ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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「ル…ルレットーっ!!」
森の中に悲痛な叫び声が響き渡る。
程なく忍びの里に近い森の中。
まだ、嵐が来る少し前の出来事だった。
「はぅ〜、お兄ちゃん……」
深い森の中を、空色の長い髪の少女がとぼとぼと歩いていた。
木々の隙間から見える空はどんよりと曇っていて、周囲はかなり暗い。
細かな雨が頭上の枝葉を震わせていた。
少女は赤い修道服の上に羽織った夜色のストールを、ぎゅっと胸の前に引き寄せる。
見渡す限り見知らぬ風景が広がっているのが心細い。
いや、いつも側に居る大好きな人の姿がないのが、彼女には一番こたえた。
「ひっく、ひっく、お兄ちゃん〜…」
じわっ…と大きな瞳に涙が浮かぶ。
しかし少女はそれが零れ落ちるのをぐっと堪えた。
迷い込んだ森の中、遭遇したモンスターの大群。
逃げる途中、仲間達からはぐれたルレットは今、1人だった。
「ふぇ?む…ら?」
しばらく歩いて、足が少し痛くなってきた頃、急に目の前にひらけたのは、和の集落だった。
藁葺きの庵が、緑の中にぽつぽつと存在している。
ルレットは知らなかったが、そこはセインの住む忍びの里の端だった。
森の中に居た時より、少しは明るい。
近くから聞こえてくる話し声に、自然と足も早くなった。
誰かが居る。
そこに居るのが悪い人かもしれないという疑いはルレットにはない。
とりあえず1人ではなくなったのが嬉しくて、彼女はそちらへと急ぐ。
「セインさん…でなければ、桔梗さんの居場所を教えてもらえませんか?」
どこか聞き覚えのある声。
それに静かな声が答える。
「む…、セイン殿の味方をする者…か」
そこは集落の入り口のようだった。
一部分だけ申し訳程度に作られた柵と、門を示すような石柱が左右にある。
そこで向かい合う、青髪、黒ローブの魔術師と黒装束の忍者。
魔術師はその手に抜き身の剣を手にしていた。
対峙する忍者は動揺のかけらも見られぬ顔で、相手を見返している。
「行方を知って何とする?」
忍びがそう少しだけ笑った…ように見えた。
含みのある言葉。
それに魔術師の方は唇を噛み締める。
その間に緊迫した空気が漂った。
ケンカしている。
ルレットはそう思った。
「はぅ〜〜、ケンカはダメだよぉ〜〜〜」
ぱたぱたと対峙している2人のもとへと走って出る。
魔道師がはっと我に返ったように、ルレットの方へと視線を流した。
理知的な青い瞳が、少しだけ驚いたように飛び込んできた少女を見つめる。
ルレットは彼のことを知っていた。
あんまり話したことがあるわけじゃないが、お兄ちゃんとの結婚式に来てくれた。
静かに微笑んでいる、優しそうな魔道師。
「はぅ〜、セティさん〜……?」
その名を呼んでみれば、魔道師はふっと苦笑した。
前に居た忍びにちらりと一瞥を向けると、彼はルレットを巻き込まないように自然にその間に立つ。
「大丈夫ですよ。さぁ、行きましょう」
促されたルレットは、とりあえず何の疑問も抱かず、セティに従った。
忍びの姿が見えなくなるところまで来て、セティの口からほっと小さな安堵の息が漏れる。
「ありがとうございました」
突然お礼を言われて、ルレットはきょとんと魔道師を見上げた。
「?ルレット、別に何も……」
何もした覚えはなかった。
そんな彼女に、セティが微笑みかける。
「いえ、助かりましたよ」
ふっと目を上げた彼の顔が難しいものになった。
「ふぇ?」
ワケが分からない。
そういう顔で見つめている少女に気がついたのか、セティは表情を和らげた。
「それで、ルレットさんはどうしてここへ?」
どこかへと向かうセティに置いてかれないようにぱたぱたと歩きながら、ルレットは少しだけしゅんとした。
「お兄ちゃんとはぐれちゃって……」
今、お兄ちゃんたちはどこにいるのだろう。
離れていると心配だった。少し不安だった。
「この辺りは少し危険なので、一緒に行きませんか?
もしかしたら合流できるかもしれないですし」
セティの提案に、こくりと頷く。
「うん、わかったよぉ」
小雨はいつの間にか止んでいた。
ひとときだけ差した陽の光が、空を見上げたルレットの色の違う瞳をきらりと光らせる。
右目の深い緑が透き通って周囲を映して出していた。
瞳の色の違う人間は、時にこの世ならざるものを見ることも出来るという。
遠くに周りの庵とは一風、造りの違う大きな屋敷が見えていた。
森の中に悲痛な叫び声が響き渡る。
程なく忍びの里に近い森の中。
まだ、嵐が来る少し前の出来事だった。
「はぅ〜、お兄ちゃん……」
深い森の中を、空色の長い髪の少女がとぼとぼと歩いていた。
木々の隙間から見える空はどんよりと曇っていて、周囲はかなり暗い。
細かな雨が頭上の枝葉を震わせていた。
少女は赤い修道服の上に羽織った夜色のストールを、ぎゅっと胸の前に引き寄せる。
見渡す限り見知らぬ風景が広がっているのが心細い。
いや、いつも側に居る大好きな人の姿がないのが、彼女には一番こたえた。
「ひっく、ひっく、お兄ちゃん〜…」
じわっ…と大きな瞳に涙が浮かぶ。
しかし少女はそれが零れ落ちるのをぐっと堪えた。
迷い込んだ森の中、遭遇したモンスターの大群。
逃げる途中、仲間達からはぐれたルレットは今、1人だった。
「ふぇ?む…ら?」
しばらく歩いて、足が少し痛くなってきた頃、急に目の前にひらけたのは、和の集落だった。
藁葺きの庵が、緑の中にぽつぽつと存在している。
ルレットは知らなかったが、そこはセインの住む忍びの里の端だった。
森の中に居た時より、少しは明るい。
近くから聞こえてくる話し声に、自然と足も早くなった。
誰かが居る。
そこに居るのが悪い人かもしれないという疑いはルレットにはない。
とりあえず1人ではなくなったのが嬉しくて、彼女はそちらへと急ぐ。
「セインさん…でなければ、桔梗さんの居場所を教えてもらえませんか?」
どこか聞き覚えのある声。
それに静かな声が答える。
「む…、セイン殿の味方をする者…か」
そこは集落の入り口のようだった。
一部分だけ申し訳程度に作られた柵と、門を示すような石柱が左右にある。
そこで向かい合う、青髪、黒ローブの魔術師と黒装束の忍者。
魔術師はその手に抜き身の剣を手にしていた。
対峙する忍者は動揺のかけらも見られぬ顔で、相手を見返している。
「行方を知って何とする?」
忍びがそう少しだけ笑った…ように見えた。
含みのある言葉。
それに魔術師の方は唇を噛み締める。
その間に緊迫した空気が漂った。
ケンカしている。
ルレットはそう思った。
「はぅ〜〜、ケンカはダメだよぉ〜〜〜」
ぱたぱたと対峙している2人のもとへと走って出る。
魔道師がはっと我に返ったように、ルレットの方へと視線を流した。
理知的な青い瞳が、少しだけ驚いたように飛び込んできた少女を見つめる。
ルレットは彼のことを知っていた。
あんまり話したことがあるわけじゃないが、お兄ちゃんとの結婚式に来てくれた。
静かに微笑んでいる、優しそうな魔道師。
「はぅ〜、セティさん〜……?」
その名を呼んでみれば、魔道師はふっと苦笑した。
前に居た忍びにちらりと一瞥を向けると、彼はルレットを巻き込まないように自然にその間に立つ。
「大丈夫ですよ。さぁ、行きましょう」
促されたルレットは、とりあえず何の疑問も抱かず、セティに従った。
忍びの姿が見えなくなるところまで来て、セティの口からほっと小さな安堵の息が漏れる。
「ありがとうございました」
突然お礼を言われて、ルレットはきょとんと魔道師を見上げた。
「?ルレット、別に何も……」
何もした覚えはなかった。
そんな彼女に、セティが微笑みかける。
「いえ、助かりましたよ」
ふっと目を上げた彼の顔が難しいものになった。
「ふぇ?」
ワケが分からない。
そういう顔で見つめている少女に気がついたのか、セティは表情を和らげた。
「それで、ルレットさんはどうしてここへ?」
どこかへと向かうセティに置いてかれないようにぱたぱたと歩きながら、ルレットは少しだけしゅんとした。
「お兄ちゃんとはぐれちゃって……」
今、お兄ちゃんたちはどこにいるのだろう。
離れていると心配だった。少し不安だった。
「この辺りは少し危険なので、一緒に行きませんか?
もしかしたら合流できるかもしれないですし」
セティの提案に、こくりと頷く。
「うん、わかったよぉ」
小雨はいつの間にか止んでいた。
ひとときだけ差した陽の光が、空を見上げたルレットの色の違う瞳をきらりと光らせる。
右目の深い緑が透き通って周囲を映して出していた。
瞳の色の違う人間は、時にこの世ならざるものを見ることも出来るという。
遠くに周りの庵とは一風、造りの違う大きな屋敷が見えていた。
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