ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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「桔梗さん……!?」
ジェイクは自分たちの前に滑り込んだ赤い着物のくのいちをあ然と見つめた。
「泥船とはいえ…乗せていただけるんでしょう?
こんなところで散る事は許しませんわ……」
わずかに痛みに眉根を寄せ、桔梗は呟く。
セインを殺そうと決意した時に。
矛盾はしていたが誰か彼を託せる人間を探していた。
セインが誤った道に入り込んだ時に、それを正せる人間。
セインが心から助けを求めた時に、手を貸せる人間。
ここ数ヶ月監視していた状況からだいたいの目星は付けていたのだけれど。
桔梗は里長を挟んで向こう側にいるジェラールに目を向けた。
その側にいるセインが必死な顔で治癒魔法を紡いでいるのに、かすかに微笑がこぼれる。
危機的状況になれば、いつだってあの人は夢中になって悩むことを忘れるのだ。
「この際とか言いましたけれど…私はあなたの事も随分と買っていましてよ?」
背後に庇ったジェイクに桔梗はちらとそう視線を流した。
傍らにいる女性と繋いだままの手に、くすりと笑い声を漏らす。
「ほんと仲がよろしくて結構ですわね……」
この男が里長に目を付けられる事は分かっていた。
時に無謀で口が悪くて不器用で、でもけっして他人を放ってはおけない容。
だからふとした気まぐれで忠告をしにいって…それでセインのこともその時に託した。
目星を付けていた人物とは違ったけれども。
彼もまた託すには十分な相手だと思ったから。
桔梗は雨に濡れて首筋に張りついていた髪を、手櫛で後ろに梳き流し簡単に束ね直す。
「セト様…、お手向かいさせていただきます」
雨に濡れた着物は脱げそうにはなかったので、少しでも動きやすいように袂と裾を自らの小柄で切り裂いた。
忍び装束で里長と対峙する事は、彼女の気持ちとは違ったので、かえって好都合かもしれないと思いながら。
「絆されたか?」
「絆す?」
蔑むように投げられる里長の言葉に、にっこりと笑って小首を傾げる。
「自分の意識せぬ死を迎えるよりは、自らの意志のうちで生死を決する方がいいかと。ふとそう気まぐれに思い立っただけですわ」
「……」
複雑そうな顔でこちらを見ているセインの視線を感じながら。
桔梗は決して彼と目をあわさなかった。
伝える事はもうない。
1つだけ残った言葉は、何が起ころうと伝えるつもりはない。
「ならばその仮初めの意志で死を選ぶといい。
戦うまでもない」
里長が淡々と言い放ち、呪を口にする。
桔梗は静かに微笑した。
この時を待っていた。
ふっと体を沈ませ、地面を蹴って里長へと向う。
その手にした小柄が、身を引いた里長の眼前を薙いだ。
避けられるのは予想の範囲内だ。
もう片方の手に生み出した魔力を、全力でその場に向って叩き込む。
禁呪を解呪する魔力を展開している里長には、これを防ぐ手立てはないはずだ。
「元々はあったものを仮初めとは言わぬと思い…ま……すわ…。
たと…え……一度……失く…て…も……」
急速に力をなくし、糸が切れたように崩れる赤。
「む」
その最後の力の名残を、里長は片腕を前にして防ぎとめた。
ぶすぶすと皮膚のくすぶるような嫌な匂いが鼻をつく。
「最後に牙をむいたか。だがこの体を傷つけることは無意味だ…」
里長はそこらに転がっている石でも見るかのように桔梗の器から目を外し、再びジェイクたちの方へ視線を向けた。
その時、里の鐘が鳴り響く。
1つ、2つ、3つ……。
次第に里長の顔が厳しいものへと変わっていった。
鐘が7つめまで鳴った時、里長は低く舌打ちする。
「まだアレが発現するには早い…。命拾いしたな」
手早く印が結ばれ、その姿がぼやけて、やがてかき消えた。
そのあとを追うように残りの鐘が続く。
8つ、9つ……。
余韻を残して消えていくその音を聞きながら、はっとその場に残ったものたちが覚醒する。
「一体何が…?!」
足を引きずるようにして、セインが桔梗の元へ走った。
「あいつは特に何かしたようには見えなかったけど……」
土の上に倒れ伏したままの桔梗の体からは、すでに生命の動きはなく。
その体はとうの昔に生きる事をやめていたように、冷たく固く強張っていた。
ジェイクたちを庇ってついた傷から、最後の一滴であったかのように血が落ち、地面に染みを作る。
その手に握られていた小柄が澄んだ音を立てて砕け、それと共鳴するかのように地に落ちていた清円刀も破片を散らした。
時の刻は深夜、子の刻。
「何があったんどすかっ?!」
背後からレーヴェたちの声が聞こえてきた。
ジェイクは自分たちの前に滑り込んだ赤い着物のくのいちをあ然と見つめた。
「泥船とはいえ…乗せていただけるんでしょう?
こんなところで散る事は許しませんわ……」
わずかに痛みに眉根を寄せ、桔梗は呟く。
セインを殺そうと決意した時に。
矛盾はしていたが誰か彼を託せる人間を探していた。
セインが誤った道に入り込んだ時に、それを正せる人間。
セインが心から助けを求めた時に、手を貸せる人間。
ここ数ヶ月監視していた状況からだいたいの目星は付けていたのだけれど。
桔梗は里長を挟んで向こう側にいるジェラールに目を向けた。
その側にいるセインが必死な顔で治癒魔法を紡いでいるのに、かすかに微笑がこぼれる。
危機的状況になれば、いつだってあの人は夢中になって悩むことを忘れるのだ。
「この際とか言いましたけれど…私はあなたの事も随分と買っていましてよ?」
背後に庇ったジェイクに桔梗はちらとそう視線を流した。
傍らにいる女性と繋いだままの手に、くすりと笑い声を漏らす。
「ほんと仲がよろしくて結構ですわね……」
この男が里長に目を付けられる事は分かっていた。
時に無謀で口が悪くて不器用で、でもけっして他人を放ってはおけない容。
だからふとした気まぐれで忠告をしにいって…それでセインのこともその時に託した。
目星を付けていた人物とは違ったけれども。
彼もまた託すには十分な相手だと思ったから。
桔梗は雨に濡れて首筋に張りついていた髪を、手櫛で後ろに梳き流し簡単に束ね直す。
「セト様…、お手向かいさせていただきます」
雨に濡れた着物は脱げそうにはなかったので、少しでも動きやすいように袂と裾を自らの小柄で切り裂いた。
忍び装束で里長と対峙する事は、彼女の気持ちとは違ったので、かえって好都合かもしれないと思いながら。
「絆されたか?」
「絆す?」
蔑むように投げられる里長の言葉に、にっこりと笑って小首を傾げる。
「自分の意識せぬ死を迎えるよりは、自らの意志のうちで生死を決する方がいいかと。ふとそう気まぐれに思い立っただけですわ」
「……」
複雑そうな顔でこちらを見ているセインの視線を感じながら。
桔梗は決して彼と目をあわさなかった。
伝える事はもうない。
1つだけ残った言葉は、何が起ころうと伝えるつもりはない。
「ならばその仮初めの意志で死を選ぶといい。
戦うまでもない」
里長が淡々と言い放ち、呪を口にする。
桔梗は静かに微笑した。
この時を待っていた。
ふっと体を沈ませ、地面を蹴って里長へと向う。
その手にした小柄が、身を引いた里長の眼前を薙いだ。
避けられるのは予想の範囲内だ。
もう片方の手に生み出した魔力を、全力でその場に向って叩き込む。
禁呪を解呪する魔力を展開している里長には、これを防ぐ手立てはないはずだ。
「元々はあったものを仮初めとは言わぬと思い…ま……すわ…。
たと…え……一度……失く…て…も……」
急速に力をなくし、糸が切れたように崩れる赤。
「む」
その最後の力の名残を、里長は片腕を前にして防ぎとめた。
ぶすぶすと皮膚のくすぶるような嫌な匂いが鼻をつく。
「最後に牙をむいたか。だがこの体を傷つけることは無意味だ…」
里長はそこらに転がっている石でも見るかのように桔梗の器から目を外し、再びジェイクたちの方へ視線を向けた。
その時、里の鐘が鳴り響く。
1つ、2つ、3つ……。
次第に里長の顔が厳しいものへと変わっていった。
鐘が7つめまで鳴った時、里長は低く舌打ちする。
「まだアレが発現するには早い…。命拾いしたな」
手早く印が結ばれ、その姿がぼやけて、やがてかき消えた。
そのあとを追うように残りの鐘が続く。
8つ、9つ……。
余韻を残して消えていくその音を聞きながら、はっとその場に残ったものたちが覚醒する。
「一体何が…?!」
足を引きずるようにして、セインが桔梗の元へ走った。
「あいつは特に何かしたようには見えなかったけど……」
土の上に倒れ伏したままの桔梗の体からは、すでに生命の動きはなく。
その体はとうの昔に生きる事をやめていたように、冷たく固く強張っていた。
ジェイクたちを庇ってついた傷から、最後の一滴であったかのように血が落ち、地面に染みを作る。
その手に握られていた小柄が澄んだ音を立てて砕け、それと共鳴するかのように地に落ちていた清円刀も破片を散らした。
時の刻は深夜、子の刻。
「何があったんどすかっ?!」
背後からレーヴェたちの声が聞こえてきた。
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