ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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話し声が聞こえる。
『…私は…殺し……』
『化け物……』
『……なんにも……いら…な……』
胸が痛くなるような哀しみを秘めた声。
それに重なる無邪気な笑い声の中にも。
同じものが秘められているように感じる。
(ルレットは、ルレットは……)
少女は震えながら、それでも気がついた。
それはセインの心の声。
自分を責めて閉じこもろうとしている、小さな小さな声。
(ダメだよぉ〜。セインさん、泣いちゃダメだよぉ…)
「ルレット! 大丈夫か!?」
遠いところで強い声が響いている。
それを意識と心のハザマで聞きながら、ルレットはたくさんの心の声の中をさ迷っていた。
(セインさんは…ルレットのお友達だよぉ……! 他の皆もきっとそう思ってるよぉ)
「ルレット!!!」
自分の側にあるぬくもりに気がついて、ルレットはふっと意識を現実に向けた。
少女にとって他の何にも変えられない、ただ一つのぬくもり。
(…お兄ちゃん?)
ルレットはいつの間にか閉じてしまっていた左右の瞳を開けた。
絶え間なく押し寄せていたすすり泣きの声が、すうっと遠くなる。
そして代わりに視界に飛び込んできたのは……ルレットが一番好きな人の緑の瞳。
「お…兄ちゃん?」
まだぼうっと霞がかかったような頭で、呼びかけに答える。
「ルレット!よかった、よかった…」
膝を抱え震える少女に何度も呼びかけていたゾファルは、嬉しそうにその小さな体をぎゅっと抱きしめた。
壊さないように気を使いながら、それでも強く。
大好きなぬくもり。大好きな声。
この里に来てから初めて、ルレットの大きな瞳から涙の粒が転がり落ちた。
「お兄ちゃん、助けて。たくさんの人が泣いてるよ…。
悲しいって…苦しいって……。
嫌だよ、嫌だよぉって……」
ぽろぽろと涙を零しながら、必死に訴えかける。
彼ならきっと助けてくれると信じて疑わずに。
ルレットは自分が聞いたことを、何とかゾファルへと伝えようとした。
「お兄ちゃん、セインさんを助けてあげて。
セインさんの中にいるもう一人のセインさんを助けてあげて……」
「もう一人の…セインさん?」
それは普段の穏やかに微笑むセインしか見ていない人間には、よく分からない言葉だった。
だからゾファルは聞き返す。
涙に潤んだ瞳に心を痛めながら、それでも真剣な表情で伝えてくる大切な少女の言葉を一つも聞き漏らさないように。
「はぅ、セインさんの中にもう一人セインさんがいるんだよぉ〜。でも二人は一人で、でも今は二人なんだよぉ…」
せかさないで話を待っていてくれるゾファルに、ルレットは一生懸命に説明する。
「声が聞こえたの…たくさんの声が。
その中にセインさんの声が二つ聞こえたの。
どっちとも泣いていたの。
心の中で、一番深いところで泣いていたの……」
幼児退行を起こした5才のセインもまた。
自分では気づいては居ないかもしれないけど、心の奥底で泣いている。
寂しくて悲しくて。
ルレットはゾファルの腕の中で泣き続けた。
「………、ああ、分かった。
ルレット、だから少し落ち着いて、な」
困ったような顔で、ゾファルが優しくルレットの髪を梳く。
ゾファルはルレットの顔に浮かぶ疲労の色に、敏感に気づいていた。
「うん……」
ルレットがこっくりと頷くと、まつげを濡らす涙を指先がそっと拭っていく。
もう大丈夫。
お兄ちゃんが来てくれた。
一人じゃ無理でもみんなで頑張れば何でもできるから。
だから……。
(…セインさんは笑ってる方がいいよぉ〜……)
暖かな腕に抱きしめられたまま。
ルレットは眠りについた。
そう、そこは世界で一番安心できる場所だから……。
強くなる雨風をよそに、工房の中は優しい幸せに満ちていた。
『…私は…殺し……』
『化け物……』
『……なんにも……いら…な……』
胸が痛くなるような哀しみを秘めた声。
それに重なる無邪気な笑い声の中にも。
同じものが秘められているように感じる。
(ルレットは、ルレットは……)
少女は震えながら、それでも気がついた。
それはセインの心の声。
自分を責めて閉じこもろうとしている、小さな小さな声。
(ダメだよぉ〜。セインさん、泣いちゃダメだよぉ…)
「ルレット! 大丈夫か!?」
遠いところで強い声が響いている。
それを意識と心のハザマで聞きながら、ルレットはたくさんの心の声の中をさ迷っていた。
(セインさんは…ルレットのお友達だよぉ……! 他の皆もきっとそう思ってるよぉ)
「ルレット!!!」
自分の側にあるぬくもりに気がついて、ルレットはふっと意識を現実に向けた。
少女にとって他の何にも変えられない、ただ一つのぬくもり。
(…お兄ちゃん?)
ルレットはいつの間にか閉じてしまっていた左右の瞳を開けた。
絶え間なく押し寄せていたすすり泣きの声が、すうっと遠くなる。
そして代わりに視界に飛び込んできたのは……ルレットが一番好きな人の緑の瞳。
「お…兄ちゃん?」
まだぼうっと霞がかかったような頭で、呼びかけに答える。
「ルレット!よかった、よかった…」
膝を抱え震える少女に何度も呼びかけていたゾファルは、嬉しそうにその小さな体をぎゅっと抱きしめた。
壊さないように気を使いながら、それでも強く。
大好きなぬくもり。大好きな声。
この里に来てから初めて、ルレットの大きな瞳から涙の粒が転がり落ちた。
「お兄ちゃん、助けて。たくさんの人が泣いてるよ…。
悲しいって…苦しいって……。
嫌だよ、嫌だよぉって……」
ぽろぽろと涙を零しながら、必死に訴えかける。
彼ならきっと助けてくれると信じて疑わずに。
ルレットは自分が聞いたことを、何とかゾファルへと伝えようとした。
「お兄ちゃん、セインさんを助けてあげて。
セインさんの中にいるもう一人のセインさんを助けてあげて……」
「もう一人の…セインさん?」
それは普段の穏やかに微笑むセインしか見ていない人間には、よく分からない言葉だった。
だからゾファルは聞き返す。
涙に潤んだ瞳に心を痛めながら、それでも真剣な表情で伝えてくる大切な少女の言葉を一つも聞き漏らさないように。
「はぅ、セインさんの中にもう一人セインさんがいるんだよぉ〜。でも二人は一人で、でも今は二人なんだよぉ…」
せかさないで話を待っていてくれるゾファルに、ルレットは一生懸命に説明する。
「声が聞こえたの…たくさんの声が。
その中にセインさんの声が二つ聞こえたの。
どっちとも泣いていたの。
心の中で、一番深いところで泣いていたの……」
幼児退行を起こした5才のセインもまた。
自分では気づいては居ないかもしれないけど、心の奥底で泣いている。
寂しくて悲しくて。
ルレットはゾファルの腕の中で泣き続けた。
「………、ああ、分かった。
ルレット、だから少し落ち着いて、な」
困ったような顔で、ゾファルが優しくルレットの髪を梳く。
ゾファルはルレットの顔に浮かぶ疲労の色に、敏感に気づいていた。
「うん……」
ルレットがこっくりと頷くと、まつげを濡らす涙を指先がそっと拭っていく。
もう大丈夫。
お兄ちゃんが来てくれた。
一人じゃ無理でもみんなで頑張れば何でもできるから。
だから……。
(…セインさんは笑ってる方がいいよぉ〜……)
暖かな腕に抱きしめられたまま。
ルレットは眠りについた。
そう、そこは世界で一番安心できる場所だから……。
強くなる雨風をよそに、工房の中は優しい幸せに満ちていた。
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