ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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「はぅ〜、セティさん、怪我してるんだよぉ〜…」
時は少し戻る。
嵐の中、走り去った桔梗に取り残されたセティは、ちょうどそこへとやってきたルレットたちと出会っていた。
困ったように首を傾けるルレットに「大丈夫です」と微笑みかけながら、セティは桔梗の走っていった方を見つめる。
きっと桔梗の力が必要となる、そんな気がしていた。
セインを『護る』ためにここに居る自分。
命を懸けても彼を護りたいと思っている。
他の人間はどうだかよく分からないが、少なくとも自分がよく知っている人間、アプリルもまたそう思っているだろう。
だが、そんな自分やアプリルよりも……誰よりも強くセインを思っているのは桔梗だとそう思った。
もちろん里の情報が得られるかもという打算もある。
自分はこの里のこと、今の戦況のことを何も知らない。
状況を推測するための材料すら持ち得ない。
今は少しでも情報がほしい、それも確かだ。
だがそんなことよりも…自分にはらしくない直感のようなそれを信じ行動したいと思う。
「おい、大丈夫か…?」
ずっと黙ったまま桔梗が走っていった方角を見つめているセティに、ゾファルが問いを発した。
いささか仏頂面なのは、何かと話しかけているルレットが無視された格好になっているからか。
「すみません。大丈夫ですよ」
その理由を推測し少し苦笑しながら、セティは彼らに視線を戻した。
実際、左肩は痛みの感覚を訴えてはこなかった。
それだけ深く傷ついているのかもしれないが…血を止めればとりあえずの支障は無いだろう。
あまり得意とは言えない癒しの言葉を、口の中で紡ぐ。
自らの血に塗れた右手を左肩にかざした。
「……癒しならボクがするよ!」
唐突に飛び込んできた声に、少し驚いてセティは顔を上げる。
思いつめたような、こちらを睨んでいるような顔でアプリルがそこに居た。
その後ろには困惑したような笑みを顔に貼り付けたエルディスの姿がある。
「アプリルさん…」
「怪我してるんでしょ? ほら、手をどけて見せてよ!」
怒ったようなその声を聞きながら。
エルディスはどうしよう?という表情で、アプリルを見つめていた。
見知らぬ冒険者に助けられて。
それからも何度か忍びたちに遭いながらここまで来た。
途中、交わされた魔法の余波で傷ついている風景を見た。
ひどい怪我をしている冒険者を見た。
誰かに―――おそらく忍びに殺されたらしい旅人の遺体を見た。
(何か…悩んでるよな。俺が励ましてやりたいんだけど…)
明るくふるまいながら時々つらそうな顔をする。
前向きなアプリルはすぐに自分に喝を入れて笑顔を見せるが…それだけが本当ではないとエルディスは直感で感じていた。
愛しているアプリルのことだから…それくらい分かる。
(何にしても…アプリルが無茶をするようだったら、俺が止めないと。それくらいは出来ないとな)
エルディスはセティの傷を癒しているアプリルの横顔をじっと見つめた。
守るだけじゃない。一緒に歩いていこうと決めた相手だから。
初めから取り上げるのではなく、側に居て危険な時に手を貸してやればいい。
アプリルもそれを望んでいるのを知っている。
「もうっ。みんな無茶しすぎるよ! もっと自分を大事にしてほしいよっ」
「アプリル…」
セティの治療を終え、怒りながら涙ぐむアプリルの小さな肩をエルディスは抱き寄せた。
「大丈夫。みんな分かってるさ。セインさんだって…」
「そうだよぉ! アプリルさん、元気だすんだよぉ」
一生懸命に言うルレットの後ろにいるゾファルも静かに頷いている。
「……ごめん。ボクってば…」
ハッと我に返ったように、アプリルが恥ずかしそうに顔を赤らめた。
エルディスはそんなアプリルの目元にそっと口付ける。
「無理はするなよ?アプリル。いつでも俺が居るから…」
「エル……」
雨の中、時を告げる鐘の音が響く。
5人はセインの工房と長の屋敷の中間地点でそれを聞いた。
何故か嫌な予感を覚えて、ゾファルはルレットをエルディスはアプリルをぎゅっと抱き寄せる。
セティは空を振り仰いだ。
少しずつ小降りになる雨。
さっきからずっと靄がかかったような、悪い予感が消えない。
「桔梗さんのことも気になりますが…とりあえず屋敷に行ってみるべきでしょうか……」
セティの口からひとり言が零れた。
そこで何が起こっているのか分からない。
だからこそ自分の目で確かめなくてはいけない。
それから数刻後。
屋敷で大きな爆発が起こり、それどころでなくなるのを。
セティたちはまだ知らなかった。
時は少し戻る。
嵐の中、走り去った桔梗に取り残されたセティは、ちょうどそこへとやってきたルレットたちと出会っていた。
困ったように首を傾けるルレットに「大丈夫です」と微笑みかけながら、セティは桔梗の走っていった方を見つめる。
きっと桔梗の力が必要となる、そんな気がしていた。
セインを『護る』ためにここに居る自分。
命を懸けても彼を護りたいと思っている。
他の人間はどうだかよく分からないが、少なくとも自分がよく知っている人間、アプリルもまたそう思っているだろう。
だが、そんな自分やアプリルよりも……誰よりも強くセインを思っているのは桔梗だとそう思った。
もちろん里の情報が得られるかもという打算もある。
自分はこの里のこと、今の戦況のことを何も知らない。
状況を推測するための材料すら持ち得ない。
今は少しでも情報がほしい、それも確かだ。
だがそんなことよりも…自分にはらしくない直感のようなそれを信じ行動したいと思う。
「おい、大丈夫か…?」
ずっと黙ったまま桔梗が走っていった方角を見つめているセティに、ゾファルが問いを発した。
いささか仏頂面なのは、何かと話しかけているルレットが無視された格好になっているからか。
「すみません。大丈夫ですよ」
その理由を推測し少し苦笑しながら、セティは彼らに視線を戻した。
実際、左肩は痛みの感覚を訴えてはこなかった。
それだけ深く傷ついているのかもしれないが…血を止めればとりあえずの支障は無いだろう。
あまり得意とは言えない癒しの言葉を、口の中で紡ぐ。
自らの血に塗れた右手を左肩にかざした。
「……癒しならボクがするよ!」
唐突に飛び込んできた声に、少し驚いてセティは顔を上げる。
思いつめたような、こちらを睨んでいるような顔でアプリルがそこに居た。
その後ろには困惑したような笑みを顔に貼り付けたエルディスの姿がある。
「アプリルさん…」
「怪我してるんでしょ? ほら、手をどけて見せてよ!」
怒ったようなその声を聞きながら。
エルディスはどうしよう?という表情で、アプリルを見つめていた。
見知らぬ冒険者に助けられて。
それからも何度か忍びたちに遭いながらここまで来た。
途中、交わされた魔法の余波で傷ついている風景を見た。
ひどい怪我をしている冒険者を見た。
誰かに―――おそらく忍びに殺されたらしい旅人の遺体を見た。
(何か…悩んでるよな。俺が励ましてやりたいんだけど…)
明るくふるまいながら時々つらそうな顔をする。
前向きなアプリルはすぐに自分に喝を入れて笑顔を見せるが…それだけが本当ではないとエルディスは直感で感じていた。
愛しているアプリルのことだから…それくらい分かる。
(何にしても…アプリルが無茶をするようだったら、俺が止めないと。それくらいは出来ないとな)
エルディスはセティの傷を癒しているアプリルの横顔をじっと見つめた。
守るだけじゃない。一緒に歩いていこうと決めた相手だから。
初めから取り上げるのではなく、側に居て危険な時に手を貸してやればいい。
アプリルもそれを望んでいるのを知っている。
「もうっ。みんな無茶しすぎるよ! もっと自分を大事にしてほしいよっ」
「アプリル…」
セティの治療を終え、怒りながら涙ぐむアプリルの小さな肩をエルディスは抱き寄せた。
「大丈夫。みんな分かってるさ。セインさんだって…」
「そうだよぉ! アプリルさん、元気だすんだよぉ」
一生懸命に言うルレットの後ろにいるゾファルも静かに頷いている。
「……ごめん。ボクってば…」
ハッと我に返ったように、アプリルが恥ずかしそうに顔を赤らめた。
エルディスはそんなアプリルの目元にそっと口付ける。
「無理はするなよ?アプリル。いつでも俺が居るから…」
「エル……」
雨の中、時を告げる鐘の音が響く。
5人はセインの工房と長の屋敷の中間地点でそれを聞いた。
何故か嫌な予感を覚えて、ゾファルはルレットをエルディスはアプリルをぎゅっと抱き寄せる。
セティは空を振り仰いだ。
少しずつ小降りになる雨。
さっきからずっと靄がかかったような、悪い予感が消えない。
「桔梗さんのことも気になりますが…とりあえず屋敷に行ってみるべきでしょうか……」
セティの口からひとり言が零れた。
そこで何が起こっているのか分からない。
だからこそ自分の目で確かめなくてはいけない。
それから数刻後。
屋敷で大きな爆発が起こり、それどころでなくなるのを。
セティたちはまだ知らなかった。
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