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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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魔術の余波が森を震わせる。
入り乱れる炎、氷、そして剣戟。
「お前たちは何故戦う?」
その中心で余裕を崩さぬその目をすっと細め、里長は問いを発した。
「…なんかセインさんをろくでもないことに利用しようとしてるようだしな。
それに前にも言ったとおり…どうもあんたとは仲良くなれなさそうだ」
ひゅっとジェラールの手から放たれたナイフが、里長のこめかみを掠めていく。
「俺は別にあんたなんかどうでもいいんだけど、怪我人がこれ以上増えるのは困るんだよな…」
ぼそっと呟いたジェイクの手にも、水属性の魔力がともった。
「…どういう心境の変化です?…」
微苦笑しながらミレナがその傍らで魔銃を構える。
1vs3。
またそれぞれ旅をし、モンスターたちと渡り合うだけの力は持っている者たちだ。
里長の使う魔術は威力こそ大きめなものが多かったが、それでもずば抜けた能力(ちから)の差を感じさせるものではなかった。
そのことにいささかジェイクは拍子抜けしたりもしたが。
だが思えば里長と戦うのはこれが初めてだったので、不気味な存在感におされ、強いと思い込んでいたのかもしれなかった。
予想し得なかったすっかり優勢な戦いに3人は、セインが妙におとなしい事にも気がつかなかった。
「おっさん、部下を呼ばないでもいいのかよ」
ジェイクが呆れたように言う。
「…こんな…もんなのか?」
ジェラールも首をひねりながら、ぽつりと呟いた。
面白いように自分たちの繰り出す攻撃が入る。
だから里長が急に話を切り出したとき、彼らは単なる時間稼ぎだと思った。
「…あのとき、お前たちには話していなかったな。
それ(セイン)がどういう存在なのか、何故信じぬ方が良いのか……」
ジェラールの横で、セインの肩がビクリと震える。
何かに怯えた顔。
「…セインさん?」
ジェラールの呼びかけも耳に入っていないかのように、セインが震える指をぎゅっと握りこんだ。
「…やめてください……」
その言葉を聞いて、里長が面白そうに笑みを刻む。
「ふむ? お前もとうとう思い出したのか?」

セインにはある年齢より前の記憶がほとんどなかった。
盗みをしたり何か悪い事をしてきたんだろうな、とは感じていたが。
師匠と出会い、アプリルと出会い。
それは日増しに薄れ、靄がかかったように思い出せなくなっていた。

「研究のために生まれし子供は、その予想外の能力により道具としての道を歩んだ。
他人を何の痛みも覚えずに傷つけ、殺める殺戮者にな…」
里長は静かに笑みを刻み、言葉を続けた。
「それこそがその鍛冶師の本質…。人を食らう化け物だ」
セインの顔が蒼白になる。
「私は……私は化け物なんかじゃ……ないっ!」
森の木々が大きくざわめいた。


ジェイクを殺したと思ったときに、蘇りかけた記憶。
鍛冶の師匠と出会った10才よりも前の。
人を殺していた幼いときの記憶。
物心ついたときには、セインはすでに人を殺す事を覚えていた。
白い大きな建物…そこに居る人間達に他の子供や動物とともに管理されながら。
その頃のセインには何故か、魔術を吸収するという能力があった。
また魔術の覚えもよく、5才の時にすでに全属性をマスターしていたという記憶がある。
罪悪感の欠片もなく殺すという遊びを楽しむように。
たくさんの生き物を殺してきた過去。


セインの体を鈍い光が包んだ。
木々のざわめきが大きくなる中、里長は面白そうにその様子を見つめる。
いきなり空間に青白い光球が出現し、炸裂した。
青白い炎が無差別に周囲に伸びる。
「ちょっ…セインさん?!」
「…バースト・フレア……?」
火属性で唯一の、高位に属する全体魔法だ。
ジェラールたちが把握しているセインには使える筈がないそれに、一気に場が緊張する。
「おいおい…俺たちまで殺す気かよ……」
水属性の魔法で自分とミレナの方へと流れてくるそれを何とか打ち消しながら、ジェイクが引きつった顔で呟く。
「…むぅ……」
ミレナが難しい顔で魔銃を構えた。
「…どう思います……?…あなたと同じように殴っちゃっても大丈夫…でしょうか……?」
「いや、それはたぶん死ぬから」
第二波の土の魔力が周囲に満ちるのにさらに身構えながら、ジェイクは冷や汗をたらす。
一方。
セインのすぐ側に居たジェラールには、魔法の被害はほとんど及んではいなかった。
「セ、セインさん…?」
呼びかけてみるが、聞こえている様子はない。
里長の方に目をやれば、やはりと言おうか、ほとんど何のダメージも与えているようには見えなかった。
おそらく何か魔術でも使っているのだろうが……。
(それじゃ、何の意味もないって…)
むしろ味方を傷つける可能性の方が高い。
ふと。
変わらず光に包まれているセインがぶれたように見えて、ジェラールは訝しげに眉を寄せた。
「背が…縮んでる……?」
先ほどまでは気がつかなかったが、セインの体が目に見えて小柄になっているように思えた。
一瞬12、3才に見えて、ジェラールは目をしばたかせる。
里長がおかしそうに声を立てて笑った。
「何、笑ってんだ……?」
ジェラールの不機嫌な低い問いに、里長の笑い声が止む。
「あの力は今のそれ(セイン)には、いささか負担が大きすぎるようだな」
「負担……?」
ジェラールはもう一度セインに目をやった。
今度はさっきよりは年が戻っているようだ。
しかしセインが魔術を使うたび、その年齢のぶれがひどくなっているようだった。
「心配はいらぬぞ。それが本来の力をすべて取り戻したなら、生命力の流出は収まる。
中途半端はすべてにおいて、害をもたらすというところか」
里長の青磁の瞳が含みを込めて細められる。
ジェラールはその言葉を声に出さずに反芻した。
生命力の流出…?
「ちょっと待てよっ…それって……!」
「今のままならば、どんどん衰弱しそのうち存在が消滅するであろうな。
それが若返っているように見えるだけのことだ」
里長の手から突然放たれた氷の矢が、セインの足を貫く。血がバッと飛び散った。
セインの顔が苦痛に歪む。
周囲に満ちていた魔力が弱まった。
「本来の力が蘇れば、魔術は吸収され、転移も意のままに扱えるようになる。
今はまだ、中途半端だ」
「…それを言うために、今の魔法を使ったってのか」
ジェラールは厳しい声を出した。
そんな事のために、まるで実験するように?
「それに何か問題があるのか?」
里長は今度はゆっくりと、手の中に氷の矢を発現させる。
それがまたセインに向けて放たれようとしているのを見て取って、ジェラールは里長とセインの間に割り込んだ。
「セインさんは化け物なんかじゃない。俺はセインさんを信じてる」
セインの放った魔術の残り波が肩口を掠める。
それも気に留めず、ジェラールは懐から拾った守り刀を取り出した。
「セインさん。これ、セインさんの大事なものなんだよな。預かってるから」
「…あ……」
セインの口から震えた声が漏れる。


師匠と出会って鍛冶を覚えて。
そこに介在する感情がどういうものであれ、セインは過去を忘れ、人を殺すこともなくなった。
それはきっかけ。
アプリルたちほど大きく心を揺さぶるものではなくても、それがあったから今、セインはここに居る。

「…清円刀……」
その守り刀の銘を呟き、セインはぺたっとその場に座り込んだ。
その体を覆っていた光は消え、周囲に満ちていた魔力が和らいでいく。
里長は興味深そうにその様子を眺めていた。

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