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ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
 
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5、「救い」

太陽が雲に隠れたのか、すうっと周囲が薄暗くなった。
その中で男の大きな翼が、まるで光でも放っているように白く目を引き付ける。
だがそれはところどころ返り血で汚れていた。
その点々と飛んだ赤を見ていると、何故かきゅっと胸が締め付けられる。
レンはあとほんの数歩前に進めば短剣の先が額に触れそうな距離で足を止めた。
上方を無理に見上げ続けているせいか少し首が痛い。
「刺せないよね。だって僕を殺しても意味がないもん」
もう一度言葉を変えて男に投げかける。
「僕には翼がないから…だから刺す理由なんてないもんね?」
レンの言葉の途中から、明らかに男の表情が変わっていた。
静かだったその目に、感情の揺れが見え隠れする。
方向は間違っていない。
レンはそれをちくりと胸を刺した痛みとともに受け止めた。
『翼』。それがこの目の前にいる男と、村に居る人たちにとって一種のキーワードとなっているようだ。
「僕は有翼人じゃなくて、この村で何があったのかも知らないから…僕が何か言っても受け入れられないかもしれない。でも…僕も異端、だよ?」
レンはもう一歩を踏み出す。
僅かに短剣の先が揺れた。
「人と違うことは後ろめたいことじゃない。責められることでもないよ。…みんな弱いから、自分と違うものを拒否してしまうことも多いけど…」
それでも、と付け加える。
「全員がそうじゃないよ」
「…この村のやつらは全員そうだ」
ぼそり、とようやく男から反応が返ってきた。
「いや真実を知れば…おそらくこの村のやつらだけじゃなく……」
そう言った後、男はレンにくるりと背を向ける。
いつの間にかあの老人は、周囲の村人たちに保護されていた。
「ちっ…殺り損ねたか……」
憎々しげな呟きが降ってくる。
レンを殺す気は無くした様だが、告げた言葉は何一つ届いていないようだった。
そのことにレンは目を伏せる。
男のいう真実とやらを知らない限り、説得することは無理なのかもしれない。
ぼんやりと光り出した自分の身体を見下ろし、ため息が零れる。

もし、またいつか同じ時にたどり着くことが出来るなら、その時には何かもっと違うことが言えるだろうか?
いつもいつも…自分は何も出来ないけれど、それでも自分のこの力に何か意味があるのだと信じたい。
この力があるおかげで誰かを救うことが出来るのだと信じたい。

レンは目を閉じた。
きっと受け入れてくれる誰かが居る。
どんな人でも…どんな行為でも、受け止めて見ていてくれる誰かが居る。
そしてその誰かに自分もなりたいと思った。
静かに自分を包む空気が溶けていった。

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