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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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雨の中で。
赤いくのいちは、前にいる黒魔道師を見据えた。
確か名はセティといったか。
まだ里が平穏な時期から、たびたびと訪れ、セインや他の冒険者達と言葉を交わしていた人だ。

セインが二度目に姿を消した時に、祠の奥の座敷に残されていた彼からセインへの手紙。
何か手がかりがないかと封を開けた。
礼儀を尽くした中に、垣間見える思いやり。
冷静で時に淡白にも見える彼の本当の一面を見たような気がした。
(そうでなくてもあの人のそばには、いろいろな自分を抱えた方が多いですわね……)
桔梗はセインに協力を申し出た人たちの姿を思い浮かべる。

セインがこの里に来たときと比べると、段違いに里を訪れる人間は増えた。
これこそが子供心に聞いたことのある先代の長が望んだことではないかと思いながら。
里長の野望に気がついたときには、すべてがもう遅かった。
引くことが出来ない状況に、諦めて流されようとしたこともある。
(でも。私にまでセイン様のお知り合いは真剣でしたわね……)
今、目の前に居る魔道師も、会った瞬間にそうだと分かった。
だが平行線をたどるしかない話し合いをこれ以上、続けることもない。
桔梗は唇をうっすらと綻ばせた。
これは戦だ。
非情になっても許される。
(私は……セイン様を殺しますわ。
それが私が選びうる一番良いと思われる道……)
里長の目論み通り、セインの心が壊れることなどないように。
そうなって傷つくのは、何もセインや彼の周りにいる人たちだけじゃない。そして傷ついた人間は、いとも簡単に折ることが出来る。
殺戮者へと目覚めたセインは世に打って出る足がかりとなるのだ。
(わざわざ好んで、私のような人間を増やすこともないですわ…。
自らの意志で生きられぬ人形になど……)
魔道師の指がピクッと動いたのに素早く反応して魔術の構成を編みながら、思う。
その時。

桔梗はハッと森の方に目を走らせた。
「この感覚は……」
思わず呟きが漏れる。
背筋がぴりぴりとざわめくような、そんな不快感と戦慄。
「何故…? まだ動かないと思っていたのに……」
対峙する相手の存在も忘れ、彼女は身を翻した。
嫌な予感がする。
急がねばならない。
「お兄ちゃん、こっち!」
近くで少女の声がした。
空色の長い髪をした少女とすれ違う。
「なっ、ルレット!」
そしてその後ろから慌てたように少女を追いかけてくる剣士とも。
桔梗は無言でその横をすり抜けた。
雨がざぁっと叩きつけていく。

私の『望み』は……。
桔梗は濡れぬように懐へと忍ばせていた小さな髪飾りを、着物の上からそっと押さえた。

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