ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
カテゴリー
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
風にちらちらと雪花が舞い落ちる。
もうすぐ春が来るという暖かい昼前のことだった。
通りを行く人はひととき立ち止まり、季節外れの落し物をしている空を見上げ、やがて興味をなくしたように忙しい日常の中へと戻っていった。
そんな中に少女が1人。
膝を抱え道路脇に座り込んで、その空を眺めていた。
「化け物なんかじゃないもん」
少女の口から小さな言葉が零れる。
「あたし化け物じゃないもん」
すん…と少女は鼻を鳴らした。
茶色がかった柔らかそうな髪の毛がサラと風に流れる。
少し潤んだような大きな瞳は左右でその色を違えていた。
片方はこの国に住む人間の大多数を占めるだろう深みのある黒。
もう片方はそこから色素が抜けてしまったように、明るい茶色をしていた。
少女は腕を抱き、ぶるっと身体を震わせる。
春前とはいえ、少女の格好はかなりの薄着だった。
部屋着のまま飛び出してきたような、そんな印象を受ける。
少女はしばらく雪花を手のひらで受けては、それがすぐにかき消える様を眺めていた。
次にそれがアスファルトに落ちて、その表面を濡らすこともなく見えなくなっていく様を眺めた。
行き交う人々はふと少女の存在を見つけても、すぐに忘れて通り過ぎていく。
まるで雪花にするのと同じ態度だ。
この国ではそれは当たり前のことだった。
必要以上に他者と関わり合いになることを厭い、自分に関係のないことは(時には関係のあることでも)見ないふりをする。
「…どうしよう」
少女はぽつりとつぶやいた。
こんな時間に家に帰るわけにもいかず、飛び出してきた教室にも戻れない。
親が着せてくれた上着もランドセルも学校に置いてきたままだった。
「なっちゃんとリュウちゃん、心配するかな…」
急にクラスの違う幼馴染たちのことを思い出す。
今日も帰りは一緒に帰る約束をしていた。
「…それとも」
少女の大きな目からぽろりと一粒の雫が落ちる。
実は2人も、少女と仲良くするのはイヤだったりするんじゃないだろうか。
そう思うと胸が痛くなって、少女は服の裾をぎゅっと握りしめた。
「ふっ…くぅ…」
ぼろぼろと少女の丸い頬を涙が伝っていく。
目の色が左右で違うせいなのか、たまたま変なものが見えて。
その変なもののせいでいろいろと嫌なことが起こって。
みんながそれを少女のせいにした。
化け物だと気味悪がられ、みんな遠巻きにして近づいてこようとしない。
「あたしは何もしてないもん…!悪いことなんか何もしてないもん…っ…」
突然叫んだ少女を、気味悪げに見ながら通りすぎていく人たち。
誰も手を差し伸べてくれる人はいなかった。
…風夏はがばっと跳ね起きた。
頬を伝っていた雫をやや乱暴に拭う。
「…今更や」
その唇から押し殺した声が漏れた。
昔の夢を見た。
とっくに忘却の彼方に押しやったような昔の夢を&。
「今やって何でうちが狙われるかは分からへん。
そやけど、うちは化け物っちゃうし、悪いことなんか何もしとらへん」
ただ泣いていたあの頃の少女はもう居ない。
風夏は前を見ることを知り、戦うことを知った。
誰が彼女を否定しようと、いつも信じ支えてくれた人間も居る。
そばに居てともに戦ってくれるものも居る。
ベッドから降りて、風夏は制服に着替えた。
外でちらちらと名残雪が舞っていた。
もうすぐ春が来るという暖かい昼前のことだった。
通りを行く人はひととき立ち止まり、季節外れの落し物をしている空を見上げ、やがて興味をなくしたように忙しい日常の中へと戻っていった。
そんな中に少女が1人。
膝を抱え道路脇に座り込んで、その空を眺めていた。
「化け物なんかじゃないもん」
少女の口から小さな言葉が零れる。
「あたし化け物じゃないもん」
すん…と少女は鼻を鳴らした。
茶色がかった柔らかそうな髪の毛がサラと風に流れる。
少し潤んだような大きな瞳は左右でその色を違えていた。
片方はこの国に住む人間の大多数を占めるだろう深みのある黒。
もう片方はそこから色素が抜けてしまったように、明るい茶色をしていた。
少女は腕を抱き、ぶるっと身体を震わせる。
春前とはいえ、少女の格好はかなりの薄着だった。
部屋着のまま飛び出してきたような、そんな印象を受ける。
少女はしばらく雪花を手のひらで受けては、それがすぐにかき消える様を眺めていた。
次にそれがアスファルトに落ちて、その表面を濡らすこともなく見えなくなっていく様を眺めた。
行き交う人々はふと少女の存在を見つけても、すぐに忘れて通り過ぎていく。
まるで雪花にするのと同じ態度だ。
この国ではそれは当たり前のことだった。
必要以上に他者と関わり合いになることを厭い、自分に関係のないことは(時には関係のあることでも)見ないふりをする。
「…どうしよう」
少女はぽつりとつぶやいた。
こんな時間に家に帰るわけにもいかず、飛び出してきた教室にも戻れない。
親が着せてくれた上着もランドセルも学校に置いてきたままだった。
「なっちゃんとリュウちゃん、心配するかな…」
急にクラスの違う幼馴染たちのことを思い出す。
今日も帰りは一緒に帰る約束をしていた。
「…それとも」
少女の大きな目からぽろりと一粒の雫が落ちる。
実は2人も、少女と仲良くするのはイヤだったりするんじゃないだろうか。
そう思うと胸が痛くなって、少女は服の裾をぎゅっと握りしめた。
「ふっ…くぅ…」
ぼろぼろと少女の丸い頬を涙が伝っていく。
目の色が左右で違うせいなのか、たまたま変なものが見えて。
その変なもののせいでいろいろと嫌なことが起こって。
みんながそれを少女のせいにした。
化け物だと気味悪がられ、みんな遠巻きにして近づいてこようとしない。
「あたしは何もしてないもん…!悪いことなんか何もしてないもん…っ…」
突然叫んだ少女を、気味悪げに見ながら通りすぎていく人たち。
誰も手を差し伸べてくれる人はいなかった。
…風夏はがばっと跳ね起きた。
頬を伝っていた雫をやや乱暴に拭う。
「…今更や」
その唇から押し殺した声が漏れた。
昔の夢を見た。
とっくに忘却の彼方に押しやったような昔の夢を&。
「今やって何でうちが狙われるかは分からへん。
そやけど、うちは化け物っちゃうし、悪いことなんか何もしとらへん」
ただ泣いていたあの頃の少女はもう居ない。
風夏は前を見ることを知り、戦うことを知った。
誰が彼女を否定しようと、いつも信じ支えてくれた人間も居る。
そばに居てともに戦ってくれるものも居る。
ベッドから降りて、風夏は制服に着替えた。
外でちらちらと名残雪が舞っていた。
PR