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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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『彼らの命と引き換えにしても、あなたは自分の考えを貫き通すおつもりですか?』

1人のくのいちの静かな声が胸に刺さる。

『たとえばあの少女を。たとえばあなたが友と思う青年を』


セインは工房の側を流れる川辺で、物思いにふけっていた。
今朝、通りから突然、忍びたちの姿が消えた。
こうして大っぴらに歩いていても、忍びたちに囲まれることはない。
しかし何故か、まったく気は休まることがなかった。
「嵐の前の静けさ……でなければいいのですが……」
時刻は夕暮れ時。
辺りはオレンジ色の光に満たされていた。
セインの工房の壁も。傍らの大きな樹も。静かにせせらぐ川も。
「……!」
ふと誰かの気配を感じて、セインはハッと視線を上げる。
「セインさん? こんなところで何やってんの?」
澄んだ海の色の。蒼い双眸。
少し不思議そうな面持ちで、彼は土手を降りて近づいてきた。
「…ジェラールさん……?」
彼の愛する女性もまじえて、3人で少し話をしたことがある。
どこかしら不器用で、自分を偽れない人間だと。
あの時、セインは好感情を持った。
「突然でビックリしましたよ〜。
ああ、今はあまり良い品物もないのですが、よろしければ工房の方へ―――」
いつもの笑みを浮かべながら、よく言うセリフを口にする。
少しだけ憔悴した顔は隠し切れなかったが、まさか気づかれるとは思わなかった。
「俺は買い物に来たんじゃないよ?」
ジェラールは口元に笑みを浮かべ、セインの言葉をそれとなく否定する。
「え、えっと、じゃあ……」
「鍛冶を依頼に来たわけでもないし、ただ遊びに来たわけでもない。
まあ、セインさんともう少し話はしたいと思ったけどさ」
先回りされて、セインは困惑した顔で視線をそらした。
では最初に、ふと胸をよぎった予感は間違いではなかったのか。
「…何でですか……そんなに親しいわけでも……」
声が掠れる。
まだそう何回も会ってるわけじゃない。
彼のざっくばらんに切りそろえられた金色の髪と蒼い瞳は、同じ場に居るだけでも目を引いたけれども。
会話をしたことがそもそも、そんなには多くない筈だ。
「う〜ん、なんか頑張ってる人見ると助けたくなっちまうのよ。俺にも大事な人いるしな」
ジェラールは困ったように笑った。
大事な人―――その言葉でセインはハッと顔を上げる。
「じ、じゃあ、それこそこんな所にいちゃいけないじゃないですか!
アリシアさんはこのこと、知っているんですか?!」
2人がお互いにとても愛し合っていることを。
セインは実際にその目に見て知っていた。
お互いがお互いを必要としてる。
そんな関係は見ているだけでも微笑ましく、あの後しばらく、こちらまで幸せな気分になったのだから。
だから……だから、巻き込みたくは……ないのに。
ジェラールは頬を掻く。
「え〜いやぁ、…知らない…かな…。
でも、まぁ知らせたら…心配はするだろうけど、きっと「頑張って」って言ってくれると思うな」
セインはその言葉に一瞬、動きを止めた。
そうだ。彼女ならたぶんそう言うだろう。
数えるほどしか会ったことはないが、何故かそう思う。
「……言うでしょうね」
そういう2人だから応援したいと思ったのだ。
幸せになって欲しいと思ったのだ。
セインはすぅっと息を吸った。
背筋を伸ばし、ジェラールに正面から向き直る。
「では…力を貸してくださいますか? 今の私には1人でも味方が必要です。戦うために……」
躊躇わないといったら嘘になる。
戦っても服従しても、「大切なもの」を危険にさらす矛盾。
だが……それから目は逸らせない。
「まあ、俺に出来ることがあったら言ってよ。な、セインさん」


「セインさんー、夕飯出来たってさー」
土手の向こうからエルディスが現れた。
その横にはアプリルの姿もある。
「今日のご飯はねー、パルちゃんの特製だよ♪ とっても豪華なんだよー」
セインは小さく微笑んだ。
「ジェラールさん、ご一緒にいかがですか? 特製だそうですよ?」
「あ、ああ。じゃあ、そうしようかな…」
セインの微笑に含みを感じて、ジェラールは少し引き加減になりながら同意する。
特製…料理?
何故か不吉な予感のする言葉だった。

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