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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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『風夏ちゃんはうちの子じゃないの…』
母親の困ったような声が響く。
そうや、あれはウチがリェンの姿を見て少しした頃のことやった。

ウチは幸せやと思うとった。
ちょっと変わっとるけど優しい父親。
おっとりしたよく笑う母親。
生意気やけど人懐こい弟。
そんな金持ちやないけど、普通に暮らしてけるほどのお金はあって。
ローンは残っとるけど自分の家もあって、お小遣いだって普通にもろとる。
友達に困ったりしたことないし、ひどく傷つけられたこととかもあらへん。
だからウチは幸せなんやと思うとった。

『ウチはこの家の誰とも血とか繋がってへんねんなぁ〜…』
悲しいような気持ちとともに、ああやっぱりなんやって納得したもんや。
家族の中で変わったもんを見たりするのはウチだけやったからなぁ…。
それが妖魔やって知ったんは、もっと後の話やったけど。
『で、でもね、風夏ちゃん。何も気にすることないから…』
ほんまは言うつもりはなかったんかもしれへん。
母親はそん時、どうしたらええかおろおろしとった。
その目に浮かんだ痛ましげな色に、ウチが余計に傷ついたんは気付いたやろか?
あん時のウチは、どうして欲しいんかハッキリ説明も出来へんかった。
でも、今なら分かる。
「…あっけらかんと言うてほしかったんやろなぁ…」
それまで何の疑問も抱かずに家族してきた自分が、壊れた瞬間。知らず土台としとったものが崩れた瞬間。
気を使われたりするとかえって辛いのだということを知った。
お茶にしましょうかっていうぐらい気楽に言うてくれたら、ウチもこないに胸が痛むこともなかったんかもしれへん。
そないな風にならんかったから言えるんかもしれへんけど。


風夏は指にはまった銀色の指輪を見つめた。
これは血が繋がってないと知らされて、初めて迎えた誕生日にもらったプレゼントだった。
『私たちには霊感とかまったくないから、風夏が見るものは一生かかったって見えないだろうが…』
困ったように微笑しながら、風夏の手にこれを握らせた父親の顔が思い浮かぶ。
何故だかその目は悲しそうだった。
『銀で出来たものはお守りになると聞いた。近所の神社…お前もよく知っている竜司君のところにも相談して、これがいいだろうと思ってね』
その横で頷く母親の微笑みも、どこか苦しそうに陰って見える。
その意味がずっと気になりながらも…何も聞けずにきたのだ。
風夏は俯いて、深いため息を漏らした。
いつも元気に笑って、言いたいことは黙っちゃいない。
それが自分の筈だった。
だけど聞けなかったことがある。言えなかった言葉がある。
「…ウチは父さんと母さんの子供でおってええの?
家族のままでおってええの?」
そう口にして、もしあの人たちの笑顔が引きつったり凍ってしまったら。
そうしたらどうしていいか分からないから。
「言えへんわ・・・ウチには」
風夏は小さく笑った。
言えなかった…言えない言葉がある。
もしかしたら一生、喉に引っかかったままの言葉が。

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