ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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「…ち……」
そのままどこにも現れる様子のないセインに、マスターは残念そうな顔をした。
あれはきっと強い。面白い戦いになりそうなのだが……。
「…そのうち…戦いたいものだ……」
しばし物思いに耽ったあと、マスターは地面にうつぶせに倒れているジェイクに目を向けた。
腹部から流れ出す血が、地面を黒ずませる。
出血量は傷の割りにそんなに多くないように見えたが、それは確実にじわじわと彼の命を縮めていた。
小刻みにジェイクの体が痙攣する。
「…まだ…死ぬには早すぎる…な……」
自分も彼も。
マスターはジェイクへと近付いた。
そんなに白魔法は得手ではないが、止血の足しにぐらいはなるだろう。
そんなことを考えたとき……ジェイクの指先がガッと地面に突き立てられた。
がくがくと震えながら腕が伸び、膝が伸びて。
荒い息を吐きながら、彼はよろよろと立ち上がる。
「時間が無ぇ…次の1撃で決着しようぜ……?」
どこにそんな力が残されているというのか。
ジェイクはそう笑みすら浮かべて見せた。
意識も飛びがちなのだろうか。
その深紅に染まった(!)瞳はマスターに向けられているもののどこか虚ろで、それゆえに危うい雰囲気を放っている。
ジェイクの手が、血と埃にまみれた空色のコートにかかった。
半ば引きちぎるような勢いでそれを脱ぎ払う。
ばっと周囲に血の霧が舞った。
「……(妖狐の力…か……)」
それをマスターは無言で見つめる。
止める気はなかった。
こんな状態で戦えば命が危ないとは思う。
が、しかし相手がそれを望むなら、こちらに否定する理由はない。
「クッ……」
ジェイクは鈍くうめきながら、片手に水の魔力を溜め、セインにぶち抜かれた腹にそれを押し当てた。
しゅん…っ。
極度に温度の低いそれが、傷口を覆っていく。
すでに痛みは感じていないのだろう。
滴り落ちていた血も。
急激な温度変化に凍り付いていった。
それと間を置かずして、同じ手に集められる木の魔力。
片腕で二つの魔力を操ることなど、普通の人間には出来ない。
その波動は、まるで誰も側に寄せ付けたくないというように強大だった。
「………」
マスターは少しだけ表情を引き締める。
通常の状態でも厄介なのに、妖狐の力を発現した状態であの魔法を撃ったらどうなるのだろうか?
強いものと出会える予感に無意識に気持ちが高揚した。
手早く四神蒼王を呼び、結界の構成を結ぶ。
それが完成するのとジェイクのフリーズミストが放たれるのが同時で。
キィ…ンと周囲が冷たい力に満たされた。
音が消える。
ピ…ッとマスターの頬を押さえ切れなかった小さな鋭い氷がかすめた。
視界が一気に白い霧に覆われる。
「………」
ぶんっ!
その中で飛んできた拳をマスターは受け流した。
霧の中にぱっと朱が混じる。
ジェイクは所々から血が吹き出す腕を再び上げた。
そんな状態なのに繰り出される攻撃はやたらと鋭かった。
「…それは……?」
「へっ…、セインさんやってくれたよなぁ……。
ただでさえ保たないってのに……」
ジェイクが攻撃に出るたびに、また別の場所から血が吹き出す。
御しきれない強い力に体が悲鳴を上げているようだった。
腹の傷を止めていた氷も弾け飛び、再び激しく出血し始める。
攻撃を受け止めながら、マスターはその瞳に自分でも気づかないほど小さな焦りの色を点した。
死んでしまう前に何とか気絶させるつもりだったが、力はそれを許さないほどに均衡していた。
と、よく知った気配が意識の片隅に引っかかる。
「…ミレナ……」
マスターはその名を呟いた。
ちょうどその瞬間。
「…やめなさい……」
パコーン!
僧侶ミレナは持っていたトンファーで血まみれの妖狐の後頭部を殴り倒した。
マスターは前のめりに倒れてくるジェイクから、すっと身をかわす。
「…打ち所が悪ければ……それで死ぬな……」
「大丈夫です…。私が回復させます…」
少し凄みを浮かべた紫の瞳がにっこりと微笑んだ。
その手を聖なる魔法の力が包む。
「…まったく……こんなになるまで戦うなんて…」
地面に倒れているジェイクに目を向け、ミレナは苦笑した。
自分が止めなければ、死ぬまで戦っていたのだろうか?
誰も死なせる気などないというのに…。
「…マスターは大丈夫ですか…?」
「…凍傷と……まあ、問題ない……」
雨が上がる。
たとえひとときだけでも。
陽の光が差し込む。
マスターは長の屋敷の方に目をやった。
その気配を察したのか、ミレナが顔を上げる。
「…行くんですか……?」
「……ああ…」
戦いの意味も理由もそれぞれ。
まだまだ終わらない。
そのままどこにも現れる様子のないセインに、マスターは残念そうな顔をした。
あれはきっと強い。面白い戦いになりそうなのだが……。
「…そのうち…戦いたいものだ……」
しばし物思いに耽ったあと、マスターは地面にうつぶせに倒れているジェイクに目を向けた。
腹部から流れ出す血が、地面を黒ずませる。
出血量は傷の割りにそんなに多くないように見えたが、それは確実にじわじわと彼の命を縮めていた。
小刻みにジェイクの体が痙攣する。
「…まだ…死ぬには早すぎる…な……」
自分も彼も。
マスターはジェイクへと近付いた。
そんなに白魔法は得手ではないが、止血の足しにぐらいはなるだろう。
そんなことを考えたとき……ジェイクの指先がガッと地面に突き立てられた。
がくがくと震えながら腕が伸び、膝が伸びて。
荒い息を吐きながら、彼はよろよろと立ち上がる。
「時間が無ぇ…次の1撃で決着しようぜ……?」
どこにそんな力が残されているというのか。
ジェイクはそう笑みすら浮かべて見せた。
意識も飛びがちなのだろうか。
その深紅に染まった(!)瞳はマスターに向けられているもののどこか虚ろで、それゆえに危うい雰囲気を放っている。
ジェイクの手が、血と埃にまみれた空色のコートにかかった。
半ば引きちぎるような勢いでそれを脱ぎ払う。
ばっと周囲に血の霧が舞った。
「……(妖狐の力…か……)」
それをマスターは無言で見つめる。
止める気はなかった。
こんな状態で戦えば命が危ないとは思う。
が、しかし相手がそれを望むなら、こちらに否定する理由はない。
「クッ……」
ジェイクは鈍くうめきながら、片手に水の魔力を溜め、セインにぶち抜かれた腹にそれを押し当てた。
しゅん…っ。
極度に温度の低いそれが、傷口を覆っていく。
すでに痛みは感じていないのだろう。
滴り落ちていた血も。
急激な温度変化に凍り付いていった。
それと間を置かずして、同じ手に集められる木の魔力。
片腕で二つの魔力を操ることなど、普通の人間には出来ない。
その波動は、まるで誰も側に寄せ付けたくないというように強大だった。
「………」
マスターは少しだけ表情を引き締める。
通常の状態でも厄介なのに、妖狐の力を発現した状態であの魔法を撃ったらどうなるのだろうか?
強いものと出会える予感に無意識に気持ちが高揚した。
手早く四神蒼王を呼び、結界の構成を結ぶ。
それが完成するのとジェイクのフリーズミストが放たれるのが同時で。
キィ…ンと周囲が冷たい力に満たされた。
音が消える。
ピ…ッとマスターの頬を押さえ切れなかった小さな鋭い氷がかすめた。
視界が一気に白い霧に覆われる。
「………」
ぶんっ!
その中で飛んできた拳をマスターは受け流した。
霧の中にぱっと朱が混じる。
ジェイクは所々から血が吹き出す腕を再び上げた。
そんな状態なのに繰り出される攻撃はやたらと鋭かった。
「…それは……?」
「へっ…、セインさんやってくれたよなぁ……。
ただでさえ保たないってのに……」
ジェイクが攻撃に出るたびに、また別の場所から血が吹き出す。
御しきれない強い力に体が悲鳴を上げているようだった。
腹の傷を止めていた氷も弾け飛び、再び激しく出血し始める。
攻撃を受け止めながら、マスターはその瞳に自分でも気づかないほど小さな焦りの色を点した。
死んでしまう前に何とか気絶させるつもりだったが、力はそれを許さないほどに均衡していた。
と、よく知った気配が意識の片隅に引っかかる。
「…ミレナ……」
マスターはその名を呟いた。
ちょうどその瞬間。
「…やめなさい……」
パコーン!
僧侶ミレナは持っていたトンファーで血まみれの妖狐の後頭部を殴り倒した。
マスターは前のめりに倒れてくるジェイクから、すっと身をかわす。
「…打ち所が悪ければ……それで死ぬな……」
「大丈夫です…。私が回復させます…」
少し凄みを浮かべた紫の瞳がにっこりと微笑んだ。
その手を聖なる魔法の力が包む。
「…まったく……こんなになるまで戦うなんて…」
地面に倒れているジェイクに目を向け、ミレナは苦笑した。
自分が止めなければ、死ぬまで戦っていたのだろうか?
誰も死なせる気などないというのに…。
「…マスターは大丈夫ですか…?」
「…凍傷と……まあ、問題ない……」
雨が上がる。
たとえひとときだけでも。
陽の光が差し込む。
マスターは長の屋敷の方に目をやった。
その気配を察したのか、ミレナが顔を上げる。
「…行くんですか……?」
「……ああ…」
戦いの意味も理由もそれぞれ。
まだまだ終わらない。
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