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「うん、だから…」
少年はどこか寂しげににっこりと微笑う。
「意味なんかないんだよ。どこにも」
それは雪の降る寒い冬のことだった。
手にした棒を素振りのように何度も宙に振り下ろしていた女は、やがて大きく息をつくと手を止めた。
「少しは暖かくなるかと思ったけど…あんまり変わらないねぇ」
苦笑が顔に広がる。
「やっぱりここはさっさと山を越えて、街入りでもして暖を取るしかないかな」
そうは言ってもまだ道は緩やかな上りの様相を呈していた。
まだこれから頂上まで上って。降りて。
一番近い街まではまだかなり遠い。
日数にして10日以上はかかるだろう。
「冬場に山登りなんかするもんじゃないね」
女は少しぼやいた。
彼女がある町で依頼を受け、世話になったお礼に二つ返事で引き受けたのが1月前。
そのときは目的地がこんな山だなんて思いもしなかった。
彼女の目的はこの山の頂上に済むという妖鳥を倒すこと。
この周辺の村々はその妖鳥に襲われたり、家畜を荒らされたりと酷い目に遭っているようで、その噂を聞き及んだここら一帯の領主がとうとうその重い腰を上げたらしかった。
彼女に依頼してきた男は少なくともそう言った。
『領主様直々のご依頼だ。引き受けてくれればそれなりの報酬も出る』
多少路銀が乏しかったのも事実だったし。
「だけど、情報は正確に与えられるべきだよねぇ」
しみじみと言い、今度はちゃんとしたため息が零れた。
冬の山登りなんかそれだけで自殺行為だというのに、雪まで降ってきた。
この上、妖鳥と戦わねばならないのだったら、いくら幾つもの修羅場をくぐってきた彼女とて、命が幾つあっても足りない気がする。
「まあ…救いは風が強いことかな」
女は吹き降ろしの風に目を細める。
細身の身体は風に少しも揺らがず、逆にそよ風でも浴びたように気持ち良さそうな顔で受け流していた。
「これだけ風があれば、風乙女と言わず風の王だって出てきそうだね」
女は棒術使いであったが、かなりLVの高い風使いでもあった。
彼女にとって風は友人であり、強力な剣であり盾。
風の吹く場所で彼女が苦戦することはほぼないと言っていい。
「さてと。気合入れてさっさと上るかねぇ」
女は棒を背中に背負うと、再び頂上に向けて歩き出した。
腰まである長い三つ編みがふわりと揺れて弾んだ。