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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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遠くで鐘の音が聞こえる。
「…けっこう…手間取った……」
マスターはぼそりと呟いた。
再び屋敷に入り込んで数刻。
際限なく湧いてくる忍びたちを打ち倒しながら、入り組んだ廊下を進む。
「…まったく…長の部屋は何処なのだろうな…」
進めど目の前に現れるのは、似たような造りの部屋と廊下ばかりだ。
忍びたちに聞き出そうと試みたが、彼らは無言で殺気を放つばかりで問いに答えようとはしなかった。
かすかな苛立ちが心を染める。
強い相手と戦いたいという心。
時間がないという心。
諦めないという心。
さまざまな思惑が浮かんでは消えた。
一度、屋敷の中から里長の気配が消えていた。
しかし、今はまた確かに強い波動を感じている。
「……む…」
新たな襖戸に手をかけた瞬間、背筋を貫いた予感にマスターは僅かに身をずらした。
内側から放たれた金属性の魔力が戸を吹き飛ばす。
「中に入ると内側から魔力で鍵がかかるようになっているようね…。という事は、やはりここに何かがある……」
中から聞き覚えのある声が響いた。
「…恵美璃か……?」
「あら、マスターじゃない。久しぶりね」
マスターは戸の残骸を踏み分けて部屋へと入る。
今まで目にしてきたのより広い部屋。
雰囲気からして、謁見の部屋といった感じだ。
その真ん中に。
恵美璃の姿があった。
「サブオリジナルか……」
細かいことは知らないが、恵美璃は多重人格だ。
おそらく見た感じから、今表に出ているのは『無』。
「……どうしてここに居る…?…」
何かに警戒が働く。
恵美璃の口元に小さな微笑が浮かんだ。
「さて、どうしてかしらね?」
「………」
緊張と警戒、微妙な沈黙が場を支配する。
そこへ。
ドンッと大きな音がして、屋敷に揺れが走った。


「……爆発?」
一瞬ハッとして銃を構えた恵美璃が呟きを漏らした。
すぐに第二撃が再び屋敷を揺らす。
それと同時に地下の方で膨れ上がる異質な気配。
「…これは……」
マスターは周囲を警戒しながら、小さく眉をひそめた。
桔梗と対峙した時に感じた空気の流れの変化。
あの時と同じ対象から発せられているような、そういう予感がする。
「……下か…」
爆発と気配が重なり合い、ひときわ大きく屋敷が揺らいだ。
ばらばらと天井から瓦礫が降ってくる。
「あら…あんなところにあったのね」
自分の方に降ってきた瓦礫を魔法で粉砕した恵美璃が、冷静な目で床の一点を見つめた。
落ちてきた瓦礫に何かの仕掛けが作動したのか、床にぽっかりと穴が開き、そこには地下への階段が伸びていた。
そこから流れてきた先程よりも強い気配に圧されるように、恵美璃の表情が変わる。
激しく唇が震え、目が虚ろになった。
屋敷の揺れがさらに激しくなる。
「……やばいね。これ以上ここにいるのはさ」
やがてその口から、軽い口調が滑り出た。
「この屋敷は崩れるよ、もうすぐ」
「…『遊』か……?」
確か逃げの衝動から生まれた人格だったはずだ。
もっともマスターの持っているのは宿星の情報が記された石版からの知識がほとんどで、あまり彼女の事に詳しいわけではなかったが。
「マスターももう脱出した方がいいよ。戦うっていうなら『狂』と変わるけどさ」
天井から降る瓦礫が、マスターと恵美璃の間の視界を幾度も遮る。
「…俺は…下に行く……」
強い者と戦いたいという心と。
里長を倒せばこの戦いは終わらせられるという予測。
「まあ、そういうと思ったよ。別に止めないけどさ」
恵美璃が呆れたような顔でひらひらと手を振った。
「ボクは失礼させてもらうよ……?!」
戸が壊れた部屋の入り口へ向かいかけた足が、ぴたっと止まるのと。
その近くの壁に仕掛けられていた爆発物が破裂するのが同時だった。
「…ちっ……」
爆風の中、マスターの小さな舌打ちが響く。
それは神速の動きとも言えた。
マスターの手が恵美璃の腕を掴み、一瞬にして2人の姿がそこから消える。
そのすぐ後、さらに仕掛けられていた爆発物に誘爆したのか激しい爆発がいくつも起こり、それをきっかけにして屋敷のあちこちで爆風が吹き荒れ、火の手が上がった。

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