ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
カテゴリー
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
長は時を告げる9つめの鐘を、いささか苦い思いで聞いていた。
本来なら鳴らぬはずの暁9つ。
「誰の入れ知恵だ…?」
まだアレをあの場で発現させるわけにはいかなかったから、こちらに分の良い戦闘を切り上げ屋敷へと戻ったのだが。
「時の鐘を撞く老人は、従順であるだけが能であるような男だ。このような真似が出来るはずがない」
暁8つ。またの名を丑三つ時。
禁呪の封がほどける刻だ。
いつも鐘が鳴るのはその時刻だったから、てっきりそれだと思った。
それが……。
「……まあ良い。時が稼げたと思えば腹も立たぬものだ」
屋敷の地下にある自室で、長は独りごちた。
そこへ。
1人の少女が現れた。
「私は大陸を統一しようということに反対するのではないんです。方法に対して意見を言いたいわけでして…」
感情的になりそうなところを抑えた、丁寧でよく通る少女の声が響き渡った。
「建国の思想により統一を図るという方法をおすすめしたいんですよ」
「統一だと…」
ふんと笑う声。
「忍びがこの世を支配する事とは、統一と等しくはない」
「……意味がよく分かりませんが」
少女の横にいる水色の髪をしたひょろりとした青年が、不思議そうに首をひねる。
「世を支配するという事は統一するという事でしょう?」
「忍びの本質は闇に紛れ、暗躍することと覚えよ。
隣の者をも信じられぬ世界。弱い者が負け、強い者が生き残る…しかしそれとて絶対ではない」
青年の疑問に、謎かけのような言葉が返った。
地中深くに埋もれただだっ広い部屋。
天井も無意味なほどに高く、部屋の半分以上は明かりが照らしきれず闇へと沈んでいた。
その部屋の真ん中に、青磁色の目をした男―――この里の長セトと、久遠を空から探しに行ったはずのシャルロット、そして水色の髪に碧の瞳の半機械人メルスがいた。
「弱肉強食ですか…」
穏やかな表情で繰り返すメルスの、その目は決して笑ってはいなかった。
「制圧者によくある考え方ですね」
メルスの理想は、強者弱者関係無く皆がのんびりまったり暮らせる世界だ。
この戦の話を聞いてセインの側に味方することを選んだのも、一つは里長の考えが気に食わなかったから。
「誰かの庇護の下に安心しきって馴れ合うのを良しとするか?」
セトは静かに笑みを浮かべ、言葉のやり取りを楽しむかのようにメルスを見た。
「上辺だけの平和など何の意味もない。人の本質は所詮『魔』だとは思わぬか? 混沌を望んでおるやもしれんぞ」
「……」
メルスは対峙する相手を見返す。
理屈をこねて相手を煙に巻こうとしているのか、はたまたそう本当に思っているのか。
余裕に満ちたセトの表情からは窺えなかった。
だが…これはただの相手ではない。
メルスはそう直感する。
「…今までと同じやり方で、より良いものが出来ると思ってんの?甘いわよ!」
黙っていたシャルロットがセトを睨んだ。
「いい!?国があって人がいるんじゃなくて、人がいるから国があるの!人を考えない「国」なんて、国じゃないわ!」
礼儀正しかった声が次第に叩きつけるような口調に変わっていく。
薄い空色の瞳に明らかな怒りの色があった。
「人の本質が『魔』だからってなんだって言うの?!
人間が全部いいものばかりだなんて思わないわ。
でもそれでもみんな…必死に生きてるのよ!」
「…それ、同感ですねぇ。人の存在意義が何であるかなんて、あなたに決め付けられるものではないと思いますが……」
シャルロットとは対照的に、メルスの声は落ち着いていた。
そんな彼らを面白げに見やりながら、セトは再び口を開く。
「もし決めてみたらどうなる?」
「…えっ?」
「それだけが理由ではないが、この里に居る忍びたちはすべて私によって生かされている」
屋敷に仕掛けられていた罠の一つにかかり、地下へと投げ出されたジキルとくうぱあはちょうどその言葉を聞いていた。
「……どういうことだよ…」
ぼそりとつぶやくくうぱあの横で、ジキルが考え込むように視線をずらす。
ジキルが初めに違和感を覚えたのは、桔梗に言われた言葉だった。
『私はセト様のお力がなければ、存在もできぬ人形……。この里の忍びは皆……あの日に』
思い当たる事があった。
もしそれがセトの力なのだとすると…もしかするとジキルが求めてやまなかったそれなのかもしれないと思う。
そう、それがもしも……。
「死者を復活させる事が出来る力なら……」
思わず漏れた言葉に、くうぱあがぎょっとしたように振り返った。
「おいおい…それって……」
「またネズミが忍び込んだか」
低い笑いとともにセトの声がくうぱあたちに向けられる。
「……今、言っていた事、詳しく聞かせていただけますか…?」
ジキルには今、ここで戦闘や説得をするつもりはなかった。
ただ確かめたかっただけだ。
桔梗の言葉の意味。里長の能力。
明かりの下へゆっくりと出ていくジキルを、くうぱあが怪訝そうに見つめる。
「そうですね。私もお聞きしたいですよ」
メルスの言葉は純粋な知的好奇心から出たものか。
「ふむ。だが、そんなに難しい事ではない」
セトは頭上を見上げ、小さく眉をひそめた。
この部屋は防音防備に優れている。
そういう風に作った。
だが上で微かに漏れ聞こえる爆発音のようなものは…?
「この里の忍びは一度、死んでいる。私が殺したのだ」
本来なら鳴らぬはずの暁9つ。
「誰の入れ知恵だ…?」
まだアレをあの場で発現させるわけにはいかなかったから、こちらに分の良い戦闘を切り上げ屋敷へと戻ったのだが。
「時の鐘を撞く老人は、従順であるだけが能であるような男だ。このような真似が出来るはずがない」
暁8つ。またの名を丑三つ時。
禁呪の封がほどける刻だ。
いつも鐘が鳴るのはその時刻だったから、てっきりそれだと思った。
それが……。
「……まあ良い。時が稼げたと思えば腹も立たぬものだ」
屋敷の地下にある自室で、長は独りごちた。
そこへ。
1人の少女が現れた。
「私は大陸を統一しようということに反対するのではないんです。方法に対して意見を言いたいわけでして…」
感情的になりそうなところを抑えた、丁寧でよく通る少女の声が響き渡った。
「建国の思想により統一を図るという方法をおすすめしたいんですよ」
「統一だと…」
ふんと笑う声。
「忍びがこの世を支配する事とは、統一と等しくはない」
「……意味がよく分かりませんが」
少女の横にいる水色の髪をしたひょろりとした青年が、不思議そうに首をひねる。
「世を支配するという事は統一するという事でしょう?」
「忍びの本質は闇に紛れ、暗躍することと覚えよ。
隣の者をも信じられぬ世界。弱い者が負け、強い者が生き残る…しかしそれとて絶対ではない」
青年の疑問に、謎かけのような言葉が返った。
地中深くに埋もれただだっ広い部屋。
天井も無意味なほどに高く、部屋の半分以上は明かりが照らしきれず闇へと沈んでいた。
その部屋の真ん中に、青磁色の目をした男―――この里の長セトと、久遠を空から探しに行ったはずのシャルロット、そして水色の髪に碧の瞳の半機械人メルスがいた。
「弱肉強食ですか…」
穏やかな表情で繰り返すメルスの、その目は決して笑ってはいなかった。
「制圧者によくある考え方ですね」
メルスの理想は、強者弱者関係無く皆がのんびりまったり暮らせる世界だ。
この戦の話を聞いてセインの側に味方することを選んだのも、一つは里長の考えが気に食わなかったから。
「誰かの庇護の下に安心しきって馴れ合うのを良しとするか?」
セトは静かに笑みを浮かべ、言葉のやり取りを楽しむかのようにメルスを見た。
「上辺だけの平和など何の意味もない。人の本質は所詮『魔』だとは思わぬか? 混沌を望んでおるやもしれんぞ」
「……」
メルスは対峙する相手を見返す。
理屈をこねて相手を煙に巻こうとしているのか、はたまたそう本当に思っているのか。
余裕に満ちたセトの表情からは窺えなかった。
だが…これはただの相手ではない。
メルスはそう直感する。
「…今までと同じやり方で、より良いものが出来ると思ってんの?甘いわよ!」
黙っていたシャルロットがセトを睨んだ。
「いい!?国があって人がいるんじゃなくて、人がいるから国があるの!人を考えない「国」なんて、国じゃないわ!」
礼儀正しかった声が次第に叩きつけるような口調に変わっていく。
薄い空色の瞳に明らかな怒りの色があった。
「人の本質が『魔』だからってなんだって言うの?!
人間が全部いいものばかりだなんて思わないわ。
でもそれでもみんな…必死に生きてるのよ!」
「…それ、同感ですねぇ。人の存在意義が何であるかなんて、あなたに決め付けられるものではないと思いますが……」
シャルロットとは対照的に、メルスの声は落ち着いていた。
そんな彼らを面白げに見やりながら、セトは再び口を開く。
「もし決めてみたらどうなる?」
「…えっ?」
「それだけが理由ではないが、この里に居る忍びたちはすべて私によって生かされている」
屋敷に仕掛けられていた罠の一つにかかり、地下へと投げ出されたジキルとくうぱあはちょうどその言葉を聞いていた。
「……どういうことだよ…」
ぼそりとつぶやくくうぱあの横で、ジキルが考え込むように視線をずらす。
ジキルが初めに違和感を覚えたのは、桔梗に言われた言葉だった。
『私はセト様のお力がなければ、存在もできぬ人形……。この里の忍びは皆……あの日に』
思い当たる事があった。
もしそれがセトの力なのだとすると…もしかするとジキルが求めてやまなかったそれなのかもしれないと思う。
そう、それがもしも……。
「死者を復活させる事が出来る力なら……」
思わず漏れた言葉に、くうぱあがぎょっとしたように振り返った。
「おいおい…それって……」
「またネズミが忍び込んだか」
低い笑いとともにセトの声がくうぱあたちに向けられる。
「……今、言っていた事、詳しく聞かせていただけますか…?」
ジキルには今、ここで戦闘や説得をするつもりはなかった。
ただ確かめたかっただけだ。
桔梗の言葉の意味。里長の能力。
明かりの下へゆっくりと出ていくジキルを、くうぱあが怪訝そうに見つめる。
「そうですね。私もお聞きしたいですよ」
メルスの言葉は純粋な知的好奇心から出たものか。
「ふむ。だが、そんなに難しい事ではない」
セトは頭上を見上げ、小さく眉をひそめた。
この部屋は防音防備に優れている。
そういう風に作った。
だが上で微かに漏れ聞こえる爆発音のようなものは…?
「この里の忍びは一度、死んでいる。私が殺したのだ」
PR