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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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<セティ編>
死に向かう自分をセティは冷静に見つめていた。
セインを庇って倒れるなら本望だ。
信念に従って行動しその上で必要とあれば、命を捨てることも厭うつもりはなかった。
自分のことを一人の人間として接してくれたセイン。
ここへはセインの力になりに来た。
セインが望む未来を手に入れるために。
「………」
一面が白い光に覆われた瞬間、セティにはまだ意識があった。
ふと魔法の波動が自分の体をとらえたような、そんな浮遊感に襲われる。
そして微かな眩暈と力が注ぎ込まれるような不思議な感覚。
「これは一体……?」
思わず呟いたその声が実際に音になっていたかどうかは、セティには分からなかった。
浮遊感が強くなる。
白い光はまぶしすぎて、目を開けてはいられないぐらいだ。
そして。
周囲の情報を構成する何かが音を立てて崩れ去るような、そんな感覚があって、その後一切の感覚がひととき、すべて閉ざされた。

過去よりは今を。そして、今よりは…未来を。
どんなに願っても、過去へ足を踏み出す事はできないんです。
取り出せない物は思い出の奥にしまって、先へ…できるだけ先へ、手を伸ばして下さい。
たまに後ろを振り返るのが悪い事だとは言いません。が、その場所に捕われないで下さい…
誰もが…そうやって進まなくてはいけないのですから…

セインへと言ってあげたかった言葉。
その過去を詳しく知っているわけではないが…それでも。
未来を見て進んでほしい。
そう願っている―――。


その場から光が引き、夜の静寂が戻った時、そこにセティの姿はなかった。

<マスター編>
マスターは戦が終わった後、最後の戦いがあった大地を見ていた。
いろいろな力が暴走して、一面が白い光に包まれた時。
誰もが何も出来ぬその中で、彼は一つだけ魔術を使う機会に恵まれた。
ちょうど光が落ちる前、セインを庇ったセティが倒れるのを目にしていた事もある。
誰も死なせずに終わる事は出来そうにはなかったが、それでも誰も死なせたくはなかった。
生まれついて宿していた生と死を司るソウルイーター。
その裏秘術である蘇生の力を持つ術、『エターナル:インフィニティ』。
味方と判断した者でかつ生きたいと願う者であれば…その肉体を蘇生できるものだ。
ただしそれは術者の余命を削ってかける大きな術だった。
今の自分では、ギリギリまで命を削ってもこの忍びの里の半分が限界だっただろう。
もちろんそう簡単には死なないと思っていたし、死ぬ気もなかった。
それは自信であり未練であり目的を果たそうとする心だった。
だから…その術を使うときに躊躇いはなかった。
自分の手さえも見えぬ白い光の中、静かに魔力を解放する。

この戦いが終われば、ソウルイーターを封印する方法を求めて、ミレナと共に異大陸へ向かう。
そして必ず封印をやり遂げてこの大陸に帰ってくる。
もうこの次に為すべき事は決まっているのだ。

マスターの魔力が、白い光と均衡しながらゆっくりと広がっていく。
生きたいと願う者、その願いを支えるために……。

<アプリル編>
「セインさん…ボクにも何も言わないで、いったいどこに行っちゃったんだよ……」
最終戦を終えて。
廃墟となった里の中で、唯一まともな形で残った茶室の窓からアプリルは外を見つめていた。
あの日、あの戦いの最後の光の中でその姿を見たまま、セインは居なくなった。
自分のことが要らなくなったのではないと信じているけど。
側に居ないとやっぱり不安になる。
無事でいると信じているけれど。
一緒に居れないとどんどん悪い事も考えてしまう。
「1人はイヤだよ……」
アプリルは膝を抱えて座り込んだ。
視界の端にセインの大切にしていた湯呑みが映る。
それに結ばれた水色のリボンは、セインの誕生日にアプリルがあげたものだ。
「こんなのってないよ…。ボクはセインさんを助けに来たのに……」
エルディスから手紙が来ていた。
『エルヘブンの街で待ってる。』
どこへ行くのかはその手紙からは分からなかったが、たぶんエルディスは待ってくれているだろう。
すぐにエルヘブンに行きたかったが、ここに残ったのはセインのことも放ってはおけなかったため。
そうして1ヶ月半。セインの手がかりは依然として何もない。
あれからずっと消息を絶ったままだ。
泣きそうになって、アプリルは勢いよく首を左右に振った。
「セインさんは生きてる。絶対、どこかで生きてるよ!」
倒れた竜の巨体以外、誰の遺体も見あたらなかったのだから。
「セインさんは…覚悟を決めてたのかもしれないけど……」
戦の中でどういう巡り合わせかセインとはすれ違いばかりだった。
だからセインが何を考えていたのか、何をしようと思っていたのか、アプリルには本当のところはよく分からない。
それでも。
「ボクは信じたい…ううんっ、信じてなきゃいけないよ!」
たとえ誰もがセインはもう生きてはいないのだと言っても。
この目で見ない限りは信じ続ける。
「今は、そう…何かちょっと訳があって帰って来れないだけかもしれないよ!」
アプリルは勢いよく立ち上がった。
リボンがかかった湯呑みをじっと見つめる。
「セインさん。帰ってきたらまた一緒に旅をしようよ。セインさんとボクとエルの3人で…」
…カタン。
茶室の扉が閉まった。
誰も居なくなった茶室の中で。窓から吹き込んできた風に、水色のリボンが静かにそよいでいた。

<くうぱあ・リュウ編>
「やあ、しばらく」
くうぱあが里の入り口で手を上げた。
「あ〜!ご主人! 久しぶりです〜♪」
それを目にして嬉しそうに笑うリュウ。
その笑顔を久しぶりに見て、くうぱあの顔も綻ぶ。
「うん、久しぶりだ」
最後の戦いが終わった後、2人はそれぞれに旅に出ていた。
くうぱあは自分を見つめなおす旅に。リュウは産まれ故郷に。
「元気だったかい?」
くうぱあはリュウの頭を撫でた。
しばらく見ないうちに、里は人の居ない廃墟になっていた。
里に住んでいた人間達は、まだ戦が終わった事を知らないのだろうか?
それとも戦いの中で聞いたように、里長の手の内に落ちて殺されてしまっていたのだろうか?
里長も忍びたちもすべてが死んだ今となっては、本当のところは分からない。
「……セインさんはまだ帰ってきてないようだね」
セインがこの里に居れば、もう少しここは賑わっていただろうと思う。
セインは寂しがりやだから。
1人でなんか居られる人間じゃないと分かっているから。
「……生きてますよね?…」
少しだけその瞳に不安な色を宿して、リュウが朽ち果てかけた工房の影を見つめた。
「そうだねぇ。あの人のことだから、実はもうそこらに帰ってきていて、影で私たちを観察しているかもしれないよ」
「何かまためちゃくちゃなことを思っていそうですね(笑」
「変な気を使って出て来れないのかもしれないね。まったく、困った人だよ」
リュウの顔に笑顔が戻ったのを確認してほっと内心、安堵しながら。
くうぱあは考えていた。
戦の中で消息が分からなくなった人間は他にも何人か居る。
しかし、そのうちの数名は、どこかの街や旅先でその姿を目撃されたと聞いた。
この半年、まったく消息不明のままなのは、どうやらセインだけだ。
「……まったく、どこでどうしているんだろうねぇ…」
リュウには分からないように小さく、ため息混じりの呟きが漏れる。
セインが何も言わず里から消える可能性は低いように思えた。
何かにつけ、もうアプリルに黙って旅には出ないと公言していたセインだから。
そうでなくても戦いが終わった後に、顔ぐらいは見せるだろう。
あの白い光にすべてが呑まれてから、誰も……セインの姿を見ていないなど。
通常の事態とは思えない。
「……まあ、あの人は普通じゃないからねぇ…」
「ご主人? 何をぶつぶつ言ってるんですか?」
横を歩いていたリュウが不思議そうに見上げてくるのに気がついて、くうぱあは何でもないよと微笑んでみせた。
花が咲き乱れる小さな塚のところまで来て、2人は手を合わせる。
元は里長の屋敷があったここに、桔梗の墓を作ったのは誰だったか。
「セインさん、早く帰ってきてくれるといいですね。茶室に座ってお茶を飲んでるセインさんが居ないと、何か変な感じです〜」
「そうだね。まだ着せていない衣装もあるし」
「あ、そうですね〜」
リュウが生き生きと目を輝かせ出す。
茶室で眠ってしまうセインで、よく着せかえして遊んだ。
くうぱあの手元にはその時の写真が何枚も残っている。
「…久しぶりにここへ来たんだし、せっかくだからあちこち見て回るかい?」
「そうします?」

桔梗の墓に背を向け、リュウと廃墟の中を歩きながら。
くうぱあは心の中で呟いた。
(セインさん…早く戻ってきてくださいよ? でないと約束を破ったものとして罰ゲームしてもらいますからね)

<ジェラールの話>
「あれからもうすぐ1年が経つんだなぁ…」
ジェラールは里の入り口で空を見上げた。
「時間が経つのって早いよな」
にわかに周囲がいろいろと忙しくなる中、何とか時間を作っては里の様子を見に来ていた。
この前来たのが3ヶ月前。
すっかり里の季節は変わってしまっている。
「いなくなった人間もいるし、最近…何か寂しいな……」
呟きながら微苦笑を漏らす。
この里の戦も、大陸全土での戦いも終わり、旅に出るものは多かった。
修行へ故郷へ、新たなる戦いの場へ。
家はないけれど自分もしばらく帰ってみようかと思ったりしながら、忙しさの中で時間は過ぎていった。
お土産を持参して、もうこの大陸へ帰ってきた者もいる。
「…セインさんも……早く帰ってくればいいのにな」
死んだとは思えない。
遺体を見ていないというのもあるが、それだけじゃなく直感のようなもので。
いや、それよりもたぶん、自分はそう信じたいのかもしれない。
諦めるのは何か悔しい気もするし、その時点で負けのような気がするから。
「セインさんとは、まだもっと…話したいんだよ……」
ひとり言が風に流されていく。

里の戦が終わって、一年。
まだセインの行方はようとして知れなかった。

<本編に戻る>

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