ある時代の流れの中に存在した、ひとつの研究施設を軸にしたキャラ紹介と物語。「戻る」はブラウザBackかパン屑リスト使用推奨です
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そこは真っ暗な世界だった。
風も音もない本当の静寂。
そこに彼女は居た。
「何や、気味悪いとこやなぁ…」
風夏は自分の腕を抱き、ぶるっと身体を震わせた。
裸足の足の裏に触る感触はビロードのように滑らかで、自分が何の上に立っているかすら明らかではない。
「ウチ、何しとったんやっけ」
眉をひそめ少し考えてみたが、何も思い出せなかった。
今が昼か夜かの判別もつかない。
「まあええわ。歩いとったら何か分かるやろ」
方向も分からない闇の中へ、風夏はそうっと足を踏み出した。
滑らかな足元が音も吸い取ってしまうためか、自分が歩いていることさえ分からなくなりそうだ。
「ライターでも持っとればよかったわ」
周囲が見えれば少しはこの気味悪さも不安定感もなくなるのだろう。
そんな保障はないが、風夏は何となくそう思った。
延々と時間が過ぎていく。
歩いても歩いても周囲に何の変化も窺えない。
「ひぁ?!」
風夏は首筋を通り抜けた生温い風に、思わず悲鳴を上げた。
慌てて後ろを振り向く。
「だ、誰や!」
誰何の問いに返る答えはない。
依然として薄らぐ様子のない闇に、風夏はさすがにかすかに恐怖を覚えた。
いつものクセで右の薬指に触れ、そこに慣れた指輪の存在を感じてハッとする。
「リェン!そうや、あんたがおったやないかー!」
意識を集中して炎の精霊を喚ぶ。
奇妙な闇にすっかり気を取られ、ライターなんかよりよっぽど強い明かりの存在を忘れていた。
指輪からゆらりと立ちのぼったオーラが一瞬で爆発し、視界を赤く染める。
炎がまるで闇色の紙に鋏をいれた様に、すぱっと闇を切り裂いた。
風が、そして音が風夏の周囲に戻る。
…ドクン…ドクン……。
どこかで聞き覚えのある音が耳を支配し…風夏は目を見開いた。
「ここは何や?!」
左右の壁際にずらりと揺りかごのようなものが並んでいた。
少し近づいてみれば、それらの中にはすべてすぅすぅと眠る赤子が見える。
「…託児所かいな…?」
風夏は少しの気味悪さを覚えながら、リェンの炎を壁にあった燭台に移した。
延々と続くかに見える通路、それに沿ってずっと並べられた揺りかご。
恐る恐る一つの揺りかごを覗き込み、小さな手をつついてみた。
きゅうっと反射的にかその指が握りしめられる。
ほわん…と風夏の胸に火が灯った。
気味悪さや警戒がすべて溶け去っていく。
暖かなぬくもり、生きている鼓動。
「赤ちゃんはホンマ、可愛ええな〜」
近所のお姉さんに赤ちゃんが出来た時、せがんで抱かせてもらったのを急に思い出した。
風夏は微笑んで、今度は赤ちゃんの頬をつつく。
「目え開けへんかな」
風夏の声が聞こえたかのように、その赤ちゃんが目をパッチリと開いた。
透き通った深い緑の瞳が彼女を見返す。
突如、ぞくっと背筋を悪寒が走った。
無数の視線を感じ、風夏は居心地悪げに周囲に目を向ける。
「………ひ?!」
向かい側の揺りかごの隙間から覗く瞳と目が合って、思わず喉の奥から小さな悲鳴が零れた。
手を握っている赤ちゃんの前後に居る赤ちゃんからも、刺すような視線が返ってくる。
それらはすべて寸分違わぬ緑色の瞳で、そこに感情の色がないこともまったく同じだった。
人形のように透き通ったガラス玉の集団に見つめられて、風夏は引きつった笑みを浮かべる。
一番近くに居る赤ちゃんに握られたままの指先に、ちりっとした熱さを感じ慌てて振り払った。
「あっ、か、堪忍な……っ?!」
すぐに自分より弱者にした仕打ちに後悔の気持ちが生まれるが、その後悔がまったく無用であったことはすぐに知れる。
風夏の前に居た赤ちゃんは、どろどろとしたゼリー状の塊になっていた。
まるで形を形成していた何かが外れ、溶けてしまったかのように…。
そして風夏から見えるすべての揺りかごの中身が同じくであることも疑いようのない事実だった。
「な、何やの…」
風夏は思わず後ずさりする。
…まだ風夏が今居る場所の形はようとして知れなかった。
揺りかごの中のゼリー状の物体が、ぴしゃん…と床に落ちた。
風夏は反射的に指輪を突き出す。
「近づいたら黒焦げになるかもしれへんでっ!来んといてや!」
相手がこういう形状になる前の姿が頭を過ぎったのか、問答無用で炎を放つことはしなかったが。
それでも目の前の物体はとても人には見えなかった。
ずり…緑色のスライムが床を這う。
「来んといてって言うてるやろ…っ!」
風夏は上擦った声を上げた。
他の揺りかごの物体はとりあえずは大人しくしてくれているが、そっちも出てきたら…と思うとぞっとする。
スライムを刺激しないように、風夏はそろそろと後ろに下がった。
両端に揺りかごがあるため、逃げ場は直線コースの向こう側しかない。
逃げ切れるやろか…?
風夏の頬を冷や汗が伝った。
この揺りかごの列がどこまで続いているかも分からないのだ。
「うくぁくぁくぁくぁ!」
突然、耳を塞ぎたくなるような理解不能の音がその場に響き渡る。
それは壁に当たって幾重にも反響し、思わず風夏は両耳を塞いだ。
「なっ、何やのっ?!」
もう勘弁してほしい。
ワケの分からない不気味な出来事の連続に、泣きそうになる。
「うくぁくぁくぁ!」
「うくぁくぁ!」
その声に応えるように、他の揺りかごの中からもその声が返ってきた。
…そうだ。これは声、だ。
耳を塞いでもその上から聞こえてくる音を、風夏はそう理解する。
理解したと同時にそのあまりの大音響と…そして押し寄せる感情の限界に絶叫した。
「リェンっ!こんなん全部焼き尽くしてやっ!!もうイヤやっっっ」
風夏の小柄な身体を中心に紅い閃光が走った。
一瞬ののち、それは轟音と共に爆発する。
激しい爆風がすべてを薙ぎ払い、与えられた高熱に跡形も残さず蒸発した。
そして…すべてが闇に戻った。
数日後。
「あれ、何やったんやろなぁ…」
風夏はリェンの指輪を眺めながら呟いた。
何度か壁に激突したりもしたが闇の中を無我夢中で走って、気がついたら寮の前に立っていたのだった。
「まあ、ええか。行こう思っても場所覚えとらへんし、そもそもあんな気味悪いとこ行きたないわ」
回想を早々に風夏は目の前の歩行雑草に向き直る。
こいつらもそれはそれで気味悪い生物だが…。
「まあ、あの変な生きもんに比べれば、可愛げがあるっちゅーもんや」
笑いながら、風夏は指輪に念を込めた。
いつもの戦闘の始まりだった。
風も音もない本当の静寂。
そこに彼女は居た。
「何や、気味悪いとこやなぁ…」
風夏は自分の腕を抱き、ぶるっと身体を震わせた。
裸足の足の裏に触る感触はビロードのように滑らかで、自分が何の上に立っているかすら明らかではない。
「ウチ、何しとったんやっけ」
眉をひそめ少し考えてみたが、何も思い出せなかった。
今が昼か夜かの判別もつかない。
「まあええわ。歩いとったら何か分かるやろ」
方向も分からない闇の中へ、風夏はそうっと足を踏み出した。
滑らかな足元が音も吸い取ってしまうためか、自分が歩いていることさえ分からなくなりそうだ。
「ライターでも持っとればよかったわ」
周囲が見えれば少しはこの気味悪さも不安定感もなくなるのだろう。
そんな保障はないが、風夏は何となくそう思った。
延々と時間が過ぎていく。
歩いても歩いても周囲に何の変化も窺えない。
「ひぁ?!」
風夏は首筋を通り抜けた生温い風に、思わず悲鳴を上げた。
慌てて後ろを振り向く。
「だ、誰や!」
誰何の問いに返る答えはない。
依然として薄らぐ様子のない闇に、風夏はさすがにかすかに恐怖を覚えた。
いつものクセで右の薬指に触れ、そこに慣れた指輪の存在を感じてハッとする。
「リェン!そうや、あんたがおったやないかー!」
意識を集中して炎の精霊を喚ぶ。
奇妙な闇にすっかり気を取られ、ライターなんかよりよっぽど強い明かりの存在を忘れていた。
指輪からゆらりと立ちのぼったオーラが一瞬で爆発し、視界を赤く染める。
炎がまるで闇色の紙に鋏をいれた様に、すぱっと闇を切り裂いた。
風が、そして音が風夏の周囲に戻る。
…ドクン…ドクン……。
どこかで聞き覚えのある音が耳を支配し…風夏は目を見開いた。
「ここは何や?!」
左右の壁際にずらりと揺りかごのようなものが並んでいた。
少し近づいてみれば、それらの中にはすべてすぅすぅと眠る赤子が見える。
「…託児所かいな…?」
風夏は少しの気味悪さを覚えながら、リェンの炎を壁にあった燭台に移した。
延々と続くかに見える通路、それに沿ってずっと並べられた揺りかご。
恐る恐る一つの揺りかごを覗き込み、小さな手をつついてみた。
きゅうっと反射的にかその指が握りしめられる。
ほわん…と風夏の胸に火が灯った。
気味悪さや警戒がすべて溶け去っていく。
暖かなぬくもり、生きている鼓動。
「赤ちゃんはホンマ、可愛ええな〜」
近所のお姉さんに赤ちゃんが出来た時、せがんで抱かせてもらったのを急に思い出した。
風夏は微笑んで、今度は赤ちゃんの頬をつつく。
「目え開けへんかな」
風夏の声が聞こえたかのように、その赤ちゃんが目をパッチリと開いた。
透き通った深い緑の瞳が彼女を見返す。
突如、ぞくっと背筋を悪寒が走った。
無数の視線を感じ、風夏は居心地悪げに周囲に目を向ける。
「………ひ?!」
向かい側の揺りかごの隙間から覗く瞳と目が合って、思わず喉の奥から小さな悲鳴が零れた。
手を握っている赤ちゃんの前後に居る赤ちゃんからも、刺すような視線が返ってくる。
それらはすべて寸分違わぬ緑色の瞳で、そこに感情の色がないこともまったく同じだった。
人形のように透き通ったガラス玉の集団に見つめられて、風夏は引きつった笑みを浮かべる。
一番近くに居る赤ちゃんに握られたままの指先に、ちりっとした熱さを感じ慌てて振り払った。
「あっ、か、堪忍な……っ?!」
すぐに自分より弱者にした仕打ちに後悔の気持ちが生まれるが、その後悔がまったく無用であったことはすぐに知れる。
風夏の前に居た赤ちゃんは、どろどろとしたゼリー状の塊になっていた。
まるで形を形成していた何かが外れ、溶けてしまったかのように…。
そして風夏から見えるすべての揺りかごの中身が同じくであることも疑いようのない事実だった。
「な、何やの…」
風夏は思わず後ずさりする。
…まだ風夏が今居る場所の形はようとして知れなかった。
揺りかごの中のゼリー状の物体が、ぴしゃん…と床に落ちた。
風夏は反射的に指輪を突き出す。
「近づいたら黒焦げになるかもしれへんでっ!来んといてや!」
相手がこういう形状になる前の姿が頭を過ぎったのか、問答無用で炎を放つことはしなかったが。
それでも目の前の物体はとても人には見えなかった。
ずり…緑色のスライムが床を這う。
「来んといてって言うてるやろ…っ!」
風夏は上擦った声を上げた。
他の揺りかごの物体はとりあえずは大人しくしてくれているが、そっちも出てきたら…と思うとぞっとする。
スライムを刺激しないように、風夏はそろそろと後ろに下がった。
両端に揺りかごがあるため、逃げ場は直線コースの向こう側しかない。
逃げ切れるやろか…?
風夏の頬を冷や汗が伝った。
この揺りかごの列がどこまで続いているかも分からないのだ。
「うくぁくぁくぁくぁ!」
突然、耳を塞ぎたくなるような理解不能の音がその場に響き渡る。
それは壁に当たって幾重にも反響し、思わず風夏は両耳を塞いだ。
「なっ、何やのっ?!」
もう勘弁してほしい。
ワケの分からない不気味な出来事の連続に、泣きそうになる。
「うくぁくぁくぁ!」
「うくぁくぁ!」
その声に応えるように、他の揺りかごの中からもその声が返ってきた。
…そうだ。これは声、だ。
耳を塞いでもその上から聞こえてくる音を、風夏はそう理解する。
理解したと同時にそのあまりの大音響と…そして押し寄せる感情の限界に絶叫した。
「リェンっ!こんなん全部焼き尽くしてやっ!!もうイヤやっっっ」
風夏の小柄な身体を中心に紅い閃光が走った。
一瞬ののち、それは轟音と共に爆発する。
激しい爆風がすべてを薙ぎ払い、与えられた高熱に跡形も残さず蒸発した。
そして…すべてが闇に戻った。
数日後。
「あれ、何やったんやろなぁ…」
風夏はリェンの指輪を眺めながら呟いた。
何度か壁に激突したりもしたが闇の中を無我夢中で走って、気がついたら寮の前に立っていたのだった。
「まあ、ええか。行こう思っても場所覚えとらへんし、そもそもあんな気味悪いとこ行きたないわ」
回想を早々に風夏は目の前の歩行雑草に向き直る。
こいつらもそれはそれで気味悪い生物だが…。
「まあ、あの変な生きもんに比べれば、可愛げがあるっちゅーもんや」
笑いながら、風夏は指輪に念を込めた。
いつもの戦闘の始まりだった。
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