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〜本文の前に〜
メイド祭り開催記念!
何とか機で作ったメイドさんがあちこちで流行っているようなので、うちでも作ってみました。
そしてそれに合わせて、悪乗りした文章を書いてみました。
この世界にはないだろう怪しいカフェが登場します。
苦手な方は回れ右でお願いします。
※メイド祭りはファーネルの某酒場発端です。
一部、話の流れをチャットより使わせていただきました。
なお、カフェの設定はお好きに使ってください。
(使う人は居ないと思われますが、一応(笑))
では、文章へどうぞ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ええと…ご、ご主人さま…?」
恥ずかしそうに頬を少し染めて、少女が繰り返す。
それに対し、前に立っている妙なヒゲの男がちちち、と舌打ちをしながら立てた人差し指を振った。
「違いマース。メイドのココロは『ご奉仕させていただきます』という気持ちなのデス。
『おかえりなさいませ、ご主人様』という短い言葉に秘められた清楚さ、品性、そして癒し!これこそおもてなしの真髄なのデース!」
ここは首都ファーネルの片隅にある小さなカフェ「チェリー・ぷらんたん」。
最近オープンしたばかりだが、主に男性層の支持を受けて妙に賑わっていたりする。
その理由の一つがウェイトレスたちの制服。そして彼女たちの言葉遣いであった。
「おっ…おかえりなさいませ〜、ごごご主人さま」
不慣れな言葉につっかえながら、少女がぎこちない微笑みを浮かべた。
再びヒゲの男がちちち、と指を振る。
「もう一度デース。恥じらいは敵だと思うのデス!」
「そ、そんなこと言ったってさ〜…私はこういうのは…」
「ノン!口答えはだめデス。返事は『かしこまりました、ご主人様』デス」
少女はため息をつきながら、ほどけかけたエプロンドレスのリボンを結びなおした。
何でこんなことになったのだろう…。
逃げ出したいと痛烈に思いながら、少女はまた挨拶の練習に戻った。
事の始まりは一週間前。
何故か一部の冒険者の間で、メイド祭りなるものが企画され、性別問わずメイド服を着用するものが現れ出したことだった。言い出したのはやはり一人の冒険者で、花見の季節の余興にと服飾店にメイド服を依頼したらしい。それがどんどんと広まりを見せ、ファーネルの港通りにはメイドさんたちが集う酒場があるという噂まで出るようになっていた。
そして今、カフェの従業員控え室で給仕の姿勢を指導されているこの少女、メイリーンもまた、その騒ぎに巻き込まれた一人だった。酔っぱらった勢いでOKしてしまい、断るに断れずそれを着用したその夜。
何を誤解したのか買出しに出ていたカフェのオーナーに捕捉され、今に至る。
「…まったく、こんなとこ兄貴とかには絶対見せられないよー…」
オーナーが呼ばれて店に出て行ったのを確認し、ようやくメイは一息ついて腰を下ろした。
自分の姿を見下ろして、またため息が零れる。
ひらひらのレースをあしらい上品に仕立て上げられた服は、確かに可愛いと思う。
だがそれが似合うかどうかはまた別問題だった。
「スカートだってあんまり着たことないしさ。こういう頭飾りもするの初めてだよねぇ」
窓ガラスに映った自分の頭の上で揺れたホワイトプリムを指先でちょんとつつく。
部族の中で忌み子でしかなかった彼女は当然遊ぶような女友達もなく、物心ついたときにすでに母親も居なかったため、少女らしく着飾る機会に欠けていた。
追放された後も生きていくのに必死で、服装にあまり構っている余裕などなかったのだ。
「と、とにかく!早くあのヒゲの誤解を解いて、さっさと帰るべきだよね!」
メイは気合を入れるようにグッと拳を握りしめる。
今日ここに雇われるはずだったウェイトレスの本物が現れてくれれば話は早いのだが、なかなかそんな気配は見えない。
「こうなったら強行突破でもして…」
ガタン、と音を立てて彼女が立ち上がった時、運悪くオーナーが戻ってきた。
何かあったのかぶつぶつと言いながら自慢らしいヒゲを引っ張っていたが、少女の姿を目にしてすぐにポンと手を叩く。
「我ながらいい手デース。さすが私デス」
「え、ちょ、ちょっと…?!」
そそくさと手を取られ、呆気にとられていたメイは慌てて振り払おうとしたが、一見非力そうなオーナーの力は意外と強かった。
ずるずると引きずられるように店の中へと向かいながら、メイの頭の中は混乱でいっぱいだった。
挨拶もまともに出来ないようなウェイトレスを店に出すとは思ってなかったから、多少油断していなかったとはいえない。
「こ、こんなことなら、窓からでも強引に逃げとけばよかったー…」
メイは泣きそうになりながら、小さな声で呻いた。
こうなったら、とにかく店に出てから何か用を見つけて外へ出るしかないだろうか。
穏便に逃れる方法を考えていたが、こうなったらなりふり構っていられない。
引っ張る力が止まり前に押し出されて、メイは思わずつぶっていた目を開いた。
店の中は想像していたよりは落ち着いた雰囲気だった。
洒落た内装に暖かな明かり、邪魔にならない端の方で楽士が緩やかな音楽を演奏している。
促すようにぐいっとオーナーに肘でつつかれ、メイはハッと我に返ってとりあえずお辞儀をした。
「い、いらっしゃ…じゃなかった、おかえりなさいませ、ご主人さ…ま………」
やや早口で何回も練習させられていた言葉を口にしながら、顔を上げかけて思わず息を呑む。
前に座っている男も唖然とした顔で、目を見開いていた。
「あ、兄貴っ?!何でこ…っ?!」
見覚えがありすぎる男を指差し、声を上げかけた少女の首根っこをオーナーが焦ったようにぐいっと下に押さえる。
「ご・し・ゅ・じ・ん・さ・ま!何度言わせたら分かるのデス!」
「だっ………」
オーナーのすごい勢いで咎めるような視線を受け、メイは言いかけた言葉を飲み込んだ。
「かっ、かしこまりっました…!」
代わりに口にした言葉はひどく裏返ったが、オーナーが頷くのを見てほっとする。
その一部始終をやはりまだ呆気にとられたように見つめながらも、男は何も口を挟まなかった。
「いいデスネ?メイドのココロを忘れないことデース!」
小声で少女の耳元に囁き、オーナーは彼女を置いて別の卓へと向かう。
そこで初めて男が口を開いた。
「…こんなとこで何してるんだ」
やや不機嫌そうな男―彼女の兄の声に、メイはどうしていいか分からず項垂れた。
to be continued...