ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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「何だ? くのいち……?」
ルダが不思議そうな顔で近づいてきた。
「桔梗はんを…殺したんどすか……?」
レーヴェの瞳が哀しそうな色を湛える。
ほとんどの者において、桔梗と直接言葉を交わしたことが多いわけではない。
せいぜいセインの工房に来たときに一言二言挨拶を交わしたぐらいだ。
しかし赤い着物のくのいちは印象的で。
出来れば幸せになって欲しいと彼女を知る誰もがそう思っていた。
「殺したっていうか……」
困惑した顔でジェラールが首をひねる。
「……死んでるのか…? 桔梗さん……?」
何が起こったのか分からなかった。
里長が何かの呪文を唱え終わった瞬間に、その体が崩れ落ち…今に至るのだから。
「………」
その側に座り込んだセインが、困惑した顔でこくんと頷く。
「里長が何かしたんでしょうか…?」
セインにも分からないようだった。
その時。
がさ…と下生えを踏みしめる音が響く。
「……!」
弾かれるように、その場に居た人間は顔を上げた。
何で里長が突然去ったのか分からない。
理由が分からない以上、突然戻ってくる可能性も考えないわけにはいかなかった。
「誰だ!」
誰何の声に両手を上げながら、木々の向こうからもう結構いい年の男が姿を現す。
「あなたは……」
セインが少しだけホッとしたように息を吐いた。
「罠の点検ですか?」
「………」
セインの問いには答えずに、男はぐるりと周囲を見回す。
その目が倒れ伏した桔梗の上で止まった。
「……ようやく解放されましたか…」
片手を拝むように掲げ、小さく念仏を唱える。
その目にふっと諦念の色が浮かんだ。
口の中で何事か呟く。
そして男は警戒するような表情を見せている面々に向き直った。
「……お初にお目にかかります…。私はこの里の罠のほとんどを手がけている職人です」
「ああ、なるほど……」
そう言われてみれば、セインの言葉の意味も分かる。
「罠師さんどすか〜」
「あの性格わっるい罠を仕掛けた…あ、ごめん」
レーヴェとルダがそれぞれの反応を見せる中、ジェイクがふらふらと立ち上がり男に近づく。
「で?」
「………」
「解放されたって何だよ?あんた、何か知ってんのか」
ジェイクには、桔梗がこういうことになったのは自分のせいだというような思いがあった。
間違った事をしたという思いはないが…どういう形ではあれ、桔梗にセインのことを請け負ったのは自分で。
またその結果として庇われる形になってしまったのも事実だ。
罠師は答えずに、桔梗の側に屈みこむ。
桔梗のその赤い着物のあわせめから落ちかけていた髪飾りを、そっと抜き取った。
それをじっと見つめ、小さく嘆息する。
「桔梗さんは…いえ、この里の忍びたちは……みな、生きていて生きていない状態でした。あの日から……」
髪飾りを手持ち無沙汰に手の内でもてあそびながら、罠師は言葉を続けた。
「里長は……セト様は旅に出ていくつかの禁呪を身につけられたようで。これもその一つです」
「…禁呪…ですか……」
「私はちょうど外に出ていた時でしたので詳しくは存じませんが……セト様はこの里に居た忍びをすべて一旦殺し、どういう方法でか蘇らせたそうです…」
少し苦い顔。
罠師は、桔梗の傍らに座りこんで驚いた様子でこちらを見ているセインの顔を覗き込む。
「…もちろん、桔梗さんもそうです。ほとんどの忍びたちは物言わぬ里長の人形となりましたが……、思いの強かった人間だけが生前の思いを引きずっていた。私にはそう見えました……」
「人形……」
ジェイクがぼそりと呟きを漏らした。
1度めに対面した時、里長が言っていた。
桔梗のことを操り人形だと。
「つまり、そういうことか……」
『たとえば……もし、それを行なえば自分の存在がなくなるかもしれないと言えば……』
桔梗にいつか言われた言葉がふと蘇る
それならば頷ける。
桔梗が長に歯向かう事を躊躇った理由も。
「そうなった時、一時は桔梗さんは死を覚悟されていました。それを躊躇うようになったのは……」
罠師は静かにセインに視線を注ぎ続けていた。
セインが困惑したように眉を寄せる。
「何ですか……?」
「………」
罠師は沈黙した。
桔梗はたぶんセインが好きだった。
ほぼ間違いない。
そしてセインはそれに気づいていない。
その場に居た者たちは皆、それに近い予想をしていた。
「桔梗は一体何を……?」
「……それは。私の口から言う事ではありません。
そもそも私はこれを取りに来たのです」
困ったように首を傾げるセインから、罠師は持っていた髪飾りへと目を移した。
花を模ったいささか大きめの赤い髪飾り。
それは罠師が桔梗に頼まれて作ったものだ。
「これは起爆装置になっています。桔梗さんがどこに仕掛けたのかは私には予想する事しか出来ませんが…彼女が解放された今がスイッチを入れるときでしょう」
罠師は空を見上げた。
本来なら8つの鐘がなる時間。
里がアレに怯え、沈黙する時間はもうすぐだ。
今夜はある策によってなるはずの無い暁9つの鐘が鳴ったため、もう8つを告げる鐘は鳴らないだろうが……。
「里長が……アレがどう出るのかは分かりませんが、ご武運をお祈りしております。出来ればこの里が存続する道を探したかったのですが……」
その先は言葉にはせずに、罠師は髪飾りを地面に叩きつけて壊した。
ドォンッ!
里のどこかで大きな爆発音が響く。
続いていくつも。
あわてて森を抜けたセインたちの視界の果てに。
黒煙をあげ、炎に包まれていく里長の屋敷があった。
そして崩れ落ちていくその屋敷から飛び立つ大きな影。
翼と尻尾を持った巨体は、話に聞いた大陸の伝説を思い出した。
倒された深紅の竜アズキール。
夜目にその色は窺えなかったが、形はそれと酷似しているように感じられた。
「…いよいよ…決着か…」
誰ともなしに呟いたその言葉が。
更けていく夜の中に消えていった。
ルダが不思議そうな顔で近づいてきた。
「桔梗はんを…殺したんどすか……?」
レーヴェの瞳が哀しそうな色を湛える。
ほとんどの者において、桔梗と直接言葉を交わしたことが多いわけではない。
せいぜいセインの工房に来たときに一言二言挨拶を交わしたぐらいだ。
しかし赤い着物のくのいちは印象的で。
出来れば幸せになって欲しいと彼女を知る誰もがそう思っていた。
「殺したっていうか……」
困惑した顔でジェラールが首をひねる。
「……死んでるのか…? 桔梗さん……?」
何が起こったのか分からなかった。
里長が何かの呪文を唱え終わった瞬間に、その体が崩れ落ち…今に至るのだから。
「………」
その側に座り込んだセインが、困惑した顔でこくんと頷く。
「里長が何かしたんでしょうか…?」
セインにも分からないようだった。
その時。
がさ…と下生えを踏みしめる音が響く。
「……!」
弾かれるように、その場に居た人間は顔を上げた。
何で里長が突然去ったのか分からない。
理由が分からない以上、突然戻ってくる可能性も考えないわけにはいかなかった。
「誰だ!」
誰何の声に両手を上げながら、木々の向こうからもう結構いい年の男が姿を現す。
「あなたは……」
セインが少しだけホッとしたように息を吐いた。
「罠の点検ですか?」
「………」
セインの問いには答えずに、男はぐるりと周囲を見回す。
その目が倒れ伏した桔梗の上で止まった。
「……ようやく解放されましたか…」
片手を拝むように掲げ、小さく念仏を唱える。
その目にふっと諦念の色が浮かんだ。
口の中で何事か呟く。
そして男は警戒するような表情を見せている面々に向き直った。
「……お初にお目にかかります…。私はこの里の罠のほとんどを手がけている職人です」
「ああ、なるほど……」
そう言われてみれば、セインの言葉の意味も分かる。
「罠師さんどすか〜」
「あの性格わっるい罠を仕掛けた…あ、ごめん」
レーヴェとルダがそれぞれの反応を見せる中、ジェイクがふらふらと立ち上がり男に近づく。
「で?」
「………」
「解放されたって何だよ?あんた、何か知ってんのか」
ジェイクには、桔梗がこういうことになったのは自分のせいだというような思いがあった。
間違った事をしたという思いはないが…どういう形ではあれ、桔梗にセインのことを請け負ったのは自分で。
またその結果として庇われる形になってしまったのも事実だ。
罠師は答えずに、桔梗の側に屈みこむ。
桔梗のその赤い着物のあわせめから落ちかけていた髪飾りを、そっと抜き取った。
それをじっと見つめ、小さく嘆息する。
「桔梗さんは…いえ、この里の忍びたちは……みな、生きていて生きていない状態でした。あの日から……」
髪飾りを手持ち無沙汰に手の内でもてあそびながら、罠師は言葉を続けた。
「里長は……セト様は旅に出ていくつかの禁呪を身につけられたようで。これもその一つです」
「…禁呪…ですか……」
「私はちょうど外に出ていた時でしたので詳しくは存じませんが……セト様はこの里に居た忍びをすべて一旦殺し、どういう方法でか蘇らせたそうです…」
少し苦い顔。
罠師は、桔梗の傍らに座りこんで驚いた様子でこちらを見ているセインの顔を覗き込む。
「…もちろん、桔梗さんもそうです。ほとんどの忍びたちは物言わぬ里長の人形となりましたが……、思いの強かった人間だけが生前の思いを引きずっていた。私にはそう見えました……」
「人形……」
ジェイクがぼそりと呟きを漏らした。
1度めに対面した時、里長が言っていた。
桔梗のことを操り人形だと。
「つまり、そういうことか……」
『たとえば……もし、それを行なえば自分の存在がなくなるかもしれないと言えば……』
桔梗にいつか言われた言葉がふと蘇る
それならば頷ける。
桔梗が長に歯向かう事を躊躇った理由も。
「そうなった時、一時は桔梗さんは死を覚悟されていました。それを躊躇うようになったのは……」
罠師は静かにセインに視線を注ぎ続けていた。
セインが困惑したように眉を寄せる。
「何ですか……?」
「………」
罠師は沈黙した。
桔梗はたぶんセインが好きだった。
ほぼ間違いない。
そしてセインはそれに気づいていない。
その場に居た者たちは皆、それに近い予想をしていた。
「桔梗は一体何を……?」
「……それは。私の口から言う事ではありません。
そもそも私はこれを取りに来たのです」
困ったように首を傾げるセインから、罠師は持っていた髪飾りへと目を移した。
花を模ったいささか大きめの赤い髪飾り。
それは罠師が桔梗に頼まれて作ったものだ。
「これは起爆装置になっています。桔梗さんがどこに仕掛けたのかは私には予想する事しか出来ませんが…彼女が解放された今がスイッチを入れるときでしょう」
罠師は空を見上げた。
本来なら8つの鐘がなる時間。
里がアレに怯え、沈黙する時間はもうすぐだ。
今夜はある策によってなるはずの無い暁9つの鐘が鳴ったため、もう8つを告げる鐘は鳴らないだろうが……。
「里長が……アレがどう出るのかは分かりませんが、ご武運をお祈りしております。出来ればこの里が存続する道を探したかったのですが……」
その先は言葉にはせずに、罠師は髪飾りを地面に叩きつけて壊した。
ドォンッ!
里のどこかで大きな爆発音が響く。
続いていくつも。
あわてて森を抜けたセインたちの視界の果てに。
黒煙をあげ、炎に包まれていく里長の屋敷があった。
そして崩れ落ちていくその屋敷から飛び立つ大きな影。
翼と尻尾を持った巨体は、話に聞いた大陸の伝説を思い出した。
倒された深紅の竜アズキール。
夜目にその色は窺えなかったが、形はそれと酷似しているように感じられた。
「…いよいよ…決着か…」
誰ともなしに呟いたその言葉が。
更けていく夜の中に消えていった。
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