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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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「おかしゅうおすなぁ…確か、こっちの方やったと思ったんどすけど…」
黒髪の女性が里の中を歩いていた。
困ったようにきゅっと眉を寄せ、きょろきょろと辺りを見回す。
目に入るところには、人っ子一人見当たらない。
先程まで降っていた霧雨に、彼女の髪はしっとりと濡れていた。
碧瞳が困ったように瞬く。
「何回か来たことがある場所や言いましても…地図、
持って来るべきどしたなぁ…」
里で目印になるような建物といえば、ひとまわりもふたまわりも大きな長の屋敷だけ。
いくら長の説得をしてみようと思っていても、いきなりそっちを訪ねるのは躊躇われた。
「ぇと、セインはんの工房はこっちの方やった気ぃが…」
あやふやな記憶を頼りに、立ち止まっては歩き出す。
それはまったくの反対方向だった。


白い体長17mにもなろうかという大蛇が空を飛んでいた。
天使の様な羽根にもかかわらず、その速度はかなり速い。
「もうっ。本当に大したものがないのね」
その背中に跨って、ロッテは呟いた。
眼下に広がる風景は、大して変わり映えのない和風の庵ばかり。
セインの姿を探すどころか、目を引くものもない。
すぐに里の端である森の上までたどり着いてしまった。
「ちょっとつまらないけど、少し速度を落とそうかしら…?」
そうひとりごちた時……、シャルロットの視線の先を見慣れた人影がよぎる。
黒髪に露出度の高めな衣装。
遠めに見ても女性らしい女性だ。
「…あら、レーヴェさん?こんなところで何してるのかしら?」
くうぱあの話では、セインの側に集まったという人の中に彼女の名前は出てこなかった。
だが多分。
「敵じゃないと思うわ」
何の根拠もない勘だったが、何故かそれは間違っていないと思った。
「ケーちゃん、ちょっと下に降りて」
白い大蛇に声をかけ、高度を落としていく。
引き返すでもなく、森の中に踏み込もうとしているレーヴェに向かってシャルロットは空から声をかけた。
「レーヴェさ〜ん、セインさん見なかった〜?」
「…ロッテはん?」
きゅっと唇を噛み、途方にくれた顔をしていたレーヴェの顔がほっとする。
「お会いできてよかったどすぇ。ウチ、迷子になってしもたんどす」
「え、そうなの? レーヴェさん、いったいどこに行こうとしてたのよ?」
何の迷いもなく森の中へ入っていこうとしていたから、そっちに何か目的でもあるのかと思っていた。
「……セインはんの工房へ行こうと思うてたんやけど…」
レーヴェが少し恥ずかしそうに言う。
「なんか迷うてしもたみたいで…」
「あ、確かにここって同じような建物ばかりで分かりにくいわよね。屋根の色だって赤とか青とかないし、何だか同じ場所をぐるぐる回ってる気がしてこない?」
「そうどすやろっ?! ウチもそう思うてましたぇ!」
意気投合する2人。
そのすぐ側の森の中で、がさっと自然のものではない音がした。
「な、なに…?」
「…な、何かおりますぇ……」
獣ではないような気がした。
何かもっと悲しい気配……。
レーヴェは放っておいてはいけない様な気がして、覚悟を決めてそちらに近づいていった。
木々の隙間に見え隠れするのは、見覚えのある青銀色の髪―――。
「セインはん……?」
おそるおそる呼びかけると、うずくまっていた人影がビクリと震える。
返事はなかった。
「セインはんとちゃいますのんか…?」
意を決してもう一度呼びかける。
「えっ? セインさんがそこに居るのっ?」
それを聞きつけたのか、シャルロットも森の中に踏み込んできた。
それでも彼は頑ななまでに顔を上げようとはしなかった。
「…どこか具合でも悪いんどすか……?」
レーヴェはその側にかがみこむ。
やっぱりどこからどう見ても、それはセインに間違いはないようだった。
丸まった背中に触れようとすると、その体がビクッと緊張する。
「セインはん、何か言うておくれやす…」
レーヴェは困ってしまって、指先を引っ込めた。
何が起こっているのか分からない。
こんなセインの姿を見るのも初めてだった。


風が枝を大きく揺らす。
軋む音は怖いくらいに近い。
心なしかその中でうずくまるセインの体は一回り小さく見えた。

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