ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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(森の中。工房を目指し進んでいたセインたちの視界の隅を、青いものがちらりと掠めた)
ルダもレーヴェも、視界の端にちらりと見えた青いものには特に気を払っていないようだった。
だがそれが何なのか、セインには一瞬で分かってしまった。
セインの顔がみるみるうちに強張る。
「…セイン?」
不思議そうなルダの視線に、何とか笑みを返す。
「ちょっと急用を思い出しました…。
すぐに戻りますのでちょっとここで待っていてくださいませんか?」
無茶なことを言っているということは自分でも分かっている。それでも。
これから見せる自分は、ルダやレーヴェの目には晒したくないとセインはそう思った。
「はあっ?!」
「セインはん?!!」
驚く2人から半ば表情を隠すように背を向ける。
「けっこう危険な罠がありますから、下手に動かない方がいいですよ。
まあ、忍びたちはここまで来ないとは思いますが……師匠。レーヴェさんをお願いしますね」
セインは脅すような言葉を、わざと意識して選んだ。
ついてきてほしくない。
出来うる限り装った平静を彼女の前では崩したくないから。
でも……殺しかけた人間と再び対峙して、演じ続ける自信はセインにはなかった。
そう、あれは。
殺してしまったと思っていたジェイクだ。
シャルロットの言葉で、生きているのだとは分かったがそれでも、自分が彼を殺しかけたのだという事実は変わらない。
「セインはん…急用って何どすか……?」
不安そうに揺れるレーヴェの声を耳から閉め出す。
何か言いたそうなルダの視線も黙殺して。
セインは丈の低い木々の間をかき分け、歩き出した。
距離は少しある。
そこへと向かう間に、緊張で口の中がカラカラになった。
ジェイクは何と言うだろうか?
人殺しと罵ってくれる方がたぶん気が楽になる。
だがそうなった時に自分は自分のままで居られるだろうか。
それが怖い。
もともと足を忍ばせるつもりもなかった。
下生えを踏みしめる音で、ハッとそこにいた2人が顔を上げる。
やはりそれはジェイクとミレナだった。
「…セインさん……?」
ミレナが微笑を浮かべるのを視界の端に捕らえながら、硬い表情でセインはジェイクを見つめる。
乾いた血は黒ずんであちこちを染めていたが、今にも命に関わるような怪我は見当たらなかった。
ミレナと一緒だということで大丈夫だと分かってはいたが、それでも実際に自分の目で確かめてホッとする。
「………」
ジェイクと目が合って、セインは慌てて視線を逃がした。
傍らに下ろした手が震えるのを、ぐっと指を握りこむことで押さえる。
「……すみません」
謝って済むような問題ではないと分かってはいたが、とりあえず言わずにはおれなかった。
ジェイクが憮然とした顔をする。
「もういいですよ…」
「…ジェイクさんを殺しかけるなんて……私は」
自分で自分が許せなかった。
このままではきっとジェイクだけでなく、もっと多くの人間を傷つける。
そもそもこの戦を始めたのは、自分のエゴなのだ。
他の人には何のしがらみも理由もない。
……くうぱあやレーヴェはああ言ってくれたが、それでも。
自分のせいで誰かを傷つけたくはなかった。
助けに来てくれたのは嬉しかったけれども。
「私が居ることで、戦は始まり、傷つかなくてもいい人を傷つけた……」
思わず呟きが漏れる。
本当はずっと思っていた。
巻き込みたくないとことあるごとに言っていたのは…誰かが傷つくこと、傷つけることが怖かったからだ。
ジェイクの顔がますます憮然としたものになる。
「セインさん…」
名前を呼ばれて、セインはびくっと震えた。
おそるおそるジェイクに視線を向ける。
怒ったような目に、続く言葉を聞くのが怖くなった。
ミレナは何も言わずに、じっと見つめていた。
「セインさん…まだ皆を巻き込みたくないとか何だとか、グダグダ考えてるんでしょう?」
ため息まじりに言われて、返す言葉がなくなる。
セインにとってジェイクは自分に近いものを感じて、親しめる存在だった。
友人ではなく、ライバルというわけでもない。
それでも…大切な人だった。
「………」
セインは再び目をそらす。
そんなセインに、ジェイクはさらにムッとしたようだった。
「…あなたは居ない方がマシかもしれませんね?」
「え……?」
口早に言われて、意味がよくつかめずに聞き返す。
「あなたは回りを危険に巻き込むから…俺が楽にさせてあげましょうって言ってるんですよ!!」
叩きつけられるような言葉に、思わず息がつまった。
……それは。
何度となく思ったことのある一つの決着だった。
たとえ、いつか世に討って出た里長と戦うことがあるかもしれないにせよ、自分のせいで皆が傷つくことがないのなら……。
セインの紫の瞳が揺れた。
誰にも言ったことはなかったが……。
どこかで殺してくれる人間を望んでいた。
自分を殺しても傷つかない人間。
(マスターさんが殺してくださるかも…と思ってたんですけどね……)
少しだけ苦笑が零れる。
だがジェイクなら大丈夫だろう。
そう思う。
森の中を風が吹き抜ける。
思いに囚われれば、それは迷路に迷い込んだようにそう簡単には抜けられない。
セインは目を伏せ、黙っていた。
雨はまだまだ弱まる様子を見せなかった。
ルダもレーヴェも、視界の端にちらりと見えた青いものには特に気を払っていないようだった。
だがそれが何なのか、セインには一瞬で分かってしまった。
セインの顔がみるみるうちに強張る。
「…セイン?」
不思議そうなルダの視線に、何とか笑みを返す。
「ちょっと急用を思い出しました…。
すぐに戻りますのでちょっとここで待っていてくださいませんか?」
無茶なことを言っているということは自分でも分かっている。それでも。
これから見せる自分は、ルダやレーヴェの目には晒したくないとセインはそう思った。
「はあっ?!」
「セインはん?!!」
驚く2人から半ば表情を隠すように背を向ける。
「けっこう危険な罠がありますから、下手に動かない方がいいですよ。
まあ、忍びたちはここまで来ないとは思いますが……師匠。レーヴェさんをお願いしますね」
セインは脅すような言葉を、わざと意識して選んだ。
ついてきてほしくない。
出来うる限り装った平静を彼女の前では崩したくないから。
でも……殺しかけた人間と再び対峙して、演じ続ける自信はセインにはなかった。
そう、あれは。
殺してしまったと思っていたジェイクだ。
シャルロットの言葉で、生きているのだとは分かったがそれでも、自分が彼を殺しかけたのだという事実は変わらない。
「セインはん…急用って何どすか……?」
不安そうに揺れるレーヴェの声を耳から閉め出す。
何か言いたそうなルダの視線も黙殺して。
セインは丈の低い木々の間をかき分け、歩き出した。
距離は少しある。
そこへと向かう間に、緊張で口の中がカラカラになった。
ジェイクは何と言うだろうか?
人殺しと罵ってくれる方がたぶん気が楽になる。
だがそうなった時に自分は自分のままで居られるだろうか。
それが怖い。
もともと足を忍ばせるつもりもなかった。
下生えを踏みしめる音で、ハッとそこにいた2人が顔を上げる。
やはりそれはジェイクとミレナだった。
「…セインさん……?」
ミレナが微笑を浮かべるのを視界の端に捕らえながら、硬い表情でセインはジェイクを見つめる。
乾いた血は黒ずんであちこちを染めていたが、今にも命に関わるような怪我は見当たらなかった。
ミレナと一緒だということで大丈夫だと分かってはいたが、それでも実際に自分の目で確かめてホッとする。
「………」
ジェイクと目が合って、セインは慌てて視線を逃がした。
傍らに下ろした手が震えるのを、ぐっと指を握りこむことで押さえる。
「……すみません」
謝って済むような問題ではないと分かってはいたが、とりあえず言わずにはおれなかった。
ジェイクが憮然とした顔をする。
「もういいですよ…」
「…ジェイクさんを殺しかけるなんて……私は」
自分で自分が許せなかった。
このままではきっとジェイクだけでなく、もっと多くの人間を傷つける。
そもそもこの戦を始めたのは、自分のエゴなのだ。
他の人には何のしがらみも理由もない。
……くうぱあやレーヴェはああ言ってくれたが、それでも。
自分のせいで誰かを傷つけたくはなかった。
助けに来てくれたのは嬉しかったけれども。
「私が居ることで、戦は始まり、傷つかなくてもいい人を傷つけた……」
思わず呟きが漏れる。
本当はずっと思っていた。
巻き込みたくないとことあるごとに言っていたのは…誰かが傷つくこと、傷つけることが怖かったからだ。
ジェイクの顔がますます憮然としたものになる。
「セインさん…」
名前を呼ばれて、セインはびくっと震えた。
おそるおそるジェイクに視線を向ける。
怒ったような目に、続く言葉を聞くのが怖くなった。
ミレナは何も言わずに、じっと見つめていた。
「セインさん…まだ皆を巻き込みたくないとか何だとか、グダグダ考えてるんでしょう?」
ため息まじりに言われて、返す言葉がなくなる。
セインにとってジェイクは自分に近いものを感じて、親しめる存在だった。
友人ではなく、ライバルというわけでもない。
それでも…大切な人だった。
「………」
セインは再び目をそらす。
そんなセインに、ジェイクはさらにムッとしたようだった。
「…あなたは居ない方がマシかもしれませんね?」
「え……?」
口早に言われて、意味がよくつかめずに聞き返す。
「あなたは回りを危険に巻き込むから…俺が楽にさせてあげましょうって言ってるんですよ!!」
叩きつけられるような言葉に、思わず息がつまった。
……それは。
何度となく思ったことのある一つの決着だった。
たとえ、いつか世に討って出た里長と戦うことがあるかもしれないにせよ、自分のせいで皆が傷つくことがないのなら……。
セインの紫の瞳が揺れた。
誰にも言ったことはなかったが……。
どこかで殺してくれる人間を望んでいた。
自分を殺しても傷つかない人間。
(マスターさんが殺してくださるかも…と思ってたんですけどね……)
少しだけ苦笑が零れる。
だがジェイクなら大丈夫だろう。
そう思う。
森の中を風が吹き抜ける。
思いに囚われれば、それは迷路に迷い込んだようにそう簡単には抜けられない。
セインは目を伏せ、黙っていた。
雨はまだまだ弱まる様子を見せなかった。
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