くうぱあはそんなレーヴェを見やり、その隣でシャルロットも同意の表情で微笑んでいるのも見て、セインに向き直る。
「みんなが支えてくれる…あんたは一人じゃないんだから……」
激しく打ち付ける雨に重なり合った枝が震え、ばらばらと数滴の雨の雫を少しだけ湿った森の地面の上に落とす。
その音にくうぱあはハッと我に返った。
思わずかっとなって、だいぶと自分のキャラではないことを言ってしまったような気がする。
「っと、つい興奮して怒鳴ってしまいましたね…。
セインさん、私達がついてますよ?それでは不満ですか?」
くうぱあは僅かに苦い微笑を浮かべると、セインを覗き込んだ。
自分は道化でいい。
それで少しでも皆が笑えるのなら、徹底的にそれに徹するつもりだ。
覆いの上からでもその気配に気がついたのか、セインがびくっと震える。
「ほら、いつまでそうしているつもりですか?」
促すように言うと、セインはそろそろと目の上から腕をどけた。
潤んだ瞳は、泣いたためかだいぶと赤い。
くうぱあはそんなセインに手を差し伸べた。
「帰りましょう? アプリルさんをこれ以上心配で泣かせたら、エルデさんに銃口を突きつけられますよ」
笑いながら言うと、セインが小さく苦笑して身を起こす。
くうぱあの手を取らないで立ち上がって、服の埃をはたくと……セインはパシンとその手に自分の手を打ちあわせた。
「私はどうせ、黒…ですからねっ。余計なお世話ですよ〜」
いつもの口調、いつもの微笑。
少しだけ無理をしているようにも感じられないことはなかったが、そんなに急に立ち直れるものでもないことも分かっていた。
とりあえず少しでもセインに自分の言葉が届いているように……くうぱあは願った。
走るくうぱあの足元で、ばしゃばしゃと水が跳ね上げられる。
長の屋敷の側で中の状態を探っているはずの久遠は、そのどこにも居なかった。
屋敷の中に踏み込んだという可能性を振り払い、淳とくうぱあは手分けして久遠を探していた。
もし、どこかで忍びたちに襲撃されていたら、手助けしなくてはいけない。
1人で戦うのは危険すぎる。
「おや? あれは……」
セインの工房を出る前、会ったばかりの白い大蛇を森の側に見つけ、くうぱあは思わず足を止めた。
シャルロットのケーちゃんだ。
そのつぶらな緑の瞳が何かを訴えかけているように思えて、くうぱあはそちらへと近づく。
(もしかしたら、セインさんが見つかったのかもしれない)
シャルロットは空からセインを探してみると言っていたのだ。
その可能性はある―――。
セインが長に捕らわれたと聞いた時、初めはまさかと思った。
あまりに急な出来事すぎた。
ジェラールが工房でシャルロットに言ったように、自分たちには何でセインが長の呼びかけに答えて1人で外に出たのかも分からない。
歯がゆい思いを感じていたのはくうぱあもまた、同じだった。
森の木々が、激しい雨にそれ以上濡れるのを防いでくれる。
茶色の髪の先から、ポタ…と雫が落ちた。
視界をさえぎる濡れた前髪を払う。
と、その先に。
銀色のウェーブのかかった髪をした少女と、黒髪の女性が見えた。
「レーヴェさんまで来ていたん……」
言いかけて、くうぱあは彼女達の前に佇むもう一つの人影に気がつく。
じっと自分の前に差し出されているレーヴェの手を凝視している、青銀色の髪を緩く束ねた男。
「…セインさん…?」
そう、それはくうぱあらが心配していた、彼の姿に他ならなかった。
何故か自分と目線がほぼ同じだったはずのセインの姿が、少し小さく見える。
近づいてみるとますますそう思えて、くうぱあは一瞬、声をかけ損なった。
「…レーヴェ、さん……?」
セインの瞳の中の戸惑いが、急速に焦点を結び出した。
「セインはん…どすなぁ」
レーヴェがほにゃと微笑む。
差し出されたままの手を取り、セインは泣きそうな顔で小さく頷いた。
「…すみません…すみません……」
「良かった。もう元のセインさんね」
シャルロットもほっとしたように言う。
そちらを見て、セインは彼女にも申し訳なさそうに頭を下げた。
「セインはん? 何で謝りはるんどすか?」
あの状態になった時の記憶は、セインにはない筈である。
これまでもずっとそうだった。
「…私は…何かしたのでしょう? ジェイクさんを殺しかけたように……あなたたちにも何か……」
影を落とした紫色の瞳が潤む。
最近の彼によく見られた姿。
すぐに後ろ向きな考えに陥る悪い癖。
「誰も傷つけたくないのに……なのに守るどころか私自身が傷つけてしまっている……」
セインは俯いた。
「私はダメですね……」
「…それは違いますぇ……。自分で自分のことをダメなんて言ってはいけまへん……」
心配そうな顔をしたレーヴェが紡いだ言葉も、今のセインには届いていないようだった。
「こんなにもたくさんの人たちが、私を助けようとしてくださるなんて……思いませんでした。巻き込みたくなんかなかったのに……」
黙ってそれを聞いていたくうぱあは、思わずむっとした。
その場に飛び込むと、驚いたように3人の視線が集まる。
くうぱあはそれに何も答えずに、セインの前へと進んだ。
「くうぱあ…はんっ?!」
鈍い音とともに、セインがぶっ飛ばされる。
あらあらというように、シャルロットが目を瞬かせた。
「いいかげんにしろ!あんたはそんな人間だったか?
いつもの黒…じゃなかった優しく笑うあんたはどこへ行った!」
倒れたセインを見下ろすくうぱあの心は冷えていた。
何故か悲しかった。
『私は巻き込まれたなんて思っていませんから』
セインに向ってそう伝えた筈だ。
他の皆だってそうなのは、すぐに分かった。
なのにセインにはその言葉は受け止められなかったのか。
嬉しそうに涙ぐんでいたくせに。
「あんたの事を俺は強敵(とも)だと思ってる…。
だが、今のあんたは弱い…自分しか見てない……」
どうしても声を荒げてしまうのは仕方がなかった。
他人に対して気を使うことが多いセインだったが、くうぱあに対しては軽口を叩く事も多かった。
それはセインもまた、自分のことをライバルだと認めてくれているからだと、何となくそんな気がして嬉しかった。
「あんたの目的はなんだ!
長をなんとかして里を救うんじゃなかったのか!
……里の人達は皆あんたを頼りにしてるんだろ?」
思い出させたかった。
久遠の問いに、『大切なものを守りたい。絶対に壊させたりしたくないんです』と強い声で答えた自分のことを。
1人でも戦いを始めようと思ったその勇気を。
「このまま一人で小さくなってて…。
ずっと怯えてる里の人達を見捨てておくのか?」
セインは倒れたまま腕を交差させ、顔の上部を覆って黙っていた。
唇が震えている。
時折、肩が震えるのは泣いているからなのか。
「絶対そんなのはいけない!気をしっかり持つんだ!
あんたは一人じゃないんだからな!」
セインの言うように、何人もの人間がセインを手助けしようと集まっている。
だが、それは巻き込まれたんじゃない。
それぞれの理由があるとはいえ、皆セインを助けたかったのだ。
それを信じてもらわないことには何も始まらなかった。
「…そうどすぇ。セインはんは1人じゃおわしません」
口を挟むのを躊躇っていたレーヴェが、そう告げた。
「もっと頼っておくれやす。きっと皆、そう思うてはりますぇ……。
ウチかて…お役に立てるかどうかは…わかりまへんけど、セインはんには色々お世話になってますし…少ぅしでも、お返しがしたい思うてます……」
くうぱあはそんなレーヴェを見やり、その隣でシャルロットも同意の表情で微笑んでいるのも見て、セインに向き直る。
「みんなが支えてくれる…あんたは一人じゃないんだから……」
激しく打ち付ける雨に重なり合った枝が震え、ばらばらと数滴の雨の雫を少しだけ湿った森の地面の上に落とす。
その音にくうぱあはハッと我に返った。
思わずかっとなって、だいぶと自分のキャラではないことを言ってしまったような気がする。
「っと、つい興奮して怒鳴ってしまいましたね…。
セインさん、私達がついてますよ?それでは不満ですか?」
くうぱあは僅かに苦い微笑を浮かべると、セインを覗き込んだ。
自分は道化でいい。
それで少しでも皆が笑えるのなら、徹底的にそれに徹するつもりだ。
覆いの上からでもその気配に気がついたのか、セインがびくっと震える。
「ほら、いつまでそうしているつもりですか?」
促すように言うと、セインはそろそろと目の上から腕をどけた。
潤んだ瞳は、泣いたためかだいぶと赤い。
くうぱあはそんなセインに手を差し伸べた。
「帰りましょう? アプリルさんをこれ以上心配で泣かせたら、エルデさんに銃口を突きつけられますよ」
笑いながら言うと、セインが小さく苦笑して身を起こす。
くうぱあの手を取らないで立ち上がって、服の埃をはたくと……セインはパシンとその手に自分の手を打ちあわせた。
「私はどうせ、黒…ですからねっ。余計なお世話ですよ〜」
いつもの口調、いつもの微笑。
少しだけ無理をしているようにも感じられないことはなかったが、そんなに急に立ち直れるものでもないことも分かっていた。
とりあえず少しでもセインに自分の言葉が届いているように……くうぱあは願った。
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