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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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「あ、エミフィルナさん」
リュウがその少女を見てにこにこと笑った。
「…あら、リュウさん。こんなところで何をしていらっしゃるの?」
エミフィルナと呼ばれた少女はにっこりと微笑み返す。
実は同じ年頃だったりするのだが、片方は年相応に幼くもう片方はどこか優雅な雰囲気を漂わせている。
「だいぶ濡れていらっしゃるわね。冷たくないですか?」
「あ、大丈夫ですー。雨って慣れると気持ちいいですよー」

そんなやり取りを、少し離れたところで桔梗が眉を寄せて聞いていた。
この里に生まれた者は、半分以上の確率で忍びとなる。
特に長に連なるものとして生を受けた桔梗は、生まれた時から忍びとなることを決定付けられていた。
小さい頃からその修行に明け暮れ、少女としての時代をそれに費やしてきた彼女は、こういう少女達のさざめきとは縁がなかった。

「リュウさん……、それ……」
エミフィルナがリュウの手に持ったものを見て、きゅっと眉を寄せる。
「あっ!」
慌ててリュウは糸を後ろ手に隠した。
碧色の瞳に迫力に似たものを浮かべ、エミフィルナが微笑を刻む。
「今のってもしかして……」
「く、蜘蛛さんの糸とかじゃないですよ! あっ……」
しまったというように、リュウが黙り込んだ。
以前、蜘蛛の話をしたとき、魔法連射しようとしたエミフィルナだ。
『ああ、女性の方は苦手な人が多いかもしれませんね』
一緒に育ってきた兄弟のような存在の蜘蛛を見せた時、セインが言っていた言葉をリュウは思い出した。
(セインさん〜、やばいです〜・泣)
蜘蛛を潰されるのもイヤだが、魔法を乱射されるのももっとイヤだ。
「えっと…あ、そうでした! エミフィルナさんはあの忍びさんをご存知ですか?」
リュウは助けを求めるように視線をさ迷わせ…、その視線が離れて立っている桔梗の上で止まる。
「………」
胡乱げな瞳を、エミフィルナはそちらへと向けた。
その顔がはっと引き締まる。
「桔梗さん……?」
直接話したことはないが、噂は聞いていた。
女の勘で、ぜったい彼女はセインのことが好きだと思う。
(桔梗さんとセインさんには幸せになって欲しいですわ)
エミフィルナがこの里に来た理由のひとつはそれだった。
セインの側に付くとか長の側に付くとか、そういうことはまだ決められなかった。
セインのことは手助けしたいとは思う。
だが、戦で想い合っている男女が離れてしまうなんて哀しすぎる。
説得できるなら、どうにかしたかった。
「あの…っ、少しお話がしたいですわ」
エミフィルナの言葉が聞こえていないかのように、桔梗が静かに身を翻す。
雨で煙る景色の中に、赤い色が馴染み、小さくなって……やがて見えなくなった。

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