ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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何も言わないセインに、イライラと何かを言いかけて…ジェイクは口をつぐんだ。
まさかセインが何も反論してこないとは思っていなかった。
出来るだけ怪我人を減らす為に、早く戦を終わらせたいと思う。
その為にはセインが迷いを消して、長に立ち向かってくれるのが望ましかった。
(長が勝っちゃうと余計怪我人増えちゃいそうだけど、かと言って長を殺す力も無いからな…。
役に立たないかもしれないけど、俺は出来る事を出来るだけやる……)
だからあえて悪役でもいいと思う。
「…無抵抗か…。フフ…俺に殺されれば楽だとでも思ってんだろ?…甘いな」
笑ってみせれば、セインの肩がビクリと震えた。
おそるおそる向けてくる紫の瞳は、さまざまな感情に揺れていて。
まだ気持ちを変える余地はあると知る。
「あんたを引き渡す…。平和的なグッドアイディアだろ?誰も巻き込みたくないのなら、里長の為に仕事をしていれば良い」
セインは何故、この戦を始めたのか。
もう一度思い出せばいい。
何故、里長に立ち向かおうとしたのか…何故、里長には従えないのか。
「……里長の為に仕事をしていれば、少なくとも“巻き込まれて”戦う奴は居なくな―――」
「半端な妖狐よ。なかなか面白いことを言っているな」
突然言葉を遮ったものに、ジェイクの全身に言いようのない戦慄が走った。
耳やしっぽの毛が逆立っているような、そんな嫌な感覚に襲われる。
「………」
セインも血の気の引いた顔で、その一点を見つめていた。
ちょうどジェイクとセインの間を遮るその位置に。
人影が形を結ぶ。
「以前の最後の様子では協力する気はないかと思ったのだがな」
すべてを知っていて、なおも面白がっているかのように、それは言葉を紡いだ。
閉じていた瞼を開ければ、その奥から青磁色の瞳が現れる。
青みのある淡い緑。
そんな瞳を持つ人間はこの里には1人しか居ない。
ジェイクはマスターやジェラールとともに、彼と一度会ったことがあった。
「まあ、協力するというのなら、それを拒む理由はないな…」
この忍びの里の現在の長セト・ウォート。
彼は人を喰ったような笑みを浮かべた。
大陸全土で起こっていた戦争は、皇帝が倒れ紅竜も討たれて、終結へと向いつつあった。
残るはエジプト神。そしてそのエジプト神のひとつと同じ名を冠した彼は―――。
「どうする?弱き鍛冶師よ。この妖狐のいうように、私に従うのか?」
「………」
答えないセインに少しも焦れた様子はなく、セトは楽しげにセインに向って続けた。
「守られているのは自分だから、と言っていたな」
それは先日、セトと対峙した時にセインが言った言葉だ。
「だからやつらが自分の前で死ぬかもしれないという脅しは効かない、と」
空気が魔をはらむ。
ジェイクは神経を張りつめさせ、ミレナをその背に庇うように移動した。
「だが、もし脅しではなく、本当に目の前でやつらが死にかけたら? それでもそう言っていられるか?」
「………」
セインは無言で目をそらす。
その表情が答えを何よりも如実に伝えていた。
もしそれを見過ごせるようなら、初めから巻き込んだなどと悩んではいない。
周囲の魔力が集束し、セトの手の上でこぶし大の火球となる。
「ま…待ってくださいっっ!」
その行方を思い、顔面を蒼白にして制止の声を上げたセインの目の前で。
それ(火球)はジェイクらの方ではなく、まったく意外な方向へと投げ放たれた。
視界を遮っていた緑が燃え上がる。
そしてその向こうには。
金色の髪をした男が立っていた。
その青い瞳が炎の照り返しを受けて、不思議な色に染まる。
「ふむ。やはりまた会ったか……」
セトが笑みを崩すことなく呟いた。
「出来ればあんたには、あんまり会いたくなかったけどな」
そこに立っていたジェラールは、そう小さく苦い笑みを零した。
あれは少し前の出来事だった。
何がきっかけだったのか知らないが、マスターやジェイクがこの里長と呼ばれる男と話をしていた。
少しは興味があったのかもしれない。
何でセインを狙うのかということを聞きたかったのかもしれない。
彼らの話を立ち聞きしている間に……どうしてもひとこと言いたくなって、そこに入っていってしまった。
『里長さんとやら、あんたは俺たちがセインさんのなんたるかを知らないで味方についているのを笑ってたみたいだけどさ…、あんたにとっていろんな事が無意味な事みたいに、俺にとってもそんなことは無意味なことなんだぜ』
『あれ(セイン)がどういう存在でも、か…?』
他人のことを「あれ」と呼ぶことも、浮かべられたその人を馬鹿にしたような笑みも。
いちいち腹が立った。
『たとえば…お前はあれの生まれを知っているか? 知っておいた方がよいこともある』
『はは、あんたがいう「知っておいた方が良いこと」…か。ろくな事じゃなさそうだ』
セインがいったい何なのか…、それは多分、自分がセインにつかない理由にはならないと思う。
そりゃ、まったく気にならないといったら嘘になるが。
だがそれでも、セインがどんな人かはちょっとは知ってるつもりだった。
燻っている草を踏みわけて、ジェラールはセインの前まで来る。
「よお、セインさん。何か久しぶりなような気がするな」
笑みを浮かべ言葉をかけると、セインの顔がホッと安心したように緩んだ。
「…ジェラール…さん……」
セインの周囲の張りつめていた空気がふっと解ける。
「どうしてここに……?」
「や、セインさんを探してたんだけど…ってジェイクとミレナさんも一緒か」
里長の向こう側に見知った顔を見つけ、ジェラールは軽く手を上げ挨拶した。
ミレナが小さく頭を下げてくる。
「で…? 何で里長さんとやらが、ここに居るわけ? とうとうご登場ってわけか?」
間に立ちふさがる人間から目を離さずに、セインに問う。
セインは困ったように小さく首を左右に振った。
「……私にも分かりません…」
様子を黙って見つめていた里長の目が、すうっと細められる。面白いといったふうに、その口元が緩んだ。
「ふむ。なるほど…な」
その口調に嫌なものを感じたのか、セインがきゅっと眉を寄せる。
怯えたようなその様子を訝しげに視界の端に捉えながら、ジェラールは警戒を強めた。
里長が笑みを刻む。
「…お前でも、十分引き金になりそうだな……」
「引き金? 何だよ、それ…」
よく分からない呟きを耳に留め、ジェラールの口から少し不機嫌な声が漏れた。
だが、特に里長は説明する気はないようだった。
ぐんっと周囲に魔力が満ちる。
「試してみるのも面白いかもしれん……」
「おいおい…、物騒だぞ」
無視された格好になったジェイクが、ツッコミを入れた。
だが軽口を叩いていてもまだ体が万全じゃないのか、ミレナを後ろに庇うような格好のまま特に動きはない。
ジェラールがすっと身構える。
その後ろでセインが青ざめ、体を硬くしていた。
まさかセインが何も反論してこないとは思っていなかった。
出来るだけ怪我人を減らす為に、早く戦を終わらせたいと思う。
その為にはセインが迷いを消して、長に立ち向かってくれるのが望ましかった。
(長が勝っちゃうと余計怪我人増えちゃいそうだけど、かと言って長を殺す力も無いからな…。
役に立たないかもしれないけど、俺は出来る事を出来るだけやる……)
だからあえて悪役でもいいと思う。
「…無抵抗か…。フフ…俺に殺されれば楽だとでも思ってんだろ?…甘いな」
笑ってみせれば、セインの肩がビクリと震えた。
おそるおそる向けてくる紫の瞳は、さまざまな感情に揺れていて。
まだ気持ちを変える余地はあると知る。
「あんたを引き渡す…。平和的なグッドアイディアだろ?誰も巻き込みたくないのなら、里長の為に仕事をしていれば良い」
セインは何故、この戦を始めたのか。
もう一度思い出せばいい。
何故、里長に立ち向かおうとしたのか…何故、里長には従えないのか。
「……里長の為に仕事をしていれば、少なくとも“巻き込まれて”戦う奴は居なくな―――」
「半端な妖狐よ。なかなか面白いことを言っているな」
突然言葉を遮ったものに、ジェイクの全身に言いようのない戦慄が走った。
耳やしっぽの毛が逆立っているような、そんな嫌な感覚に襲われる。
「………」
セインも血の気の引いた顔で、その一点を見つめていた。
ちょうどジェイクとセインの間を遮るその位置に。
人影が形を結ぶ。
「以前の最後の様子では協力する気はないかと思ったのだがな」
すべてを知っていて、なおも面白がっているかのように、それは言葉を紡いだ。
閉じていた瞼を開ければ、その奥から青磁色の瞳が現れる。
青みのある淡い緑。
そんな瞳を持つ人間はこの里には1人しか居ない。
ジェイクはマスターやジェラールとともに、彼と一度会ったことがあった。
「まあ、協力するというのなら、それを拒む理由はないな…」
この忍びの里の現在の長セト・ウォート。
彼は人を喰ったような笑みを浮かべた。
大陸全土で起こっていた戦争は、皇帝が倒れ紅竜も討たれて、終結へと向いつつあった。
残るはエジプト神。そしてそのエジプト神のひとつと同じ名を冠した彼は―――。
「どうする?弱き鍛冶師よ。この妖狐のいうように、私に従うのか?」
「………」
答えないセインに少しも焦れた様子はなく、セトは楽しげにセインに向って続けた。
「守られているのは自分だから、と言っていたな」
それは先日、セトと対峙した時にセインが言った言葉だ。
「だからやつらが自分の前で死ぬかもしれないという脅しは効かない、と」
空気が魔をはらむ。
ジェイクは神経を張りつめさせ、ミレナをその背に庇うように移動した。
「だが、もし脅しではなく、本当に目の前でやつらが死にかけたら? それでもそう言っていられるか?」
「………」
セインは無言で目をそらす。
その表情が答えを何よりも如実に伝えていた。
もしそれを見過ごせるようなら、初めから巻き込んだなどと悩んではいない。
周囲の魔力が集束し、セトの手の上でこぶし大の火球となる。
「ま…待ってくださいっっ!」
その行方を思い、顔面を蒼白にして制止の声を上げたセインの目の前で。
それ(火球)はジェイクらの方ではなく、まったく意外な方向へと投げ放たれた。
視界を遮っていた緑が燃え上がる。
そしてその向こうには。
金色の髪をした男が立っていた。
その青い瞳が炎の照り返しを受けて、不思議な色に染まる。
「ふむ。やはりまた会ったか……」
セトが笑みを崩すことなく呟いた。
「出来ればあんたには、あんまり会いたくなかったけどな」
そこに立っていたジェラールは、そう小さく苦い笑みを零した。
あれは少し前の出来事だった。
何がきっかけだったのか知らないが、マスターやジェイクがこの里長と呼ばれる男と話をしていた。
少しは興味があったのかもしれない。
何でセインを狙うのかということを聞きたかったのかもしれない。
彼らの話を立ち聞きしている間に……どうしてもひとこと言いたくなって、そこに入っていってしまった。
『里長さんとやら、あんたは俺たちがセインさんのなんたるかを知らないで味方についているのを笑ってたみたいだけどさ…、あんたにとっていろんな事が無意味な事みたいに、俺にとってもそんなことは無意味なことなんだぜ』
『あれ(セイン)がどういう存在でも、か…?』
他人のことを「あれ」と呼ぶことも、浮かべられたその人を馬鹿にしたような笑みも。
いちいち腹が立った。
『たとえば…お前はあれの生まれを知っているか? 知っておいた方がよいこともある』
『はは、あんたがいう「知っておいた方が良いこと」…か。ろくな事じゃなさそうだ』
セインがいったい何なのか…、それは多分、自分がセインにつかない理由にはならないと思う。
そりゃ、まったく気にならないといったら嘘になるが。
だがそれでも、セインがどんな人かはちょっとは知ってるつもりだった。
燻っている草を踏みわけて、ジェラールはセインの前まで来る。
「よお、セインさん。何か久しぶりなような気がするな」
笑みを浮かべ言葉をかけると、セインの顔がホッと安心したように緩んだ。
「…ジェラール…さん……」
セインの周囲の張りつめていた空気がふっと解ける。
「どうしてここに……?」
「や、セインさんを探してたんだけど…ってジェイクとミレナさんも一緒か」
里長の向こう側に見知った顔を見つけ、ジェラールは軽く手を上げ挨拶した。
ミレナが小さく頭を下げてくる。
「で…? 何で里長さんとやらが、ここに居るわけ? とうとうご登場ってわけか?」
間に立ちふさがる人間から目を離さずに、セインに問う。
セインは困ったように小さく首を左右に振った。
「……私にも分かりません…」
様子を黙って見つめていた里長の目が、すうっと細められる。面白いといったふうに、その口元が緩んだ。
「ふむ。なるほど…な」
その口調に嫌なものを感じたのか、セインがきゅっと眉を寄せる。
怯えたようなその様子を訝しげに視界の端に捉えながら、ジェラールは警戒を強めた。
里長が笑みを刻む。
「…お前でも、十分引き金になりそうだな……」
「引き金? 何だよ、それ…」
よく分からない呟きを耳に留め、ジェラールの口から少し不機嫌な声が漏れた。
だが、特に里長は説明する気はないようだった。
ぐんっと周囲に魔力が満ちる。
「試してみるのも面白いかもしれん……」
「おいおい…、物騒だぞ」
無視された格好になったジェイクが、ツッコミを入れた。
だが軽口を叩いていてもまだ体が万全じゃないのか、ミレナを後ろに庇うような格好のまま特に動きはない。
ジェラールがすっと身構える。
その後ろでセインが青ざめ、体を硬くしていた。
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