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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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「はぅ〜、ここがセインさんの工房?」
ルレットは目の前の小さな庵を見上げた。
煤で少し壁が汚れているのは、ここの住人の職業柄か。
それでもしっかりと手入れされた庵は、どことなく落ち着いた雰囲気を放っていた。
庵の入り口横に咲いている小さな紫色の花が、枯れることなく風に揺られている。
「ええ、そうですよ」
一瞬だけ差した日差しは、もう陰ってしまっていた。
厚い灰色の雲に覆われた空。
今にもまた、雨が降り出しそうだ。
音も煙もない工房。
そこには誰も居る気配はなかった。
静かに静まり返るそれに、セティがポツリと漏らす。
「誰も……いない?」
セインに協力を申し出た人間達は皆、日常を戦いの中に置く者たち。
忍びたちと同じく、気配を消すことなど容易い。
そうと分かっていても思わず呟きが漏れた。
「ううん、誰かいるよ」
じっと工房を見つめ、ルレットが言う。
「ルレットさん?」
熱に冒されたようなその口調に不可解なものを感じて、セティは訝しげに傍らの少女へと視線を注ぐ。
しかし、彼女はそれにもまったく動じなかった。
「ルレットの……、ルレットの知ってる人が」
呟いたかと思うとルレットは工房の中へと走っていってしまう。
それを一瞬、呆気に取られて見送ってしまい、あわててセティも後を追った。
「ちょっ、ルレットさん!」
ここはセインの工房。
危ないことなど何も無いはずだし、そこには仲間達が居るはずなのだが、何故かイヤな予感がした。
もやもやとした、灰色の不安。
そんなものに心を奪われる自分に少しだけ苦笑を零しえない。
それでも……この里では彼が常識と思っていたものが通じないのだ。
先程の入り口に居た上忍との会話に、苦いものを感じていたセティは警戒を強めながら、部屋の真ん中につっ立っているルレットに近づいた。
「……誰も…居ないようですね……?」
仲間達はどうしたのだろうか。
自分と同じように、味方を探して里の中に散らばっているのか?
それともセインの行方の手がかりでも見つけたのだろうか?
「はぅ〜、たしかに誰かいたんだよぉ〜?」
不思議そうに首を傾げているルレットに気を配りながら、セティはもう一度工房内を見渡す。
先程までは誰か居たのか、囲炉裏はまだほんのりとぬくもりを残していた。
片付けられたお椀や鉄鍋から、それは仲間達であろうと推察できる。
しかし、それと同時に漂う違和感。
「……何かが…いたのか?」
セティは窓際に寄り、外の様子を窺う。
近くを流れる川の音は、雨が降ったせいかかなり激しさを増していた。
風がカタカタと鳴っている。
「………」
セティは眉をひそめた。
外は何も変わらないように見える。
だがこの工房の中にかすかに漂う異質な気配は……何だ?
「危ないですから、ルレットさんはここに居てください。
私は皆を探してきます」
まだ不思議そうにしている少女に言い聞かせ、セティは戻ってきたばかりの工房を出た。


風が次第に強さを増していた。
それが何故か言いようのない不安を煽る。
協力者を探して先程歩いたばかりの広場まで来て、セティはふと足を止めた。
セインが長に捕らわれたという場所。
この場で何が起こっていたのか、詳しいことはセティには分からない。
だが唯一、そこに居合わせた淳は『セインさんが…長に捕われた』と言った。
分からないことがある。
彼らは……忍びたちは目的を果たしたのではないのだろうか?
セインを捕らえれば、彼らは一気にこちらを潰しにかかると思っていた。
それなのに特に大きな動きは感じられない。
「生かされている…?」
そうとしか思いつかない。
まだ直接の面識はないが、話に聞く里長が自分たちを生かしたままにする理由。
それが何なのか想像はつかないが、あんまり望ましいことではないのだろう。
セインにとっても自分たちにとっても……。
(それに…あれは、何だ?)
工房の中にかすかに残っていた残り香とでもいうべき『異質』。
イヤな予感は募るばかりか、焦りさえも生む。
これ以上、後手に回るようなことがあってはならない。
セインが捕らえられ、不気味な静けさが続く中、悠長に協力者を探している暇はないとセティは思った。
(協力を仰ぐのを目的にするのは、もう止めよう)
頭数、組織力では忍びたちには到底敵わないかもしれないが、それでもこちらも個々の能力はけっして劣ってはいないと思う。

ただ、最後に一人だけ。
手を打つ前に、話をしたい人がいる。
(あの人とは…話をしなければいけない)
目を奪う鮮やかな赤。
セインが姿を消した時、二三、言葉を交わした。
その時に感じた印象。礼を尽くした言葉の中に感じた思い。
他の忍びたちより、明らかに知っている。
この里の住人の中、セイン以外で唯一、知人と呼べないこともないその存在を。
セティは遠くに見える長の屋敷に目を向けた。
もう一度、会わなくてはならない。
その歩みがゆっくりと再開された。
長の屋敷に向って……。

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