ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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「何だ〜。紫竜ってそんなに強くなかったんだね」
最終戦の行方を聞き終わって、少年は小さく欠伸を漏らした。
「つまんないのー」
その言い方に思わず老女の口から苦笑が零れる。
戦う者たちの、戦いに慣れた目から見ればおそらくそうだったのだろう。
だが…戦うことを知らぬものから見れば、その力が100でも1000でもさほど変わりはない。
それに。
「里長は里の大地から力を得ると同時に、大地に縛られていたんじゃ」
人間としての、いやセトとしての理性を保っていたなら、禁呪や魔法は意のままに操る事が出来たのかもしれない。
だが身も心も獣となっていたあの時点では、人間の時にかけた禁呪に縛られ続けるしかなかった。
「じゃあ、夜が更けてなくてよかったってことだねー。でも、ボクならちゃんと強くしてから戦うのになぁ〜」
少年は心底、残念そうに言う。
「あたしはそんなのごめんだけどね」
その傍らに居てそれまで一言も口を挟まなかった、二十歳過ぎの女性が呆れたように肩をすくめた。
「で、セインっていう男の側は全員が生き残ったのかい? 倒れたって聞かなかったけど」
紫竜は倒れたと表現したくせに、その他の人間たちを倒れたとは表現しなかった老女の語りを。
女性は耳ざとく聞き逃さなかったようだった。
「え? セインを庇ったお兄ちゃん、死んだんじゃないの?」
少年がきょとんと首を傾げる。
老女は空っぽになった湯呑みにお茶を注いだ。
女性にも勧めるが、それは断られる。
「そうだねぇ…」
ふっと老女の顔に微苦笑が浮かんだ。
「じゃ、最終戦を終えた後の、彼らの話をしようかねぇ」
この戦に参戦した人数は、セインを含め24人(+エキストラ3人)。
紫竜と化した里長と戦ったのはそのうちの20人だ。
戦の場には出なかった久遠は、長の屋敷に侵入して長の話を盗み聞き、この戦の裏事情をだいたい察したあと姿を消した。
ガビィと恵美璃は最終戦前、屋敷の内外でその姿を目撃されたまま、以後の消息は不明。
一説にはガビィは屋敷の崩壊に巻き込まれたのではないかという噂もあったが、食材であるジキルが生きている以上、そんなことで倒れるはずがないという意見で一致をみていた。
最終戦前にネクロマンシーを使い、その力をほとんど使い果たしていたジェイクは。
里の中にある空き家で、その日を迎えた。
最終戦の結果を見届けた後、ふらっとどこかへと旅に出たという。
それからもしばしばその姿を目撃したものも居たことから、元気でやってはいるのだろう。
そして最終戦の、その場に居合わせた人間たち。
「戦の中でセイン殿を庇ったセティという男の命は、消えかけておった。いや、一度は消えたというのが正しいかもしれぬのぅ…」
セティの話(※)
マスターの話(※)
「他にも戦の中で数人、姿が見えなくなった者がおった」
老女はお茶をすする。
「死んじゃったの?」
「……それが分からぬのじゃ。それらの遺体はその場には存在しなかったからの」
戦の最後に場を包んだ白い光。
その中で消えた人間はセティを含め、4人。
パルクレチュア、メルス、セティ…そしてセイン。
里のどこを探しても、その存在を示す痕跡は見つからなかった。
逆に言えば、その遺体も見つからなかったという事だ。
「人によっては、どこかの旅先でその姿を見たといわれる者もおる。本当に本人かどうかは分からぬがのぅ…」
ただ1人。
セインだけはそういう噂すらなかった。
「その消息を心配して、戦が終わった後も里を訪れる者も多かったもんだ。
しばらく里に留まっておった者もおったでな」
アプリルの話(※)
くうぱあ・リュウの話(※)
ジェラールの話(※)
「もちろん、もうこの大陸には戻らないと決意して旅に出た者もな…そういう者もやっぱりおった」
老女は湯呑みを置き、静かに立ち上がる。
外で梟の鳴く声がしていた。
「そうして今日で戦が終わってちょうど一年目になる。セイン殿は戻らぬままだの…」
老女の青い瞳に少しだけ寂しそうな色が浮かぶ。
それを押し隠すように、彼女は少年と女性に曲がった背を向けた。
「さ、もう夜も遅い。そろそろ眠った方がよかろうて」
今朝突然ここに女性と一緒にやってきた少年は、誰かの面影を宿していた。
たった1人この廃墟に暮らしてきた老女は、何故か懐かしい気分を覚え、ついついせがまれるままに昔話を始めてしまったのだった。
少年と女性を隣の部屋に案内し、元の部屋に戻った老婆は1人でお茶をすする。
そして思い出した。
何故、少年を見たとき、あれほどまでに懐かしさを覚えたのか。
少年の髪の色は先ほどまで老女が話していた昔話の中の青年、一年経った今でもその消息が分からない、セインとよく似ていた。
老女はしばし思案し、そして……。
再び静かにお茶をすすった。
また嵐が来るのかもしれない。もう里とはいえぬこの廃墟に。
そしてその日はもう間近なのだと……老女は感じていた。
(文中(※)はここからどうぞ)
最終戦の行方を聞き終わって、少年は小さく欠伸を漏らした。
「つまんないのー」
その言い方に思わず老女の口から苦笑が零れる。
戦う者たちの、戦いに慣れた目から見ればおそらくそうだったのだろう。
だが…戦うことを知らぬものから見れば、その力が100でも1000でもさほど変わりはない。
それに。
「里長は里の大地から力を得ると同時に、大地に縛られていたんじゃ」
人間としての、いやセトとしての理性を保っていたなら、禁呪や魔法は意のままに操る事が出来たのかもしれない。
だが身も心も獣となっていたあの時点では、人間の時にかけた禁呪に縛られ続けるしかなかった。
「じゃあ、夜が更けてなくてよかったってことだねー。でも、ボクならちゃんと強くしてから戦うのになぁ〜」
少年は心底、残念そうに言う。
「あたしはそんなのごめんだけどね」
その傍らに居てそれまで一言も口を挟まなかった、二十歳過ぎの女性が呆れたように肩をすくめた。
「で、セインっていう男の側は全員が生き残ったのかい? 倒れたって聞かなかったけど」
紫竜は倒れたと表現したくせに、その他の人間たちを倒れたとは表現しなかった老女の語りを。
女性は耳ざとく聞き逃さなかったようだった。
「え? セインを庇ったお兄ちゃん、死んだんじゃないの?」
少年がきょとんと首を傾げる。
老女は空っぽになった湯呑みにお茶を注いだ。
女性にも勧めるが、それは断られる。
「そうだねぇ…」
ふっと老女の顔に微苦笑が浮かんだ。
「じゃ、最終戦を終えた後の、彼らの話をしようかねぇ」
この戦に参戦した人数は、セインを含め24人(+エキストラ3人)。
紫竜と化した里長と戦ったのはそのうちの20人だ。
戦の場には出なかった久遠は、長の屋敷に侵入して長の話を盗み聞き、この戦の裏事情をだいたい察したあと姿を消した。
ガビィと恵美璃は最終戦前、屋敷の内外でその姿を目撃されたまま、以後の消息は不明。
一説にはガビィは屋敷の崩壊に巻き込まれたのではないかという噂もあったが、食材であるジキルが生きている以上、そんなことで倒れるはずがないという意見で一致をみていた。
最終戦前にネクロマンシーを使い、その力をほとんど使い果たしていたジェイクは。
里の中にある空き家で、その日を迎えた。
最終戦の結果を見届けた後、ふらっとどこかへと旅に出たという。
それからもしばしばその姿を目撃したものも居たことから、元気でやってはいるのだろう。
そして最終戦の、その場に居合わせた人間たち。
「戦の中でセイン殿を庇ったセティという男の命は、消えかけておった。いや、一度は消えたというのが正しいかもしれぬのぅ…」
セティの話(※)
マスターの話(※)
「他にも戦の中で数人、姿が見えなくなった者がおった」
老女はお茶をすする。
「死んじゃったの?」
「……それが分からぬのじゃ。それらの遺体はその場には存在しなかったからの」
戦の最後に場を包んだ白い光。
その中で消えた人間はセティを含め、4人。
パルクレチュア、メルス、セティ…そしてセイン。
里のどこを探しても、その存在を示す痕跡は見つからなかった。
逆に言えば、その遺体も見つからなかったという事だ。
「人によっては、どこかの旅先でその姿を見たといわれる者もおる。本当に本人かどうかは分からぬがのぅ…」
ただ1人。
セインだけはそういう噂すらなかった。
「その消息を心配して、戦が終わった後も里を訪れる者も多かったもんだ。
しばらく里に留まっておった者もおったでな」
アプリルの話(※)
くうぱあ・リュウの話(※)
ジェラールの話(※)
「もちろん、もうこの大陸には戻らないと決意して旅に出た者もな…そういう者もやっぱりおった」
老女は湯呑みを置き、静かに立ち上がる。
外で梟の鳴く声がしていた。
「そうして今日で戦が終わってちょうど一年目になる。セイン殿は戻らぬままだの…」
老女の青い瞳に少しだけ寂しそうな色が浮かぶ。
それを押し隠すように、彼女は少年と女性に曲がった背を向けた。
「さ、もう夜も遅い。そろそろ眠った方がよかろうて」
今朝突然ここに女性と一緒にやってきた少年は、誰かの面影を宿していた。
たった1人この廃墟に暮らしてきた老女は、何故か懐かしい気分を覚え、ついついせがまれるままに昔話を始めてしまったのだった。
少年と女性を隣の部屋に案内し、元の部屋に戻った老婆は1人でお茶をすする。
そして思い出した。
何故、少年を見たとき、あれほどまでに懐かしさを覚えたのか。
少年の髪の色は先ほどまで老女が話していた昔話の中の青年、一年経った今でもその消息が分からない、セインとよく似ていた。
老女はしばし思案し、そして……。
再び静かにお茶をすすった。
また嵐が来るのかもしれない。もう里とはいえぬこの廃墟に。
そしてその日はもう間近なのだと……老女は感じていた。
(文中(※)はここからどうぞ)
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