ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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爆発音にあわてて森を抜けたセインたちと離れ、ジェイクは倒れた桔梗を見下ろしていた。
少し離れたところで、ジェイクのすることをミレナが黙って見ている。
それから疲れた顔で空を見上げている罠師。
その場にはその3人だけが残っていた。
「俺…あんたに…」
ジェイクはこれまでの戦いでボロボロになっているマントをばさっと脱ぎ捨てる。
「媚びて生きる位なら、戦って死ぬ方がマシだって…言ったけど……」
マスターと共に桔梗と会った時に。
里長に逆らう事をそれとなく拒否した桔梗に告げた言葉だった。
あの時、桔梗は哀しそうな顔で…でもきっぱりと言った。
『ご自分の意志がハッキリしておられるのは結構なことですけれど……事情も省みず、それを押し付けようとなさるのは、あまりよろしいとは思えませんわ』
桔梗の事情。
それがこの事だったのだろう。
うすうすとは感付いていた。
何故、里長から離れられないのか。
里長にくっつく理由が何かあるのだと。
ジェイクは無言で桔梗に向かって両手をかざす。
本当はこんなときのために練習したのではなかった。
蘇らせるのではなく、止めるために練習したのだ。
意に沿わぬ事をしている桔梗がもどかしかったから…。
「…違う……」
ジェイクの目が赤く染まり、血管が浮き出た。
命のないものを…人形を動かすのでせいいっぱいだった。
だが妖狐の力を解放すれば…あるいはもしかして……。
「…悔いを残すなって…何で解らないんだッ……死んでもまだ想いだけ残ってるなんて…そんなの…ッッ…」
ビッ。
指先の皮膚が弾けて、血が噴き出した。
それまでのダメージでも負担はかなりのものだった。
思わずふらつきそうになるのを、必死で気力で支える。
「…ジェイクさん……」
ミレナが少しだけ瞳を翳らせ、だが手出しはせずにそれを見守っていた。
周囲に桁外れの魔力があふれ出す。
「………」
空からジェイクに視線を移した罠師が、ふっと表情をやわらげ、森の外に向かって身をひるがえした。
しかし一心に集中しているジェイクは、その行方に気を配る事もせず魔力を放出し続ける。
森の木々が突風に吹かれたようにざわざわとざわめいた。
やがて。
そのめちゃくちゃな魔力が、その場にあった何かを呼び覚ます。
静かに凪いだ二つの黒が、木々の間から差し込んできた星明かりを映し僅かに瞬いた。
「………?」
桔梗は微かに驚いた色をその黒い瞳に宿し、ゆっくりと身を起こす。
ちょうどそのとき森の外の方から、セインの声とそれを急き立てるかのような足音が聞こえてきた。
「……あのおっさん…、セインさんを呼びに…行ってくれたのか……」
時間はそんなになかった。
妖狐の力を持ってしてもそんなに長くはもたない。
ありがたいと。ジェイクはそう思った。
時々歯を食いしばり、体にかかる負荷に耐えながら、自らの置かれた状況を把握していない桔梗に向かって、言葉をかける。
「…ほら…言いたい事があるんだろ?…時間が無ぇ、さっさと言えや…」
その言葉の意味するところに、桔梗はハッと顔を上げた。
ジェイクを静かに見上げながら立ち上がる。
「……間に合いましたか…」
罠師がぼそっと呟く声が聞こえた。
その横には腕を取られ、引っ立てられるかのようにして連れてこられたセインが居る。
「……桔梗?」
桔梗の死を実感できてもいなければ、罠師の言った事をあまり理解も出来ていないのだろう。
セインは不思議そうに首を傾げた。
そのセインに桔梗が近づく。
「……セイン様」
ひたとその顔を見つめ、桔梗はその名を呼んだ。
桔梗は理解していた。
ジェイクがどれほどの力をかけて桔梗を再び呼び戻したのか。
そしてそれがどれだけ彼の肉体に負担をかけるのか。
セインを見張り、その影ですべてを見てきた桔梗だからこそ知っていた。
「やっぱり死んでなかったんですね…」
少しほっとしたかのように息を吐くセインに、首を横に振って見せる。
「私はとっくに死んでいたのですわ。あなたの前にいたのは、里長の力によって生かされていた、ただの人形……」
白い細い指がそっとセインの頬に伸びた。
「今はジェイク様のお力により存在しています」
言うべきことはただ一つ。
それはおそらくジェイクが伝えさせたい一言とは違うだろうとは分かっていた。
だが…秘めきれなかった思いをこの人に伝えないのは、悔いではない。
(今のセイン様では、伝えればきっといつまでも私のことを引きずられる。それは私の望みではありませんから…)
「セイン様。私は以前あなたに、すべてを否定して差し上げますとお伝えしましたわね?」
覚えているだろうか?
茶室の奥の間で1人で悩んでいるセインを見ていられず、姿を現したこと。
何とか自分の手で自分を取り戻して欲しくて、散々酷いことを言った。
桔梗はそっと探るようにセインの表情を見つめる。
「そんなことありましたっけ?」
困惑したように目を瞬かせるセインに。
嘆息とともに納得する。
何人が気がついているかは知らない。
セインの記憶に綻びが生じ始めていること。
今のセインの身には昔の力は重すぎて。
背が縮むというような外見だけの変化には収まりきれず、記憶や精神にも影響を及ぼそうとしている。
「忘れているのでしたらちょうどいいですわ。私はあの時とは違ったことを告げるのですから」
ジェイクの手の先が土気色になり、腕や肩からも出血を始めるのを横目に見ながら、桔梗は早口で言った。
「セイン様」
強くあってほしかった。
周りを、そして自らを信じて欲しかった。
「戦ってください。余計な事を考えずに、今はあなたが戦うべきだと思っている相手と戦ってください」
夢中になれば悩むことを忘れ、なすべき事をなすセインだから。
考えるのは後でもいい。
何事もやってみなければ分からないのだから。
桔梗はそれだけ言うとセインに背を向け、ジェイクへと深々と頭を下げた。
「ジェイク様…、ありがとうございます。もう十分ですわ……」
別れを長引かせるのは、正直言ってあまり得意ではない。
静かに微笑むと桔梗は背伸びをし、ジェイクの頬に軽く唇を付けた。
「この間、申し上げましたわよね。私はあなたに好意を持っていると…」
ジェイクの壊れかけている腕に優しく触れる。
簡単な癒しの言葉を口の中で呟いて。
「私は…寂しが…やの…殿方に弱いの…かも…し…ませ…わ……」
桔梗の体が地面へと再び沈んだ。
もうその瞳が何かを映す事はなく。
2度の屍霊魔術を受けた体はすでに限界だったのか、さらさらと崩れていった。
力の限界を感じてジェイクはその場にへたり込む。
「ハァ…これで…借りは返せた…かなぁ…?」
「…大丈夫ですか……?」
僅かに苦笑しながら、ミレナが近づいてきた。
「…ん。あんまり大丈夫じゃない…。…ったく…もっと手短にしろっての…」
桔梗が思っていた通り、彼女がセインに伝えた言葉はジェイクが思っていたものとは違ったが。
だがそれでも最後の桔梗の微笑みは満足そうだったので、ジェイクはそれでよしと思うことにした。
どちらにしても、もう派手に里長とやりあったりする力は残ってはいない。
「あ〜……、残念だけど俺、最後の戦いには出られないかも……」
あんまり残念とは思っていなさそうな口調でジェイクがぼやき。
ばたっとその場に大の字に寝転がった。
体に感じるミレナの癒しの力が心地いい。
「………」
セインは無言で桔梗がいた辺りの地面を見つめていた。
何を考えているのかはその様子からはつかめなかった。
少し離れたところで、ジェイクのすることをミレナが黙って見ている。
それから疲れた顔で空を見上げている罠師。
その場にはその3人だけが残っていた。
「俺…あんたに…」
ジェイクはこれまでの戦いでボロボロになっているマントをばさっと脱ぎ捨てる。
「媚びて生きる位なら、戦って死ぬ方がマシだって…言ったけど……」
マスターと共に桔梗と会った時に。
里長に逆らう事をそれとなく拒否した桔梗に告げた言葉だった。
あの時、桔梗は哀しそうな顔で…でもきっぱりと言った。
『ご自分の意志がハッキリしておられるのは結構なことですけれど……事情も省みず、それを押し付けようとなさるのは、あまりよろしいとは思えませんわ』
桔梗の事情。
それがこの事だったのだろう。
うすうすとは感付いていた。
何故、里長から離れられないのか。
里長にくっつく理由が何かあるのだと。
ジェイクは無言で桔梗に向かって両手をかざす。
本当はこんなときのために練習したのではなかった。
蘇らせるのではなく、止めるために練習したのだ。
意に沿わぬ事をしている桔梗がもどかしかったから…。
「…違う……」
ジェイクの目が赤く染まり、血管が浮き出た。
命のないものを…人形を動かすのでせいいっぱいだった。
だが妖狐の力を解放すれば…あるいはもしかして……。
「…悔いを残すなって…何で解らないんだッ……死んでもまだ想いだけ残ってるなんて…そんなの…ッッ…」
ビッ。
指先の皮膚が弾けて、血が噴き出した。
それまでのダメージでも負担はかなりのものだった。
思わずふらつきそうになるのを、必死で気力で支える。
「…ジェイクさん……」
ミレナが少しだけ瞳を翳らせ、だが手出しはせずにそれを見守っていた。
周囲に桁外れの魔力があふれ出す。
「………」
空からジェイクに視線を移した罠師が、ふっと表情をやわらげ、森の外に向かって身をひるがえした。
しかし一心に集中しているジェイクは、その行方に気を配る事もせず魔力を放出し続ける。
森の木々が突風に吹かれたようにざわざわとざわめいた。
やがて。
そのめちゃくちゃな魔力が、その場にあった何かを呼び覚ます。
静かに凪いだ二つの黒が、木々の間から差し込んできた星明かりを映し僅かに瞬いた。
「………?」
桔梗は微かに驚いた色をその黒い瞳に宿し、ゆっくりと身を起こす。
ちょうどそのとき森の外の方から、セインの声とそれを急き立てるかのような足音が聞こえてきた。
「……あのおっさん…、セインさんを呼びに…行ってくれたのか……」
時間はそんなになかった。
妖狐の力を持ってしてもそんなに長くはもたない。
ありがたいと。ジェイクはそう思った。
時々歯を食いしばり、体にかかる負荷に耐えながら、自らの置かれた状況を把握していない桔梗に向かって、言葉をかける。
「…ほら…言いたい事があるんだろ?…時間が無ぇ、さっさと言えや…」
その言葉の意味するところに、桔梗はハッと顔を上げた。
ジェイクを静かに見上げながら立ち上がる。
「……間に合いましたか…」
罠師がぼそっと呟く声が聞こえた。
その横には腕を取られ、引っ立てられるかのようにして連れてこられたセインが居る。
「……桔梗?」
桔梗の死を実感できてもいなければ、罠師の言った事をあまり理解も出来ていないのだろう。
セインは不思議そうに首を傾げた。
そのセインに桔梗が近づく。
「……セイン様」
ひたとその顔を見つめ、桔梗はその名を呼んだ。
桔梗は理解していた。
ジェイクがどれほどの力をかけて桔梗を再び呼び戻したのか。
そしてそれがどれだけ彼の肉体に負担をかけるのか。
セインを見張り、その影ですべてを見てきた桔梗だからこそ知っていた。
「やっぱり死んでなかったんですね…」
少しほっとしたかのように息を吐くセインに、首を横に振って見せる。
「私はとっくに死んでいたのですわ。あなたの前にいたのは、里長の力によって生かされていた、ただの人形……」
白い細い指がそっとセインの頬に伸びた。
「今はジェイク様のお力により存在しています」
言うべきことはただ一つ。
それはおそらくジェイクが伝えさせたい一言とは違うだろうとは分かっていた。
だが…秘めきれなかった思いをこの人に伝えないのは、悔いではない。
(今のセイン様では、伝えればきっといつまでも私のことを引きずられる。それは私の望みではありませんから…)
「セイン様。私は以前あなたに、すべてを否定して差し上げますとお伝えしましたわね?」
覚えているだろうか?
茶室の奥の間で1人で悩んでいるセインを見ていられず、姿を現したこと。
何とか自分の手で自分を取り戻して欲しくて、散々酷いことを言った。
桔梗はそっと探るようにセインの表情を見つめる。
「そんなことありましたっけ?」
困惑したように目を瞬かせるセインに。
嘆息とともに納得する。
何人が気がついているかは知らない。
セインの記憶に綻びが生じ始めていること。
今のセインの身には昔の力は重すぎて。
背が縮むというような外見だけの変化には収まりきれず、記憶や精神にも影響を及ぼそうとしている。
「忘れているのでしたらちょうどいいですわ。私はあの時とは違ったことを告げるのですから」
ジェイクの手の先が土気色になり、腕や肩からも出血を始めるのを横目に見ながら、桔梗は早口で言った。
「セイン様」
強くあってほしかった。
周りを、そして自らを信じて欲しかった。
「戦ってください。余計な事を考えずに、今はあなたが戦うべきだと思っている相手と戦ってください」
夢中になれば悩むことを忘れ、なすべき事をなすセインだから。
考えるのは後でもいい。
何事もやってみなければ分からないのだから。
桔梗はそれだけ言うとセインに背を向け、ジェイクへと深々と頭を下げた。
「ジェイク様…、ありがとうございます。もう十分ですわ……」
別れを長引かせるのは、正直言ってあまり得意ではない。
静かに微笑むと桔梗は背伸びをし、ジェイクの頬に軽く唇を付けた。
「この間、申し上げましたわよね。私はあなたに好意を持っていると…」
ジェイクの壊れかけている腕に優しく触れる。
簡単な癒しの言葉を口の中で呟いて。
「私は…寂しが…やの…殿方に弱いの…かも…し…ませ…わ……」
桔梗の体が地面へと再び沈んだ。
もうその瞳が何かを映す事はなく。
2度の屍霊魔術を受けた体はすでに限界だったのか、さらさらと崩れていった。
力の限界を感じてジェイクはその場にへたり込む。
「ハァ…これで…借りは返せた…かなぁ…?」
「…大丈夫ですか……?」
僅かに苦笑しながら、ミレナが近づいてきた。
「…ん。あんまり大丈夫じゃない…。…ったく…もっと手短にしろっての…」
桔梗が思っていた通り、彼女がセインに伝えた言葉はジェイクが思っていたものとは違ったが。
だがそれでも最後の桔梗の微笑みは満足そうだったので、ジェイクはそれでよしと思うことにした。
どちらにしても、もう派手に里長とやりあったりする力は残ってはいない。
「あ〜……、残念だけど俺、最後の戦いには出られないかも……」
あんまり残念とは思っていなさそうな口調でジェイクがぼやき。
ばたっとその場に大の字に寝転がった。
体に感じるミレナの癒しの力が心地いい。
「………」
セインは無言で桔梗がいた辺りの地面を見つめていた。
何を考えているのかはその様子からはつかめなかった。
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