ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
カテゴリー
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「ヒーリング!……これでよし。
ったく、あんなに仕掛けなくたって良いじゃんかよー」
森の中で。
ぶつぶつと呟く声が聞こえた。
青緑色の短い髪の先が、さらさらと風に揺れる。
忍びの里に程なく近い森の中。
本来なら外界からの侵入者を阻むため、罠が大量に仕掛けてある場所だ。
しかし里の中での戦という特殊な状況から、それは通常時の半分以下に抑えられていた。
癒しの光がぽうっと一瞬だけ、暗い森の中にともる。
黒橙の中華風道着に身を包んだ人影がその光にぼんやりと照らし出された。
全体的に黒系統でまとめられた服装。
腰の微妙なくびれ具合と体のラインが、女性であることをそれとなく示している。
だが、その口調や行動はさばけていて、服装によっては男にも見られるだろうと思えた。
彼女の名前はルダ。
『知り合いを守る為に』この里に来た。
彼女の知り合いたちがこの里の戦に参戦している。
知っている人たちが悲しい目に合うのは嫌で、彼女もまた参戦を決めた。
だからこそあくまで、戦うことが目的ではなかった。
なんならセインを逃がしてもいいと思う。
組織の中にあるというのは大変なことで、それについては同情していたから。
彼女の通ってきた道には、いくつか作動した罠が見えた。
致死性のある罠は少ないが、それでも普通の場所に比べれば格段に罠の数は多い。
特に外界から里へと向う道筋には、注意して避けなければ危険なものも多く含まれていた。
どうやら、そのうちの一つに引っかかり少し足を怪我したらしい。
ヒーリングで癒したその部分を、あやすようにさすっている。
「仕掛けたヤツは性格わるそうだなー」
ルダはむくれながら、ぶつぶつと続けた。
森の木々が強い雨風にざわめいている。
だが大きく張り出し重なり合った木々のおかげで、雨に濡れないのが幸いといえた。
「誰か…いる?複数かな?」
ふとルダはどこかから聞こえてくる、ぼそぼそとした声に耳を止めた。
生い茂った緑が視界を遮っていて、近さすら分からない。
ただ、男と女の声のようだと思った。
内容は今ひとつ、よく聞き取れなかった。
「よっと……大分遅れたからな。知り合いだといーんだけど」
ひょいと立ち上がり、緑の向こう側に目を凝らす。
聞いた話では、セインが戦を始めてからもうすぐ3週間が経つという。
こんな小さな里の戦で、そこまで決着が長引くのは少し意外だったが、知り合いを守るのに間に合ったと思えばまあ、別に特には気にならなかった。
罠に気をつけながら、声のしている方へと森の中を進む。
足元で下生えがかすかに擦れた音を立てた。
「……巻き込み…くなん…なかった…に……」
「…セインは……1人…ゃおわしま……」
「…あんたは…じゃないん…ら……」
途切れ途切れに声が聞こえてくる。
どうやらセインと誰かのようだ。
工房までの道すじが分からなかったルダは、ちょうど良かったと思いゆっくりと歩を進めた。
緑の景色が急にひらけて―――。
自然のものではない色彩が飛び込んでくる。
そこに居たのはセインとくうぱあ、レーヴェ、シャルロットの4人だった。
「よ……」
「じゃあ、私は空から久遠さんを探してみるわ」
声をかけようとしたとき、そちらの側に動きがあった。
まず、シャルロットがそう言ってそこを離れていく。
くうぱあも、立っているセインとレーヴェを見つめた。
「私も、久遠さんを探す続きをしたいのですがー……レーヴェさんと2人でも大丈夫ですか?」
どうやら久遠が行方不明らしい。
「……レーヴェさんを危険な目には合わせられませんよ。もしもそんなことになったら、リヒトさんに殺されますからね」
セインがそうわずかに微笑みながら答える。
「…ぁぅ……」
レーヴェが何も言えないというように、恥ずかしそうに俯いた。
セインってよく地雷踏むよなーとルダは苦笑した。
自覚はあるのかないのか、セインは思っていることをよく口にしすぎてしまうきらいがある。
まあ、それが一概に悪いとは言えないが。
「えーと、私も一緒に行くけど…いいか? セイン、レーヴェ」
ルダはがさがさと草をかき分けて、その場に出た。
「師匠…?!」
セインが驚いた顔をする。
何故か彼はルダのことを師匠と呼ぶのだ。
その理由は本人にもよく分からないようだったが、まあ実害はないので特に拒否はしてない。
「あ、ルダさんがいるんなら安心ですねー。じゃ、お気をつけてー」
「おー、そっちも気をつけてなー」
笑いながら離れていくくうぱあに、軽く手を振るとルダはセインとレーヴェに向き直った。
じーっと何か言いたげな視線を注いでくるセインに、首を傾げる。
「何かあった? セイン」
疑問を投げかければ、セインはあわてて首を左右に振った。
「いいえ…何でもないです」
その瞳は全然、何でもなくはないように見えた。
だが、セインが何もないという以上、どうと言うことも出来ない。
「そうかー? ま、いいけど」
それでも先ほど漏れ聞こえた会話から、ルダにもセインに言っておきたいことがあった。
それは―――。
「あとなー、巻き込まれてるのは強制的に、でしょ?
大体こんな場所の戦争を強制的に外部が巻き込まれるなんてありえないし。勝つつもりでいるならなんでも利用しなきゃ勝てないよー」
言いながらにやりと笑う。
セインがハッと顔を上げた。
「……聞いていたのですか?」
「聞こえたよー。何か怒られてたみたいだけど……あれ?」
自分の前にいるセインにふと、違和感を覚える。
「…何かおかしくないか?」
普段なら見上げる位置にあったセインの瞳が、何故か近いと思った。
怪訝に思って、傍らで呆然としていたレーヴェを呼ぶ。
「なあ、レーヴェ。ちょっと背比べてみてくんない?」
ルダの身長が157cm。
確かセインとは15、6cmは違ったはずだ。
「ぁ…はいー」
少し離れた位置から、背伸びをしながらレーヴェが身長を見る。
「? ルダはん、すこぉし背ぇ伸びられましたんどすか?」
「いや? 私はそんなに変わってないはずだよ」
「そやったら……」
レーヴェの反応で、何となく違和感の正体が分かった。
セインの背が縮んでいる。
それもおそらく10cmぐらいは……。
「セインはんが縮んではる……?」
「マスターの子供化みたいだなー。元に戻るのか? セイン」
そういう話を聞くのは初めてではなかったからか、そんなには驚かなかった。
「……?」
自覚はなかったのか、セインが不思議そうに首を傾げる。
「だからセインの背が縮んでるんだって。別に他には異常なし?」
「私の背が…縮んでるのですか……?」
「気づかないって事は、特に他には影響がなかったんだなー。
まー、なんとかなるよ。マスターは元に戻れるんだしさ」
楽天的に言うと、セインの顔に小さく苦笑が浮かんだ。
そういう顔の方が、らしいと思う。
最近、どうもくよくよしてたみたいだったし。
「…で、なんでこの里の頭(頭)はセイン狙ってんだっけ?鍛冶できるからだったっけ?
別にセインじゃなくてもいーだろーに」
とりあえず分からないことが多すぎる。
セインに聞くのが一番早いだろうと思って、ルダは彼に状況説明を求めた。
「そうですね。私だってそう思うんですよ。
私なんて、そんなに大した武器を作れるわけじゃないのに…」
工房に向って森の中を歩きながら。
現在の戦況について、分かっていることを聞く。
やはり里に住んでいるだけあって罠の位置を把握しているのか、セインの案内にしたがって進む道にはほとんど罠がなかった。
「工房に近いところまで行ってから森を出ましょう。……雨が少しでも止んでるといいんですけどねぇ〜」
まだ森の木々を叩く雨の音は激しい。
雨宿りをしにきたのか、小動物たちが森のあちこちに見られた。
ふと3人の視界の端を。
青いものが過ぎった。
ったく、あんなに仕掛けなくたって良いじゃんかよー」
森の中で。
ぶつぶつと呟く声が聞こえた。
青緑色の短い髪の先が、さらさらと風に揺れる。
忍びの里に程なく近い森の中。
本来なら外界からの侵入者を阻むため、罠が大量に仕掛けてある場所だ。
しかし里の中での戦という特殊な状況から、それは通常時の半分以下に抑えられていた。
癒しの光がぽうっと一瞬だけ、暗い森の中にともる。
黒橙の中華風道着に身を包んだ人影がその光にぼんやりと照らし出された。
全体的に黒系統でまとめられた服装。
腰の微妙なくびれ具合と体のラインが、女性であることをそれとなく示している。
だが、その口調や行動はさばけていて、服装によっては男にも見られるだろうと思えた。
彼女の名前はルダ。
『知り合いを守る為に』この里に来た。
彼女の知り合いたちがこの里の戦に参戦している。
知っている人たちが悲しい目に合うのは嫌で、彼女もまた参戦を決めた。
だからこそあくまで、戦うことが目的ではなかった。
なんならセインを逃がしてもいいと思う。
組織の中にあるというのは大変なことで、それについては同情していたから。
彼女の通ってきた道には、いくつか作動した罠が見えた。
致死性のある罠は少ないが、それでも普通の場所に比べれば格段に罠の数は多い。
特に外界から里へと向う道筋には、注意して避けなければ危険なものも多く含まれていた。
どうやら、そのうちの一つに引っかかり少し足を怪我したらしい。
ヒーリングで癒したその部分を、あやすようにさすっている。
「仕掛けたヤツは性格わるそうだなー」
ルダはむくれながら、ぶつぶつと続けた。
森の木々が強い雨風にざわめいている。
だが大きく張り出し重なり合った木々のおかげで、雨に濡れないのが幸いといえた。
「誰か…いる?複数かな?」
ふとルダはどこかから聞こえてくる、ぼそぼそとした声に耳を止めた。
生い茂った緑が視界を遮っていて、近さすら分からない。
ただ、男と女の声のようだと思った。
内容は今ひとつ、よく聞き取れなかった。
「よっと……大分遅れたからな。知り合いだといーんだけど」
ひょいと立ち上がり、緑の向こう側に目を凝らす。
聞いた話では、セインが戦を始めてからもうすぐ3週間が経つという。
こんな小さな里の戦で、そこまで決着が長引くのは少し意外だったが、知り合いを守るのに間に合ったと思えばまあ、別に特には気にならなかった。
罠に気をつけながら、声のしている方へと森の中を進む。
足元で下生えがかすかに擦れた音を立てた。
「……巻き込み…くなん…なかった…に……」
「…セインは……1人…ゃおわしま……」
「…あんたは…じゃないん…ら……」
途切れ途切れに声が聞こえてくる。
どうやらセインと誰かのようだ。
工房までの道すじが分からなかったルダは、ちょうど良かったと思いゆっくりと歩を進めた。
緑の景色が急にひらけて―――。
自然のものではない色彩が飛び込んでくる。
そこに居たのはセインとくうぱあ、レーヴェ、シャルロットの4人だった。
「よ……」
「じゃあ、私は空から久遠さんを探してみるわ」
声をかけようとしたとき、そちらの側に動きがあった。
まず、シャルロットがそう言ってそこを離れていく。
くうぱあも、立っているセインとレーヴェを見つめた。
「私も、久遠さんを探す続きをしたいのですがー……レーヴェさんと2人でも大丈夫ですか?」
どうやら久遠が行方不明らしい。
「……レーヴェさんを危険な目には合わせられませんよ。もしもそんなことになったら、リヒトさんに殺されますからね」
セインがそうわずかに微笑みながら答える。
「…ぁぅ……」
レーヴェが何も言えないというように、恥ずかしそうに俯いた。
セインってよく地雷踏むよなーとルダは苦笑した。
自覚はあるのかないのか、セインは思っていることをよく口にしすぎてしまうきらいがある。
まあ、それが一概に悪いとは言えないが。
「えーと、私も一緒に行くけど…いいか? セイン、レーヴェ」
ルダはがさがさと草をかき分けて、その場に出た。
「師匠…?!」
セインが驚いた顔をする。
何故か彼はルダのことを師匠と呼ぶのだ。
その理由は本人にもよく分からないようだったが、まあ実害はないので特に拒否はしてない。
「あ、ルダさんがいるんなら安心ですねー。じゃ、お気をつけてー」
「おー、そっちも気をつけてなー」
笑いながら離れていくくうぱあに、軽く手を振るとルダはセインとレーヴェに向き直った。
じーっと何か言いたげな視線を注いでくるセインに、首を傾げる。
「何かあった? セイン」
疑問を投げかければ、セインはあわてて首を左右に振った。
「いいえ…何でもないです」
その瞳は全然、何でもなくはないように見えた。
だが、セインが何もないという以上、どうと言うことも出来ない。
「そうかー? ま、いいけど」
それでも先ほど漏れ聞こえた会話から、ルダにもセインに言っておきたいことがあった。
それは―――。
「あとなー、巻き込まれてるのは強制的に、でしょ?
大体こんな場所の戦争を強制的に外部が巻き込まれるなんてありえないし。勝つつもりでいるならなんでも利用しなきゃ勝てないよー」
言いながらにやりと笑う。
セインがハッと顔を上げた。
「……聞いていたのですか?」
「聞こえたよー。何か怒られてたみたいだけど……あれ?」
自分の前にいるセインにふと、違和感を覚える。
「…何かおかしくないか?」
普段なら見上げる位置にあったセインの瞳が、何故か近いと思った。
怪訝に思って、傍らで呆然としていたレーヴェを呼ぶ。
「なあ、レーヴェ。ちょっと背比べてみてくんない?」
ルダの身長が157cm。
確かセインとは15、6cmは違ったはずだ。
「ぁ…はいー」
少し離れた位置から、背伸びをしながらレーヴェが身長を見る。
「? ルダはん、すこぉし背ぇ伸びられましたんどすか?」
「いや? 私はそんなに変わってないはずだよ」
「そやったら……」
レーヴェの反応で、何となく違和感の正体が分かった。
セインの背が縮んでいる。
それもおそらく10cmぐらいは……。
「セインはんが縮んではる……?」
「マスターの子供化みたいだなー。元に戻るのか? セイン」
そういう話を聞くのは初めてではなかったからか、そんなには驚かなかった。
「……?」
自覚はなかったのか、セインが不思議そうに首を傾げる。
「だからセインの背が縮んでるんだって。別に他には異常なし?」
「私の背が…縮んでるのですか……?」
「気づかないって事は、特に他には影響がなかったんだなー。
まー、なんとかなるよ。マスターは元に戻れるんだしさ」
楽天的に言うと、セインの顔に小さく苦笑が浮かんだ。
そういう顔の方が、らしいと思う。
最近、どうもくよくよしてたみたいだったし。
「…で、なんでこの里の頭(頭)はセイン狙ってんだっけ?鍛冶できるからだったっけ?
別にセインじゃなくてもいーだろーに」
とりあえず分からないことが多すぎる。
セインに聞くのが一番早いだろうと思って、ルダは彼に状況説明を求めた。
「そうですね。私だってそう思うんですよ。
私なんて、そんなに大した武器を作れるわけじゃないのに…」
工房に向って森の中を歩きながら。
現在の戦況について、分かっていることを聞く。
やはり里に住んでいるだけあって罠の位置を把握しているのか、セインの案内にしたがって進む道にはほとんど罠がなかった。
「工房に近いところまで行ってから森を出ましょう。……雨が少しでも止んでるといいんですけどねぇ〜」
まだ森の木々を叩く雨の音は激しい。
雨宿りをしにきたのか、小動物たちが森のあちこちに見られた。
ふと3人の視界の端を。
青いものが過ぎった。
PR