ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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そろそろ時刻は夕方へと傾いてた。
厚い雲と降り続く雨のせいで落ちる陽も何もあったものじゃないが、周囲が更に暗くなったような錯覚を覚える。
雨の音の中、時を教える里の鐘が哀切な音を響かせていた。
「また赤い雨が降ってる」
深い夜の色をした瞳で、少女は周囲を見渡した。
ぴょんっと雨宿りをしていた庵の軒下から外へと跳ねる。
「赤い雨は人を悲しませることが多いから……。これ以上、降らないといいんですけど」
瞳と同じく深い闇色の髪が、すぐに雨に濡れて頬にぴったりと張り付いた。
「セインさんもご主人も、どこにいるんでしょうか〜」
子犬のようにつぶらな目で、きょろきょろと知った人の姿を探す。
濡れることはとりあえず、気にしていないようだ。
会ってまだそんなに間がないセインに協力しようと思ったのは、そんなに大きな理由があるわけじゃない。
ただ赤い雨の範囲が広がって、悲しげな顔をした人が増えるのがイヤだった、ただそれだけだ。
もちろん、セインやその友達の人にも笑っていて欲しい。
「セインさんがいることで、幸せな顔ができる人はたくさんいますから…」
正直、羨ましいと思う。
セインの周りには素敵な人がいっぱいいて、みんなお互いを大切に思っているのが分かるから。
彼とそういう話をした時のことを思い出し、夜色をした少女は嬉しそうに顔を緩めた。
『私は、リュウさんと出会えたことも幸せな出会いだと思っていますよ…』
言葉を惜しむことのない人。
そう言ってもらえて、嬉しかった。
ひゅんっ。
風を斬って飛んできた小柄を、リュウは身をひねって避けた。
「またですかぁ〜?」
里に入ってから何人かの忍びと遭遇し、倒してきた。
雨の雫が目に入らぬように手でさえぎるようにして、そちらの方に顔を向ける。
最初に飛び込んできたのは、薄暗い中で思わずハッと目を奪われるような『赤』だった。
その眼差しにどこか哀しげな色を点し、赤い着物の女性はリュウの方を見ていた。
「えっと…忍びさんですよね?」
一応確認しておかねばと思い、リュウは彼女に聞く。
それに対し、女性は首を引くことで答えた。
「私の名は桔梗…。この行動は厳密には命令違反になってしまうけれど……お命、頂戴いたしますわ」
ぴん…と空気が張り詰める。
「ええと…」
リュウは首を傾げた。
この人は敵なのだろうか?
何故かそんな疑問が浮かぶ。
もう一度彼女は桔梗と名乗る女性を見た。
やっぱりその目は哀しそうだった。
雨に濡れた赤い着物は重みを帯びていた。
雨を多分に含んだ黒髪が、白い首筋を流れ落ちる。
桔梗は前に居る小柄な少女に目をやった。
(この娘もセイン様に味方する以上、捨て置いてはおけないわ…)
突然、簡単な小競り合い以外はぶつかり合うことを禁止した里長の意向をもう知っている。
命じられ、セインの過去を探ったのは桔梗だったから。
セインがその内に隠しているものを知っている。
(セト様は…セイン様の心を壊すつもり)
魔法を吸収する能力を持ち、それ自身も大きな魔力を秘める子供。
人を殺めることに何の罪悪感もない。
世に討って出るのに、かなりの力となると長は考えている筈だ。
そんな存在が偶然とはいえ、天才と呼ばれた鍛冶師の弟子になり、この里に来たことに……運命のいたずらを感じずにはいられない。
不思議そうに首を傾げている少女を見つめながら。
桔梗は手にしたクナイを握りしめた。
「私はセイン様の味方につく方々を排除するだけですわ。
そして今はセイン様も殺す……それだけですわ」
どちらかが倒れなければ終わらない戦い。
セインが始めてしまったのは、まさに『それ』だ。
どちらも生き残るという道はないと知っている。
……いや、そんなことはあってはならない。
「セインさんがキライなんですか〜?」
少女は何やら難しい顔をしていた。
ふと虚をつかれ、桔梗は一瞬視線を惑わせる。
数人の人間に問われたことで、もう自分の思いには気がついていた。
いや、もしかしたら初めから、見ないふりをしていたのかもしれない。
最初は意地と苛立ちから。そして今は……。
桔梗は唇をかみ締めた。
叶わぬものをいつまでも心につき付けられるのは、辛すぎる。
「あなたには関係のないことですわ……」
掠れた声で呟き、戦闘態勢に戻る。
と、いきなり飛んできた炎の渦が2人の間を割った。
その後を追うように氷雪の渦が飛び、炎と混じり合って高温と低音の不思議な協和を作る。
何故かその炎は雨でも消えない。
ばっとリュウと桔梗は後ろに飛び退った。
「外したか…」
銀色の長髪が雨の中で鈍く光る。
一部だけ染めているのか赤い色が映えた。
「あなたは……。客人のくせに、余計な手出しは無用ですわ」
その男を見て、桔梗は冷たい声を出した。
つい先日、長の屋敷に現れた異邦者。
どういう理由でか、客人の立場になった。
男は無言で、もう一度剣を振り上げる。
その剣が再び炎をまとった。
リュウがくんっと小柄な体躯をかがめ、飛び出す姿勢を取る。
その手にきらきらと光る細い糸がぴんと張られていた。
桔梗が客人というからには、この男は里長に味方するものなのだろう。
つまりは敵だ。
男の剣から炎が飛び出す瞬間を狙ったように、リュウの足が地面を蹴った。
たんっ。
2人の体が交差するように近接し、そして離れる。
桔梗が赤い唇を緩めた。
「あなたは敵、ですよね?」
何かを確認するようにリュウが問いを発する。
「それがどうした」
再び剣を構えようとする男に、夜空色の少女は向き直った。
「じゃあ、ごめんなさい」
さらっと言うと、リュウは手にしていた糸の張った部分を楽器でも弾くように指ではじく。
糸が振動する音がして……男は鈍いうめき声を最後にもの言わぬ塊となった。
「ただの糸じゃないわね……それ」
楽しそうに桔梗が微笑む。
「私の友達の蜘蛛さんのです」
リュウは嬉しそうににっこりとそう笑った。
激しい雨がすべてを洗い流すように降り注ぐ。
そこにもう1人、紫色の髪の少女が現れたことから、状況はまた変化するのだった。
厚い雲と降り続く雨のせいで落ちる陽も何もあったものじゃないが、周囲が更に暗くなったような錯覚を覚える。
雨の音の中、時を教える里の鐘が哀切な音を響かせていた。
「また赤い雨が降ってる」
深い夜の色をした瞳で、少女は周囲を見渡した。
ぴょんっと雨宿りをしていた庵の軒下から外へと跳ねる。
「赤い雨は人を悲しませることが多いから……。これ以上、降らないといいんですけど」
瞳と同じく深い闇色の髪が、すぐに雨に濡れて頬にぴったりと張り付いた。
「セインさんもご主人も、どこにいるんでしょうか〜」
子犬のようにつぶらな目で、きょろきょろと知った人の姿を探す。
濡れることはとりあえず、気にしていないようだ。
会ってまだそんなに間がないセインに協力しようと思ったのは、そんなに大きな理由があるわけじゃない。
ただ赤い雨の範囲が広がって、悲しげな顔をした人が増えるのがイヤだった、ただそれだけだ。
もちろん、セインやその友達の人にも笑っていて欲しい。
「セインさんがいることで、幸せな顔ができる人はたくさんいますから…」
正直、羨ましいと思う。
セインの周りには素敵な人がいっぱいいて、みんなお互いを大切に思っているのが分かるから。
彼とそういう話をした時のことを思い出し、夜色をした少女は嬉しそうに顔を緩めた。
『私は、リュウさんと出会えたことも幸せな出会いだと思っていますよ…』
言葉を惜しむことのない人。
そう言ってもらえて、嬉しかった。
ひゅんっ。
風を斬って飛んできた小柄を、リュウは身をひねって避けた。
「またですかぁ〜?」
里に入ってから何人かの忍びと遭遇し、倒してきた。
雨の雫が目に入らぬように手でさえぎるようにして、そちらの方に顔を向ける。
最初に飛び込んできたのは、薄暗い中で思わずハッと目を奪われるような『赤』だった。
その眼差しにどこか哀しげな色を点し、赤い着物の女性はリュウの方を見ていた。
「えっと…忍びさんですよね?」
一応確認しておかねばと思い、リュウは彼女に聞く。
それに対し、女性は首を引くことで答えた。
「私の名は桔梗…。この行動は厳密には命令違反になってしまうけれど……お命、頂戴いたしますわ」
ぴん…と空気が張り詰める。
「ええと…」
リュウは首を傾げた。
この人は敵なのだろうか?
何故かそんな疑問が浮かぶ。
もう一度彼女は桔梗と名乗る女性を見た。
やっぱりその目は哀しそうだった。
雨に濡れた赤い着物は重みを帯びていた。
雨を多分に含んだ黒髪が、白い首筋を流れ落ちる。
桔梗は前に居る小柄な少女に目をやった。
(この娘もセイン様に味方する以上、捨て置いてはおけないわ…)
突然、簡単な小競り合い以外はぶつかり合うことを禁止した里長の意向をもう知っている。
命じられ、セインの過去を探ったのは桔梗だったから。
セインがその内に隠しているものを知っている。
(セト様は…セイン様の心を壊すつもり)
魔法を吸収する能力を持ち、それ自身も大きな魔力を秘める子供。
人を殺めることに何の罪悪感もない。
世に討って出るのに、かなりの力となると長は考えている筈だ。
そんな存在が偶然とはいえ、天才と呼ばれた鍛冶師の弟子になり、この里に来たことに……運命のいたずらを感じずにはいられない。
不思議そうに首を傾げている少女を見つめながら。
桔梗は手にしたクナイを握りしめた。
「私はセイン様の味方につく方々を排除するだけですわ。
そして今はセイン様も殺す……それだけですわ」
どちらかが倒れなければ終わらない戦い。
セインが始めてしまったのは、まさに『それ』だ。
どちらも生き残るという道はないと知っている。
……いや、そんなことはあってはならない。
「セインさんがキライなんですか〜?」
少女は何やら難しい顔をしていた。
ふと虚をつかれ、桔梗は一瞬視線を惑わせる。
数人の人間に問われたことで、もう自分の思いには気がついていた。
いや、もしかしたら初めから、見ないふりをしていたのかもしれない。
最初は意地と苛立ちから。そして今は……。
桔梗は唇をかみ締めた。
叶わぬものをいつまでも心につき付けられるのは、辛すぎる。
「あなたには関係のないことですわ……」
掠れた声で呟き、戦闘態勢に戻る。
と、いきなり飛んできた炎の渦が2人の間を割った。
その後を追うように氷雪の渦が飛び、炎と混じり合って高温と低音の不思議な協和を作る。
何故かその炎は雨でも消えない。
ばっとリュウと桔梗は後ろに飛び退った。
「外したか…」
銀色の長髪が雨の中で鈍く光る。
一部だけ染めているのか赤い色が映えた。
「あなたは……。客人のくせに、余計な手出しは無用ですわ」
その男を見て、桔梗は冷たい声を出した。
つい先日、長の屋敷に現れた異邦者。
どういう理由でか、客人の立場になった。
男は無言で、もう一度剣を振り上げる。
その剣が再び炎をまとった。
リュウがくんっと小柄な体躯をかがめ、飛び出す姿勢を取る。
その手にきらきらと光る細い糸がぴんと張られていた。
桔梗が客人というからには、この男は里長に味方するものなのだろう。
つまりは敵だ。
男の剣から炎が飛び出す瞬間を狙ったように、リュウの足が地面を蹴った。
たんっ。
2人の体が交差するように近接し、そして離れる。
桔梗が赤い唇を緩めた。
「あなたは敵、ですよね?」
何かを確認するようにリュウが問いを発する。
「それがどうした」
再び剣を構えようとする男に、夜空色の少女は向き直った。
「じゃあ、ごめんなさい」
さらっと言うと、リュウは手にしていた糸の張った部分を楽器でも弾くように指ではじく。
糸が振動する音がして……男は鈍いうめき声を最後にもの言わぬ塊となった。
「ただの糸じゃないわね……それ」
楽しそうに桔梗が微笑む。
「私の友達の蜘蛛さんのです」
リュウは嬉しそうににっこりとそう笑った。
激しい雨がすべてを洗い流すように降り注ぐ。
そこにもう1人、紫色の髪の少女が現れたことから、状況はまた変化するのだった。
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