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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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降り始めた雨はだんだんと強さを増し。
あっという間に里を雨景色へと染めた。
強い風に煽られ、黒いローブの裾がばたばたとはためく。


「桔梗さんとは…話をしたい。あの人はきっと…誰よりもセインさんを心配しているはずだから」
セティは長の屋敷の影を見つめながら、ひとり言を呟いた。
とりあえず雨を避け、寂れた庵の軒下へと退避した彼は思案していた。
「セインさん…どこにいるんだろう?」
長の手に捕らわれたのだから長の屋敷というのが考えられる最優先候補だが、だが、安易にそう結論付けるのも危うい気がする。
降りしきる雨の中、セティは靄がかかったような里の中をそれとなく見回した。
緑の中、ぽつぽつと存在する和風の庵。
奥に控える長の屋敷だけが目を引く。
「セインさんの意志がどこにあるのかも、僕はまだ確かめていない。会わなければ…」
セインは今、この戦いをどう思っているのか。
これからどうしようと思っているのか。
そして桔梗は?
このままセインに敵対することを、本当に望んでいるのだろうか。
殺しあうことを望んでいるのだろうか?
それが知りたい。
「話ができる相手なら誰でもいい。里長でも…。
まだ…できる事があるはず」
これ以上、時間はかけられないから。
こちらから向かってみるしかない。
セティの青い目に、長の屋敷が映る。
戦えば、色々な意味での損傷は免れない。
戦わずに済むのであれば、その方がいいのだけれど。
だが、負けられない理由がある。
護りたいものがある。
「行くか…」
一向に弱まる様子を見せない雨足を見つめながら、
決意を固めるようにセティは口にした。
「……どこに行くおつもりなの?」
その足を止めさせる冷たい声が響く。
濡れそぼった黒髪が、記憶にあるものよりもさらに色白で華奢な首筋に張り付いていた。
「桔梗さん…?」
セティは赤い着物の彼女を、驚きを隠せない表情で見つめる。
まさかこんなところで出会うとは思わなかった。
いや、でもよく考えれば戦をしているのだから、屋敷にずっと居るわけでもなかっただろうが。
「屋敷になら今は行かない方がよろしいかと存じますわ。
…もっとも行けぬ可能性の方が大きいですわね」
赤い唇に微笑が上る。
静かに彼女は手にしたクナイを構えた。
冷たい殺気が雨景色の中に波紋を落とす。
セティは口を結んだ。
彼女が無理をしていると思えるのは、自分の都合のいい論理だろうか?
「僕たちは戦うしかありませんか?」
感情的になるのは禁物。
だから、あえて冷静な顔で問いかける。
「戦うこと以外の道はありませんか?」
「ありませんわ…」
桔梗の黒い瞳はまったく揺れなかった。
「貴方は貴方でしかないから、貴方以外の物に縛られる必要はありません。
できる事、やれる事から目を背けて、何かに縛られる事を望むんですか?」
言葉が上滑りしているような、そういう錯覚にとらわれながら、セティは桔梗に会ったら言おうと思っていた言葉を紡ぐ。
すっと桔梗のクナイを持つ手が上がった。
一瞬の後、カアッと肩が焼けるような痛みを訴える。
無意識に手をやると、そこはべっとりと濡れていた。
ズキン…ズキン……と傷口が脈打つような感覚。
呼吸が圧迫され、冷や汗が滲む。
「何…故?」
「あの人の見ている前で、あなたたちが傷つくようなことがあってはならないのですわ。
だったら……そういう事態を迎える前に私が殺して差し上げます」
桔梗の言葉は、今ひとつよく分からないものだった。
だが、彼女は何か理由があって、彼女の理念で動いているのだと知れる。
「あの人を殺す前に、私の前に出た不運を呪いなさい。
可能性となりうるものは出来うる限り潰しておきたいのですわ……」
冷ややかな声。
クナイの先から、雨に混じった雫が滴り落ちた。
殺したくはない。だが、こんなところで倒れるわけにはいかない。
セティは痛みをおして肩を押さえていた手を離した。
赤い液体に塗れた手に魔力を込める。
その足を止めるだけでも…いい。
今の彼女が説得出来ぬと見える以上、そうするしか道は考え付かない。


決着を決するその瞬間をお互い窺いながら。
魔道師と赤いくのいちは。雨に打たれていた。

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